ザ・グレート・展開予測ショー

束の間の夢 −前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 5)


 一見シリアス風味ですが、ギャグです。この話。







 勘違いしないで下さい・・・。俺自体が組み込まれる歯車の一部に過ぎない・・・。

 空に浮かぶ巨大な霊気の球体―――軽量型コスモプロセッサ。稀代の天才と呼ばれたドクター・カオスがドクター・ヌルの改良した技術『地獄炉』のエネルギーを利用して生み出した万能兵器―――その下で対する私とあいつ。神通棍の一撃が鮮やかに入り、恐らくは骨を数本砕かれた腹部を押さえつつ、しかし、表情は変えずに呟く。
 言葉の真意を取るには、あまりにも判断材料が少ない。何より、言葉の意味がわからない。―――組み込まれる歯車?彼もまた、形成されるパーツの一つに過ぎないと言う事?
 あの万能兵器が、未完成のものであることは知っている。そして、ここからは推測だが、それには足りない部分に横島クンの力が必要である事も。そして、恐らくは時間が必要だという事も。

 だから、彼はこの戦いに最後まで参加しなかった。死ぬことは許されなかったから。
 しかし、彼の顔に、まるで後悔の色がないのが気に掛かった。彼はここまで『死』を達観出来る人間ではない。
 その彼がここまで落ち着いている理由―――まさか・・・。


 「・・・死ぬつもり?」

 私は何となく予想される事を尋ねてみた。返事を期待したわけじゃない。少なくとも、目の前の男が答えるとは思えなかったから。
 汗が額から流れ落ちる、ひんやりと冷めた汗。粘つく手の平を拭う。神通棍を持つ手が震える。
 ―――いや、違う。
 私は『答えない』と思っているわけじゃない。
 『答えないで欲しい』と思ってる。

 そんな私の心を知らず、彼は酷薄な笑みを浮かべて答える。
 その顔に、迷いは見られなかった。

 「あなた方を殺した後にね」

 思わず、かっとなる。怒りで視界が赤く染まる。

 滝のように流れていたはずの汗が止まり、心臓のリズムが一瞬、狂う。
 神通棍の精度が高まり、鞭上の刃が地面を伝った。目に見えない、霊気の渦があたりの空間を歪ませていた。

 「・・・もう、私一人しかいないわ」

 彼は、俯き、自嘲する。分からなかったわけではないはずだ。私達と彼らの戦いをここで傍観していたのなら。

 「・・・俺も、ですね。皆・・・先に逝っちまった。だから、あんたとこうして対してる」

呟くように吐かれた言葉―――その手の中に生まれる凝縮された霊気。―――栄光の手―――その剣先を私に向けると、彼は吼えた。

 はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 そして、踏み込む音が聞こえた。

 来るっ!!

 一手は上段からの振り下ろし―――それを神通棍で受け流し、下がりきった右腕を薙ぐ・・・と、そのまま反転し、振り回すように蹴りを放つ。私の顎先を彼の踵が掠める。一瞬、意識がとぶ。が、身体は間合いをしっかりと取ろうと後方へ飛んだ。彼は敢えて詰めて来る真似はしなかった。来られれば、私はその時点で負けていたかもしれない。
 が、彼は悔しがる様子もない。寧ろ、余裕の笑みを浮かべていた。ふらつく頭に、唇を噛み締めることで刺激を与えて意識を明確にする。

 「・・・正直、あの蹴りで決めるつもりでした。それで駄目なら、左手の栄光の手で切り裂こうと・・・。でも、あなたは間合いを取った・・・」

 「何よ。誉めてくれるの?」

 「残念ですけど・・・違います。この位置なら、俺が有利なんですよ」

 「・・・?」

 「二つの文殊さえあれば、ね」

 「!?」

 しまったっ!!―――彼の手の平から二つの文殊の輝きが生まれる。
 同時使用!?

 「安心してください。俺の霊気のクオリティーはそれ程高くない。せいぜい使えて別々の文字が一つずつという所です。―――それでも、充分ですけどね。」

 『爆』と―――『追』。
 逃げようとしても、『追』の文殊によって追跡される。そして、ある程度の距離までの接近を許せば『爆』の文殊がその効力を発揮する。

 「な・・・何て悪趣味な事すんのよっ!!あんたはっ!!」

 迷わず彼の方に向かって駆け出す。逃げ回るのは不利だ。今決めなければ、終わってしまうっ!!

 「邪魔はして欲しくないんですよ。美神さん」

 淡々と告げる横島クン。口の端が上向きに歪んでいる。堪えきれない笑み・・・そんな感じ!?
 ひょっとしてこいつ、こんな大層なことやったの、理想の為とかそんなんじゃなくて、ただ、この瞬間の為なんじゃあ・・・
 普段いびられてる上司への仕返し、嫌がらせ。

 「あ、あのねぇぇぇぇ!!あんた、自分のしていることがどんなことか分かってるのっ!?」

 いろんな意味で。

 「分かってます・・・」

 いろんな意味で?

 「時の抵抗にあって、あえなく瓦解するに決まってるじゃないっ!そんな計画っ!!」

 そう、あのアシュタロスのように。

 「・・・そうかもしれない。でも、やらなければならない・・・もう、引けないんですよ・・・先に逝ってしまった同志達の為にも・・・」

 その顔に浮かぶのは、笑み。寂しげな、悲しげな。

 「何よ!?何があんたをそこまで追い詰めてしまったの・・・!?」

 尋ねると、彼はまた、表情を消した。
 そして、これ以上ないほどに優しい笑みを作った。
 不覚にも、私はその笑顔に見とれてしまっていた。
 それは、ルシオラの元から帰ってきた彼の見せたあの大人びた笑みに酷く似ていた。


 「言うなれば―――世間が」

 視界を染める真っ白な光―――。
 網膜を焼かれ―――全身を焦がす。
 光―――痛みはない、が―――恐怖はあった。




 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない・・・

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