ザ・グレート・展開予測ショー

おやすみなさい


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 4/ 7)

 静かに、顔を近付けていく。彼の顔が大きくなるにつれ、胸の高まりが痛いほどに大きくなる。

 あ、やだ、目を閉じなくちゃ。

 彼と唇がふれあった。…あまり長く続けるわけにもいかないわ。

 


 いま、わたしは、どんな顔をしているんだろう。彼の顔は、ちっとも変わらない。おだやかな、すこし困ったような。

 …写真だからね。

 でも、この表情が大好きなの。

 

 時計を見れば、夜の1時をまわっていた。当然、辺りは静まり返っている。ただ、パピリオの寝息が規則正しく聞こえる。

 

 生まれて初めて撮った写真。デートというほどでもない、二人で中央公園を散歩したときに撮ったもの。

 知識としてはあったけど、じっさい撮影したことはなかったから。

 ヨコシマはまず私を写そうといったけど、なかばムリヤリ頼んで、私がヨコシマを撮影した。

 レンズのなかのヨコシマの顔。どうしてそんなにひきつった、いや、緊張した表情なんだろう。明治時代じゃあるまいし、「写真を撮ると、魂が抜かれる」なんてウソでしょ?

 写真ってながく残せるものだし、どうせなら、もっと違う顔をとりたいのにな。

 私はカメラから目を離した。

 きっと、私は困惑した表情をしていたんだわ。

 ヨコシマの顔から緊張が消えた。

 「操作の仕方、わからないか?」

 あっ、今の顔!

 「ちがうの」

 「ん?」

 「今の顔を、撮りたいの」

 「今の顔…?」



 そのあとのことを思い出すと、いつも笑いがこみあげてくる。

 結局、1時間ちかくかかっちゃったものね。

 ヨコシマも疲れただろう、ゴメンね。

 

 こうして、寝る前に彼の写真にキスするのが習慣になってしまった。

 「ルシオラちゃん、ズルいでちゅ」

 私は文字通りとびあがった。

 「な、な、なによ、起きてたの?」

 起こしちゃって悪いとおもいつつ、でもじっと観察するなんてシュミ悪いわよ…とおもいながら、パピリオの顔をのぞきこんだ。

 パピリオは、目を閉じていた。気持ちよさそうな表情だ。

 「ポチ…じゃなかったヨコシマ…次は私と遊ぶでちゅ…」

 寝息は、まったく変わらない。寝言だったのね。

 ホッとして、視線を写真にもどした。

 そういえば、私の写真は撮らなかったのよね。なぜかわからないけれど、断っちゃった。

 ヨコシマは、私の、どんな表情が好きなのかな?

 次に写真を撮る機会があれば、聞いてみたい。…けど。


 



 「…もう一回、キスしちゃお!」


 おやすみなさい。

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