ザ・グレート・展開予測ショー

冷たく降る雨(4) そして、伝説へ(何がだ)


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/11)


 微かな息遣い。
 柔らかな感触。
 溶け込むように。
 二人が、染み込んでいく。
 不思議なくらい、それが自然で。
 悲しいくらい、優しくて。
 抱きしめる手が、自然に。
 彼女の背に回ってた。






 『恐れることは無いんだって』

 囁く心の中の悪魔。

 『恥をかかせるつもりか?』

 吼える心の中の天使。



 てめえら二人揃って・・・。


 そして、放り投げた・・・俺の良心。



 頂きます。

 心の中で呟いて。





 もう一度、ぎゅっ、と彼女の体を抱きしめる。
 僅かな抵抗。でも、すぐにそれも無くなって。
 首筋に鼻を埋める。
 やや痩せぎすで華奢な身体、でも、柔らかくて・・・。
 シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
 甘い―――心がふにゃふにゃになりそうだった。

 そして、彼女の体をそっと離す。

 見つめる先にあるのは、ほのかに香る胸元。

 ごくっ、と咽喉を鳴らして―――。

 視線を、上げる。





 ・・・



 「・・・寝てる」

 そこにあるのは、涎を垂らして眠る彼女の顔だった。
 子供っぽくて、思わず笑ってしまうほど・・・。
 綺麗と言うより、寧ろ可愛くて・・・。





 くくく・・・





 ふふふっ・・・





 だははははははははは










 「抱いて・・・かぁ。おキヌちゃん、無理してんじゃねーかなぁ・・・」



























 「あの・・・」

 翌朝。

 私は横島さんが縁側で日向ぼっこしている横に、急須と湯呑み茶碗を乗せたお盆を持ち立っていた。
 ぽけー、とした表情で横たわる彼の姿はどこか悲哀に満ちていて、声をかけるのに躊躇いを感じたけれど、声をかけずにはいられなかった。

 気まずさを―――今だけは忘れて。

 「・・・横島さん?」

 ゆっくりと、彼の首が私のほうを向く。

 「・・・おキヌちゃん?」

 隈の浮いた彼の顔は焦燥しきっていて、人生に疲れた人のようだった。
 いつもは、無駄なくらいに―――あ、いえ、悪い意味ではなくて―――元気なのに・・・。

 私のせいなのかもしれない。

 私が・・・寝ちゃったから。

 「横島さん、ごめんなさい」

 「?」

 「私・・・寝ちゃって・・・」

 「あ・・・」

 そこで、彼の顔に生気が浮かぶ。
 その事に喜びつつも、その後に浮かぶであろう表情が恐かった。
 怒ってくれてもいい。なじってくれても。
 でも―――嫌いにならないで欲しい。


 そして―――

 そこに浮かんだのは―――真っ赤な顔だった。
 判断しづらいです。
 ・・・照れてるんですか?
 でも、どうして?

 「あ、あのさ・・・」

 彼は照れ笑い(だと思います)を浮かべて、そのまま俯いてしまった。
 木の木目に目線を向けながら、言葉を探してる。
 その間にも、私の不安は募ります。

 「何です?」

 「御茶・・・くれない?」

 焦れる心はそのままに。そんな台詞を言う彼に、私は批難の眼差しを送りました。
 彼は俯いていて、そんな私の視線になんて気付いてはいなかったみたいですけど。

 「はい」

 急須の中の御茶をとことこと湯呑みの中に注いで、彼に手渡します。温めの御茶。彼の好きな人肌の温度。いつか、この温度が落ち着くんだよね、と言っていた彼の言葉を思い出し、何となく、頬を緩めてしまいます。

 「ありがと」

 笑みを浮かべ、御茶を受け取る彼。
 その時に手が触れ合って私は少し慌てました。
 でも、彼は平然と御茶を口元に運び、ずずず、と啜り始めました。

 変に意識したみたいで恥ずかしい。
 でも―――。

 「あの・・・横島さん?」


 「あの・・・さ」

 「はい」

 「俺は・・・」

 「はい」

 「・・・分からなかったんだ。うん」

 「分からなかった?」

 何のことです?

 「自分の気持ちとか。そういうの。整理するの、苦手で・・・」

 「?」

 何が言いたいんでしょう?

 「つまり・・・さ」

 「はい?」

 「俺、気付いたんだよ」

 「はぁ・・・」

 気付いたって・・・何にです?

 「本気なんだって・・・」

 「・・・えと」

 あの・・・?

 「俺、おキヌちゃんの事、真剣に・・・本当に・・・好きだってさっ!」

 あの・・・つまりは・・・そう言う事で・・・。

 「・・・キス、したんだ。唇じゃなかったから・・・ファーストキスって事には・・・ならないと思う」

 キスきすきすきすき・・・キスぅ!?

 「あ、あのぉ!?」

 「ごめんっ!怒るかもしれないけど・・・寝てる間に・・・おでこに・・・」

 怒るも何も・・・それなら・・・。
 起こしてくださいよぉ・・・。
 起こしてくれたなら・・・起きて・・・唇に・・・。



 ぽっ。





 今・・・起きてますよね。私達。

 それなら・・・問題ないです。

 えへへ・・・。



 「あの・・・ごめんね。でもさ・・・目の前に好きな女の顔があれば・・・さ・・・」

 「ゆるしません♪」




















 ちゅっ






 だはっ・・・



 横島さんっ!?



 たら〜・・・
























 「大丈夫ですか?横島さん・・・」

 「うぅ・・・大丈夫・・・だと思う・・・でも・・・ちょっと・・・血が足りない・・・」

 「ごめんなさい・・・晩御飯・・・すぐ用意しますから」

 「血液補給しないと・・・死ぬかも」

 多分、それはないと思うけど。

 とるるるるる・・・とるるるるる・・・

 「あ・・・電話・・・」

 「取ってきます」

 「うん」





 「・・・えっと。事故があって・・・帰れないの?」

 「・・・が・・・頑張れって・・・何を言ってるのよ・・・お姉ちゃん」

 「あ、あのねぇ・・・もう・・・」




 がちゃっ


 ぱたぱた・・・




 「あ・・・おキヌちゃん。電話・・・なんだったの?」


 「お姉ちゃんからです・・・」


 「へ〜・・・」














 「・・・皆、一週間は帰れないって・・・」

 「・・・へ?」

 「あの・・・横島さん・・・女の子が一人でお留守番って・・・危ないですよね」

 「うん・・・まぁ、そうだね」

 「今日・・・いえ、しばらく、泊まってって下さいっ!」

 「えと・・・」

 「つ・・・続き・・・してください」







 ・・・





 ・・・




 ・・・がはっ。


 きゃっ・・・横島さんっ!!






 四度、血の海の中に沈む彼の姿を見ながら―――私は―――。
 長いお休みの中で築かれるであろう二人の新しい関係に思いを馳せてた。

 ―――じゃぁ・・・今まで本気じゃなかったんですかっ!?何て、そんな言葉は飲み込んで。

 ・・・好きなら。良いですから。

 だから、私を離さないで―――。










 冷たく降る雨・・・。
























































 正式タイトル

 『おキヌちゃん英雄伝説』

 完。


























 続かないと思われます。

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