ザ・グレート・展開予測ショー

Instinct and worldly


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 6)


 もう、恋なんてしない。



 耳に何時までも留まりつづける声。それが、今であっては、本当の彼女の声であるのか知る術はないけれど。戒めるかのように、在り続ける。
 彼女なら、ひょっとすれば、そんな自分に対して、怒るかもしれない。でも、それは俺にとって恐らくはずっと在り続けるものだった。
 思慕、恋慕。日々募るそれは、他の誰かに惑わないと言う身勝手さで保たれている。
 咎人となれない俺が自分に課した罰。
 それは、省みないのと同意だった。



 彼女ではない、誰かを愛し。
 彼女ではない、誰かを子とし。
 彼女ではない、誰かを育て。
 彼女ではない、誰かと生きる。


 幸せ、なのだろうか?
 それは。





 罪の意識の中に残った最後の理性が叫ぶ。

 『幸せにする事』そして、『幸せになる事』

 それが、俺に残された使命なんだって。



 ―――彼女を心に残したまま?

 本能は―――食い違ってた。















 「どうかした?横島クン」

 「へ?何でもないっすよ」

 「でも、何か最近辛そうだから」

 「いえ、本当に大丈夫っすから」

 事務所の中、まどろみから目を覚ませば、そこに彼女の姿があった。
 俺の雇用主、一流のGSである美神令子さん。
 性格は酷薄。恐らくは、崖に落ちそうに為っている人間に対して金の交渉を持ち出しそうな程に。
 思えば、何故自分は彼女に付いていこうと思ったんだろう・・・そう考え、目に映る露出された肌から目を逸らした。

 (いかんっ!!いかんぞっ!!俺っ!!ルシオラに誓ったじゃないかっ!!絶対に目移りはせんとっ・・・あいつを裏切るような真似は絶対に許されんっ・・・しかし、見れば見るほどに・・・って、何を見とるんじゃっ!!俺はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 身体目当てでした♪

 心配そうな、珍しく邪気のない(どういう意味よっ!令子談)顔で見つめる彼女の表情もあってか、何とか一時の衝動に身を任せる事を防いだ俺だった。
 指先は・・・宙をかいていたが。

 「本当に大丈夫・・・顔色悪いわよ・・・」

 「大丈夫っすっ!大丈夫っすから!」

 その手を背中の後ろに回して、地面に叩きつけつつ、彼女のいたわりの言葉に答える。


 何で、何時もは人がどんな顔をしてようと知らん振りをするというのに今日に限って・・・。





 アシュタロスの件で、一時的にとは言え、悪霊の働きもなくなり、俺達の仕事もない。
 リビングで待機、といっても、仕事なんて起こりえる事もないから休みも同然だった。テレビを流し見しつつ昼寝してても誰も咎めることはない。
 寧ろ、美神さんのように心配してくれる―――横になってた俺に、また誰かが声をかけてきた。
 誰かって言うか、声で分かるんだけど。口調でも、ね。

 「横島さん、今日、御飯を作りに行きましょうか?」

 身につけていたエプロンを畳みつつ、俺の隣に座り、覗き込むようにして尋ねる。不必要なほどに顔を近づけて―――笑いながら。
 間近にあるその顔にどぎまぎしつつ、ルシオラの顔を思い浮かべる。

 「え・・・あ、おキヌちゃん・・・ごめん。今日は・・・」

 「・・・?誰かと約束でもしてるんですか・・・(むっ)」

 「へ・・・そんな事はないんだけど・・・一人で食べたい気分なんだよ」

 「・・・横島さん、私と食べるの嫌なんですか・・・」

 うる、とした瞳。こういう時、女の子ってのはずるいって思う。

 「え、そんな事はないよっ!!絶対にそれはないからっ!」

 俺はあわてて彼女の言葉を否定する。そんな事があるはずはない。俺だって一緒に食べたいとは思うけど・・・。

 「そんな事言って・・・本当は私の料理なんて食べるのが嫌で・・・でも、言い出せなくて・・・今日、言う事を決意したけど、なかなか本心は言い出せずに・・・こんな風に中途半端に・・・」

 「な、何だよっ!?それっ!」

 何で・・・そんな風に考えられなきゃいけないんだ・・・。

 「良いんです、良いんです・・・横島さん・・・優しいから・・・本当の事、言えなかっただけなんですよね・・・さめざめ」

 何故擬音を口に出すんだろう(汗) ・・・とりあえず、俺の方にそんな気はない。決意した初日から女と飯を食うというのはないだろう、と思っただけだ。(初日からってのに深い意味はないが)

 「俺はおキヌちゃんの御飯、大好きだよ」

 「じゃあ、嫌いなのは私の方なんですね」

 何でそうなる(汗)

 思わず頭を抱えそうに為るけど、彼女の眼差しにどこか必死なものが読み取れて、無下に出来ない。心の中でルシオラに謝りつつ―――多分、彼女も冷たい反応をする俺なんて見たくはないだろう、なんて虫の良い想像をしつつ・・・。

 「あ、あのさっ、今日、御飯作りに来てくれないかな?」

 「良いんですか?」

 ぱっと俯いていた顔を上げる。瞳を輝かせて俺を見るその顔・・・もしもここに策略が成功しただとか、そんな色があったなら俺は断ることが出来たかもしれない・・・。
 でも、そこにあるのは、穢れ一つない綺麗な笑顔だった。寧ろ、そんな事を期待していた自分が卑しく思えるほどに。
 人の心の中なんて見ることは出来ないけど・・・でも、本当に綺麗な笑顔だったから。

 「・・・うん」

 俺は、断ることが出来なかった。

 「じゃ、今晩、行きますね♪」

 ・・・何なんだ。これは。






 そして、おキヌちゃんとの夕食が終わり、彼女が帰り、俺はそのまま眠りについた。
 いつもよりも早かったけど・・・でも、する事もなかった。
 いや、正確にはする事はあっても、する気になれなかった。

 時計を見れば、まだ九時。
 テレビをつければそれなりに面白い番組でもやっているかもしれない。
 でも、見る気さえ起きない。

 心の中のルシオラに今日の出来事について土下座なども駆使して謝りつつ―――
 俺は夢の中に落ちていった。

 夢でも―――お前に会いたい。


 そんな事を思いながら。

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