ザ・グレート・展開予測ショー

冷たく降る雨2(をい)


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 8)


 続けたいから続けちゃった♪






 光り輝く星に空は瞬いていた。月の輝きもよりも、寧ろ彼らに目が行くほどに。
 東京では見えない景色。私は縁側に腰を下ろして溜め息をついた。

 一緒に見たかったなぁ・・・この星空を。

 隣。昼間に横島さんのいた辺りを見つめる。赤い染み―――何時も無節操に女の人をくどいてるのに、こんな時だけはうぶなんですね・・・そんな事を思うと、顔が赤くなる。


 週刊誌から得た知識は、私を強くしてくれたわけじゃない。
 私に必要最低限の勇気をくれただけだ。
 そして―――伝える手段をくれただけ。

 ―――今でも胸はドキドキしている。


 言えなかった言葉・・・本当は、違うことから伝えるべきだって分かってる。
 あなたが好き―――そう言わないままに、私はあの人に言ってしまった。
 はしたない・・・そう思われたろうか?
 軽蔑されるようなことをしまったのだろうか?
 そんな事を思い、不安に駆られる。
 でも―――私は、あの言葉を信じてるから―――。

 『好きだよ』―――その言葉、私は、嬉しかったから。
 私も、応えたいと思った。
 言葉よりも雄弁に伝えることができるように・・・。
 今もある、嫌悪すべき不信を打ち消す為に。

 最低な・・・決意かもしれない。
 これは、私と彼を追い詰めることになるのかも。
 でも、私は彼しか見えないから。
 絶対に・・・後悔はしない。

・・・でも、晴れてしまったから―――帰ってしまうんだろうか?

 いや、その時になったら・・・縋り付こう。


 「・・・帰しません・・・絶対。横島さん・・・」

 心臓のある辺りを押さえながら、きゅんきゅんと走る痛みに切なさを覚えつつ、障子一枚隔てた後ろの部屋で眠りについている彼を思った。
















 「・・・うう・・・」

 俺は夢を見ていた。
 そう、それは夢に違いなかった。
 でなければ、こんなに割の良い話があるはずがない。
 闇の中を駆け抜けている。
 走っても、走っても、闇は抜けることが出来ず、俺の目の前に在り続ける。
 それ以外、俺の視界に入るものはない。
 額から滴る汗―――
 口からこぼれる涎―――
 鼻から流れる血潮(情熱)―――


 ・・・何故だか知らないが。幸せだったのだ。

 それは、この闇を抜けた先にあるものの所為に違いないだろう。
 心の中に浮かぶ―――少女の姿。






 振り返り。

 「横島さん♪」

 と俺に太陽のような(当社比39倍の)笑顔をくれる少女の顔が―――




 俯き加減、紅潮した頬、潤む瞳、上目遣いに俺を見る女の姿。

 「・・・お姉ちゃんも・・・お母さんも・・・お父さんも・・・今日はいません」

 艶かしく俺を誘惑する淑女の顔に変わる―――。













 だぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!!




 そして、また俺は闇の中を駆ける。
 現実と言うあまりにも残酷な事実から目を背ける為に。

 ああ、あの娘が俺の事なんて好きでも何でもないことくらい分かるさっ!!
 とか、そんな事を不条理な世の中と、この夢を見せた俺の願望に向かって吼えつつ。


 畜生っ!!やけにリアルな夢を見せやがってっ!!

 期待させやがってっ!!

 畜生っ!!








 「・・・横島さん・・・どうしたのかな・・・?にこにこしたり・・・苦しそうだったり・・・」

 起こした方が良いかな?でも・・・。

 「うぅ・・・そんなの嘘だぁぁぁぁぁ!!」

 「きゃっ・・・」

 突然、彼の口から出た吼え声に私は思わず腰を床に下ろしたまま後ずさりをした。
 悲しそうに、るるる〜と涙を流す彼。これ以上、水分を流すと、死んでしまうんじゃないだろうか・・・そんな事を思うほど。
 けれど、彼がそうなることはありえない。間違いなく。そこの所、私は彼の事を良く知っていた。


 でも―――どんな夢を見ているんだろう・・・?






 ころころと変わる表情を眺めながら、私は終電が出る時間を見計らって彼の体を揺り起こした。


 「・・・う・・・ん・・」

 「おはようございます・・・横島さん・・・」

 おはようございますと言うには、いささか時間が外れているかもしれないけど。

 「・・・おキヌちゃん?」

 「はい」

 目をこすりながら、寝ぼけ眼で私を見る横島さん。まるで子供のようで可愛い。

 「大丈夫ですか?」

 「・・・うん、何か・・・変な夢を見ちゃったよ・・・」

 恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、彼は頭を掻く。いつもの癖。そんな彼を見るだけで嬉しくなる。

 「・・・どんな夢です?」

 「え・・・あはは、いや、たいした事じゃないからっ!」

 夢の内容を尋ねると、顔を赤くして、手を振りながら答えるのを渋る。でも、私は気になっていた。

 「何か、凄く苦しそうな顔だったり・・・嬉しそうな顔だったりしてたんで・・・」

 「え・・・と。うん、まぁ、良い夢だったかな?」

 悪い夢じゃなかったなら・・・良かったぁ・・・。そう思うと、別に深い内容まで聞きたい気持ちは無くなった。

 「そうですか・・・良かったです」

 素直に、そう思う。

 「うん・・・と。そう言えば・・・ここ何処?事務所じゃないよね」

 え・・・?

 「何言ってるんですか?ここは、私の実家ですよ」

 何を言ってるんだろう?・・・ひょっとして・・・記憶喪失にでもなったんだろうか?
 じゃぁ・・・私の言葉・・・覚えてないのかなぁ・・・。

 「ああ、そっか。俺・・・おキヌちゃんの実家に・・・ってええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 突然大きな声を出されて、私は後ろに倒れてしまった。ぐわんぐわんと小さく耳の中に響くものを感じながら、彼を見る。その顔は慌てたように・・・何故か赤くなっていた。

 「な・・・何をそんなに驚いてるんですか?」

 「い・・・いや・・・だって・・・」

 「?」

 「だって・・・おキヌちゃんがそんなこと言うはずが・・・」

 そして―――脳裏に浮かぶあの時言った台詞。



 思わず、俯いて―――頬を押さえる。
 熱を帯びていた・・・きゅんきゅんとした胸の痛みがより一層強くなる。



 「あ・・・へ・・・あのさっ・・・えと・・・」


 そんな私に焦ったように言葉を掛けようとする横島さん。
 でも・・・私は何も言えなくて・・・でも・・・。
 このままじゃいけない・・・そう思ったから!
 顔をあげる。そして、彼の目を見つめて・・・言う。





 「私を・・・抱いて下さい!」





 視界が、赤く染まる。
 真っ赤になった私の顔を更に真っ赤に染める生温かい深紅の迸り。
 ・・・迸り?


 「横島さんっ!?」

 重力に一時逆らったその液体が、彼の身体を優しく包むように落ちて行く。
 そして、彼の身体は一瞬、びくん、と震えると・・・そのまま後ろに向けて倒れた。
 ずばしゃ・・・と、恐らくは普通の人間なら致死量の血液であろう量を吹きだしたからこそ出来た血の池の中に彼の身体は沈みこんでいった。


 続けたいけど続けられない。

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