ザ・グレート・展開予測ショー

卒業(7)


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 4/ 9)

12.
「忠夫、母さんこれからマンションの契約しに行ってくるわ」
 横島と入れ替わりに出て行く母が、すれ違いざまに囁いた。
 珍しくもスーツ姿の美神が、お茶を前に座っている。
「押し倒すんじゃないよ。あんたまだ半人前なんだから」
「な!?」
「あんたにそんな度胸無いと思うけどね。念のため」
 鼻で笑うと百合子は出て行った。

「バッカねーッ!!」
 美神が楽しげに言った。
「あんた、いつまでバイト気分でいるの?
 経費とか考えたら、時給千円でやって行けるわけないじゃない。
 そんなんじゃ先が思いやられるわね」
「元はと言えば、美神さんのせいじゃないスか」
 ボソッと言う横島。
「しょうがないわね。先生他にお金使いたいみたいだし。
 こっちは諦めなさい。
 その代わり、きちんと他で取り返すのよ」
「間に立ってくれるんじゃないんスか?」
「甘ったれんじゃないの!」
 美神がピシャリと言った。

「話し替わるけど、あんたまだGS免許取りに行ってないんだって?
 せっかくおぜん立てしてやったのに、あたしの顔を潰す気?」
 美神が軽く睨んで言った。
 途端に横島は、いたたまれなくなってしまう。
「……なんだかそれっきり縁が切れちまう気がして」
「バカ言ってんじゃないの。
 縁が切れるだなんて、ワケ分かんないこと言わないで。
 あたし達があんたのこと忘れるとでも思ってんの?」
 美神が手のひらでちゃぶ台を叩いた。
 湯飲みが揺れる。
「やっとあんたの足で自由に歩けるようになったのよ。
 ちょっとばかり責任が重くなったくらいでビビってんじゃないわよ」
「いや、ビビってなんかいないッスよ」

「そんなことより、神父の言ってたこと、本当なンスか?」
 美神が目を細めて横島を見る。
 横島の中で不安が募っていった。
「美神さんの霊力が、だんだん下がってるって」

 美神の顔から表情が消えて行く。
「気付いたのは最近なんだけど、アシュタロス事件の後から少しずつ下がってきてるみたいね」
 美神の浮かべた笑みは自嘲するかのように冷たい。
「私の魂からエネルギー結晶が無くなったでしょう?
 小竜姫様に相談したら、それの影響じゃないかって」
「もう2年近く前のことじゃないッスか?
 今さらそんな……」
「ホントよね。今ごろ気付くなんて……。
 でも、アシュタロスを倒した代償としては安いもんよ。
 そう思わない?」

「このまま下がって行ったらどうなるンスか?」
「そうね、今のペースで行くと後数年で一般の人並みになるわね」
「!? 仕事はどうするんスか?」
「大丈夫よ。霊力が低くても仕事はできるし、いざとなったらママみたいに電力を霊力に変換すればいいんだから」
「いつかのベスパと戦った時みたいにスか?
 あんな大掛かりなこと、しょっちゅうできないでしょ?
 それに……」
「そうよ。その後も更に霊力は下がって行くわ。
 もしかするとゼロになるまで下がるかも知れない。
 そうなったら魂が消滅して肉体も死ぬけど、そこまで行かないでしょ、たぶん」
「どうしてそう言い切れるッスか?
 死ぬかも知れないンスよ?」
「今日明日死ぬわけじゃないわ。時間はまだたっぷり残ってる。
 そのうち何とかなるわよ。
 だいたい、この私が簡単に死ぬわけないでしょ?」

「……小竜姫様はその後なんて言ってるンス?」
「まだ聞いてないわ」
 何でもないことのように美神が言う。
 横島はいらだちを感じた。
「なんでもっとせっつかないンスか!?」
 身を乗り出す横島に、美神がのけ反った。
「今までに例が無いことだから、小竜姫様にも対処の仕方が分からないのよ」
「代わりのエネルギー結晶を貰えないンスか?」
「簡単に代用品が見つかるなら、アシュタロス達が血眼になって探すはずないわ」

「なんか方法があるはずッスよ!!
 小竜姫様に分からなくても、ヒャクメなら、斉天大聖老師なら何か分かるかも知れないじゃないッスか!」
 横島が立ち上がろうとする所を美神が止めた。
「どこへ行くつもり!?」
「どこって妙神山に決まってるじゃないッスか!?」
「余計なことしないで!!
 これはあたしの問題なのッ!!」

 パァン……ッ!!

「あ……!」
 思わず出してしまった手のひらを見下ろす横島。
 美神は頬を押さえて呆然としていた。
 乱れた髪が幾筋も顔にかかって表情を隠している。

「……あたしがどんな思いであんたを独立させたか、あんたになんか分かるわけないわ」
 うつむいた美神が、つぶやくように言った。
「あんた以外の、誰に後を任せたらいいのよ。
 あんたが一人前にならないと、あたしは治療に専念できないのよ!!」
 やおら美神の拳が横島の顔面に飛んできた。
 フェイント? そんな言葉が横島の脳裏をよぎる。
 頬骨が陥没するかと思うほどの衝撃に、横島の身体は部屋の隅まで転がって行った。

 押し入れのふすまに頭から突っ込んだ横島。
 美神は胸ぐらをつかんで引き上げた。
「この件に、これ以上口を挟んだら承知しないからね!」
 カクカクと反射的に横島がうなずいた。
「今後、収入の内30、いいえ50パーセントをうちに治めること!」
 カクカク。
「週に1回はうちに顔を出すこと!」
 カクカク。
「約束したわよ。守れなかったら…! 分かってるわね!?」
 カクカク。

 美神が胸ぐらをつかんだ手を離すと、横島の頭が床に落ちて鈍い音がした。
 バッグをつかんで中から封筒をとり出す。
「退職金よ。当面の生活費に使いなさい」
 美神の放った封筒が、横島の胸にドサリと落ちた。

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