ザ・グレート・展開予測ショー

#ルシオラ救済SS!『鋼の騎馬は静かに眠る編』


投稿者名:矢塚
投稿日時:(03/ 4/10)




 ――人間のみが心を所有するというのであれば、間違い無くそれも人間と呼ばれるであろう――



「今だ、ルシオラ――!!」
 東京タワー展望台上空にて、ルシオラに向けてべスパ渾身の霊波砲が放たれた刹那、ルシオラの盾となるべく横島は彼女の前に飛び出していた。
「ヨコシマ!」
 ルシオラ驚愕の叫び。
 そして、横島にべスパの一撃が命中すると思われた、その時。

『トランスフォーム!!』

 先ほどまで横島が乗っていたバイクが叫び、変形する! 
 わずか0.08秒の変形フェーズを経て、バイクが完全な人の姿に変形し、身を挺した横島のさらに盾となり、べスパの一撃を彼の代わりに浴びた。

「なにぃ――!?」×2

 横島とべスパの声がハモり、次の瞬間にはルシオラの霊波砲がべスパを貫いた。
 姉の一撃を受け、崩れゆく肉体と消えゆく意識の中でべスパは悟る。
「……くっ、……姉さんが逆天号の中で作っていたのは……あれだったのね……」
 べスパの脳裏に、逆天号の作業ルームでこつこつと何かを組み立てている姉の姿がよぎるが、その姿はすぐに消え去り、別の人物の顔が彼女の心を占領した。
「……アシュ様……」
 一言に、全ての思いを込めて呟いた彼女の体は、静かに輝く星に見送られ、地上に向かって落ちていった。

 突如乱入してきたものにより直撃をうけなかったとはいえ、べスパの攻撃は強力であり、その爆圧で横島は脳震盪を起こし気を失っていた。
 横島が朦朧と目を覚ましたのは、展望台の屋上ともいうべき場所であった。気を失ってからさほど時間はたっておらず、夜はいまだに深く深くこの街を覆っている。
 深夜の冷気が、朦朧とした彼の意識を呼び覚ましていく。
「あ……あれ!? 俺は――」
 完全に意識を取り戻した横島が周囲を見回すと、すぐ傍に沈痛な表情を浮かべたルシオラと、無残にも大破した人形の機械がタワーの鉄骨に寄りかかって座っていた。
「そうだ、こいつが俺をかばってくれたおかげで……」
 横島の疑問に満ちた呟きを受け、ルシオラが口を開いた。
「……このコは、可変大型自動二輪の『バクちゃん』よ……もともと、私の護衛と移動用に作り上げておいたの……」
「バクちゃん……そうか、ありがとう。助かったよ。バクちゃんがサポートしてくれてたから、俺でも簡単に運転できてたんだな……」
 彼女のその言葉をうけて、横島は大破したバクちゃんに礼を言った。
「イイエ。私ハ、使命ヲ果タシタダケデス。……ますたー・るしおらノ、愛スル者ヲ護レタノデス……私ハ、満足シテイマス……」
 途切れ途切れに、人工的な音声がバクちゃんから流れるが、その言葉には感情とも言うべきものがあるのを横島は確かに感じていた。 
「ルシオラ。バクちゃんは助かるのか?」
「……バクちゃんに込めた霊力は特殊なの。今この場では手に入れることは出来ないわ。それに、修理するにも道具が足りない……同じ機体なら後でいくらでも作れるけど、でも、今の記憶は失われてしまう……二度とは戻らない……」
 涙がにじんだ眼を、横島に向けるルシオラ。
「そんな、何とかならないのか!?」
 己の無力さを痛感し、横島は叫んだ。
「……私ハ大丈夫デス。残ッタ内臓霊力ヲ、せーぶもーどデ運用スレバ、朝マデハ持チマス。……デスカラ、ますたーハ、ますたーノ成スベキ事ニ、今ハ全力ヲ尽クシテ下サイ……時間ガ無イノデショウ?」
 横島の叫びを遮るように、バクちゃんは二人を促した。その言葉に、しぶしぶ二人は頷いた。確かに残された時間は少ない。
 アシュタロスの討伐が早く済めば済むほどに、バクちゃんの助かる可能性が高くなるのは間違いない。
「本当に……大丈夫ね」
「ウソだったらただじゃおかねーからな」
 バクちゃんの言葉に、それぞれが念を押すように聞く。
「大丈夫デス」
 その二人の言葉に、バクちゃんは答えた。二つのヘッドライトが人の目のように配置されたデザインで、表情などを浮かべることなど不可能ではあるのだが、横島とルシオラには何故か、バクちゃんがかすかな微笑を浮かべたように見えた。
 二人は、バクちゃんにもう一度念を押し、アシュタロス討伐戦に加わるべく、夜空に飛び出していった。
 自分の主人の姿が遠くなるのを見つつ、バクちゃんは呟いた。
「サスガニ限界デスネ。……ウソヲツイタ事……オ許シ下サイ……ますたー」
 バクちゃんの体から黒煙が立ち昇り始める。
「……ますたート一緒ニ、夕日ノ中ヲ走リマシタネ…………昼ト夜ノ一瞬ノスキマ……短イ間シカ見レナイカラコソ……美シイ……」
 バクちゃんのエンジン回転数が静かにおちていき、その鼓動がついに停止する。
 ヘッドライトの一つが落ちて、硬質な音を立てて転がったが、しかし、それに気づいた者は誰一人としていなかった。









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