ザ・グレート・展開予測ショー

冷たく降る雨


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 6)





 深い意味もなく出した言葉。

 「好きだよ」

 なんて。

 そんな風に、二人、意識させるものだなんて思いもしなかったんだ。

 嘘を吐くつもりなんてなかった。
 俺は―――傷つけるつもりもなくて。

 だから、お願い。
 その言葉を忘れて。
 出来ることなら流して―――。

 この、降り注ぐ雨のように―――。





 雨の午後、縁側で飲む御茶ってのもなかなか乙なものだと思う。
 例え、湯飲み茶碗の中に入っているのが紅茶でも、なかなか。
 寧ろ、そのずれた感じが良いと。
 隣で座り、湯のみを傾ける彼女が俺を見、微笑む。
 俺も微笑み返して、口元に温目のお茶を流す。
 香り高く、甘い御茶。
 少し、苦めだけど。

 「雨・・・ですね」

 「雨・・・だね」

 全く、何でもない言葉。

 ふと、錯覚を覚える。
 歳を取った俺とおキヌちゃん。
 こうして隣り合ってお茶を啜ってる。
 そして―――同じ台詞を言うんだ。

 既視感・・・て奴とは違う。
 でも、何か・・・感じる。

 未来―――訪れるもの。



 「・・・何か。おばあちゃんになっても・・・こうしてそう・・・」

 驚いて、彼女の方を思わず向く。
 彼女は、微笑を湛えて、俺を見てる。
 まるで、心の中を見透かされたようで。
 俺は顔を背けた。
 彼女が悲しい顔をしたのも、見えなかった。

 「・・・横島さんも・・・おじいちゃんになっても、きっと、こうしてますね」

 「・・・何で?」

 「・・・何となくですけど」

 振り向き、見る。

 そこに、心中は見えなくて―――。
 ただ、浮かぶ微笑みに俺は。
 彼女が今、この時を穏やかに過ごしているのだと考えるしかなかった。

 「・・・ねえ」

 「何です?」

 「御茶、甘い?」

 「・・・ええ」

 「そっか」

 御茶を啜る。―――何故だか、酷く苦く感じた。



 「・・・横島さんは?」

 「ん?」

 「御茶、甘いですか?」

 逡巡。

 「えと・・・」

 「甘い・・・かな?」

 嘘。

 「そうですか・・・」

 何故か、嬉しそうな表情。

 『苦い』と答えていたら、どうなったんだろう?

 「・・・うん」

 そんな事を、ふと、思った。




 「・・・雨、止みませんね」

 「そうだね」

 午前中までだと言われていた雨は、人間の予測など軽く裏切って降り注いでいた。
 冷たく降る雨。

 「・・・傘、持ってましたっけ?」

 「俺?」

 「確か、持ってませんでしたよね」

 「うん」

 俺がここに来てから降り出した雨だった。
 そして―――そのまま止まずに。

 「傘・・・この家にないんです」

 「へ・・・?」

 「昨日、お客さんがたくさんいらして・・・それで、その方達に貸したまま・・・」

 「あ・・・俺・・・傘なんてなくても帰れるし・・・」

 「駄目ですっ!こんな中・・・傘もなしに帰ったら風邪を引きます」

 「でも・・・」

 「・・・今日は・・・泊まって行って下さい」

 「うん・・・」

 俺は動揺する心を留めた。

 「・・・お姉ちゃんも・・・お母さんも・・・お父さんも・・・今日はいません」

 が。

 湯呑みが・・・手から落ちた。
 乾いた音をたてて、落ちる。
 割れはしなかったが、ひびは入ったかもしれない。
 それを見ることもなく―――俺は彼女を見つめていた。

 ほんのりと、頬を赤らめた彼女。
 表情は見えなくて―――。
 少なくとも、照れてることは見て取れるけれど―――。

 言葉が、出なかった。


 

 だから・・・?とは、聞けなかった。

 「・・・あの・・・そう言う事です」

 どういう事?とも聞けなかった。

 「・・・あの、横島さん?」

 ・・・意識が・・・遠のいていく。

 「あ・・・よ、横島さぁぁぁぁぁぁん!!」

 何やら、後頭部に粘つく液体が付着するのを感じつつ―――俺の意識は途絶えた。



 その液体。何か、鉄の味がした。


 続けたいけど続けられない。

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