ザ・グレート・展開予測ショー

泣かないで…前編


投稿者名:K.H. Fan
投稿日時:(03/ 4/ 5)

アシュタロスの事件から2年の歳月が過ぎた。
そして今美神除霊事務所にコール音が鳴り響いている。
『はい、 こちら美神除霊事務…
ピートじゃないの…どうしたの? 珍しいわね』
美神が電話に出るなんていつもはあり得ない事かもしれないが、
美神の助手である氷室キヌが只今、 学校に行っているので仕方なく彼女が受話器を手にしたのだった。
『実は…』
そう、 このピートからの電話がこれから起こる悲劇の始まりだった…

−泣かないで−

美神の愛車、 コブラに乗り、 おキヌが美神に話し掛けた。
おキヌの顔は不安で満ちている。
『美神さん、 大丈夫なんですよね?』
『あいつの生命力はゴキブリ並なのよ! 大丈夫に決まってるじゃない!』
美神が話している“あいつ”とは勿論横島の事である。
ピートからの電話は横島が除霊中に失敗し、 瀕死の状態であると言う物だった…

ここは白井総合病院の一室、
美神とおキヌはまだ着いていないが、 彼女達のGS仲間がそこに揃っていた。
そして今彼らが一つのベッドを囲んでいる。
今、 口を開こうとしている者は誰一人として居ない。
いつまでもマイペースを崩さない六道冥子でさえ、
横島を果てしなく嫌っている筈の西条でさえ沈黙を保っている。
その沈黙の中、 ドアが激しい音を立てて開けられた。
美神令子と氷室キヌの姿がドアの所に見える。
部屋に居る彼女達のGS仲間は唯、 振り向くことしかしなかった。
『な…何なのよ、 この重い空気は!
いつもなら『ここは病室ですので静かにして下さい』くらいの言葉が出てもいいでしょ?』
美神の最後の方の言葉が震えていた。
おキヌは言葉すら発する事も出来ず放心状態にある。
何故なら…彼女達の目には、 はっきりと顔に布を被っている横島が見えたから…
『何の冗談よ…あんた達、 私たちを驚かそうとしてるんでしょ?』
美神がそう言うとおキヌが横島のもとへと近づいた。
そして横島を囲んでいたGS仲間がそっと部屋を出ようと美神の横を通り過ぎようとしている。
『返事くらいしなさいよ!!』
美神が黙って去ろうとした人々に怒鳴った。
彼らは沈黙を保ちながら、 横島のもとへと駆け寄ったおキヌの方を見た。
彼女は横島の顔に被せてあった布を取り除き、 目に涙を浮かべている。
『横島さん? 返事…して下さいよ…
こんな芝居…やめて下さい!!!』
おキヌがいくら叫ぼうと横島が起きる気配は無い。
彼女の声はもはや悲鳴に変わっていた…

横島の死から1ヶ月が過ぎた。
美神除霊事務所には今3人居る。
所長である美神令子、 彼女の母である美智恵、 そして令子の助手氷室キヌ。
オフィスには令子と美知恵が居た。
『令子、 気持ちは分かるけど…
GSである限りこの位の覚悟はしていた筈でしょ?』
令子は返事をせず、 唯ボーっとしていた。
1ヶ月間ずーっとこの調子である。
誰が何を言おうと反応せず、 焦点のあっていない視線で遠くを見つめている。
まぁ、 1日3食は取っているが、 彼女が動くのは食べるときだけだ。
こんな状況の中、 除霊事務所の呼び鈴が押された。
『令子、 ほらお客さんよ!』
『………………』
『はぁ、 仕方ないわね…』
美知恵が玄関へ行く途中、 おキヌの部屋の前を通った。
おキヌの部屋からすすり泣きが聞こえる。
横島の死から彼女が泣かなかった日は無い。
例え1ヶ月が過ぎようがおキヌの涙は絶えることが無かった。
『どなたです…か?』
『あれ、 何で隊長が居るんスか?』
彼女がドアを開けた先には青いジーパン、 青いジャンパー、 そしてハチマキをトレードマークとしている…死んだ筈の横島がそこに居た。
『よ…横島クン…なの? なんで…?』
横島は何故自分がここに居るのか分からないと美智恵に答えた。
気が付いたら事務所の前に居たそうだ。
プロの霊能力者である美智恵は、 横島が魔物の様な気配も持っておらず、
また、 彼が嘘をついてすらいないと言うことを悟る事ができた。
そういう事を瞬時に判断することが出来た為、 
美智恵の中で悪戯心が生まれた。
いつもは冷静な彼女だが、 子供が新しく出来た頃から(2年前だが…)
性格がかなり軽くなっていた。
『分かったわ。 中に入って、 こっそりと』
横島に耳打ちをした。
『何なんスか、 一体?』
横島は意味が良く分からなかったが、 美智恵に逆らうことは出来なかった。
あの美知恵に…令子すらも手玉に取ることの出来る美知恵に逆らうことは自殺行為だと言う考えが彼の頭にあった為である。
(どっちから教えようかしら…
私としては娘である令子に先に伝えたいんだけど…
泣きっぱなしのおキヌちゃんも…う〜ん…ま、 二人の反応が楽しみだわ)
と言う考えを頭に抱えた美智恵は横島を静かにオフィスの方へと案内した。
まずは令子に教えるようだ。
そして二人がオフィスの前に着いたとき、
『あなたはここで待ってて』
と言って横島を廊下に立たせ、 美智恵だけがオフィスに入っていった。
『令子、 あなたにお客さんよ!』
『………………』
『あんたねぇ…返事くらいしなさいよ!』
令子は無表情を保っている。
ピキ…
『ほぉ〜、 そうなんだ…入ってきていいわよ』
美知恵がドアの外に居る横島に声を掛けた。
そしてドアが開き…
『あの〜、 美神さん? 帰ってきたんスけど…』
横島が恐る恐る美神に話し掛けた。
無表情の美神ははっきり言って横島にとって怖かった。
故にこの様な話し方しか出来なかった。
『…よこ…し…ま…クンなの…? なん…で…?』
この1ヶ月間口を開く事が無かった令子から驚きの声が発せられた。
美知恵は
(あの令子がこの反応!!! 面白い!!! 面白すぎる!!!)
等と言う考えをしていた。
あんた、 自分の娘の事でしょう、 とついつい言いたくなってしまう。
再開を果たした時、 最初は混乱していた筈の令子だが頭がはっきりしてくるに従って、 大声で泣き始めた。
その涙は暫くの間止まることが無かった。
令子が落ち着きを取り戻したとき美智恵が口を開いた。
『後は、 おキヌちゃんに知らせるだけか…
令子、 何か良い手は無い?』
『う〜ん、 思い切り泣かされちゃったからねぇ…
おキヌちゃんにも大泣きをさせないと…』
おキヌをからかう気満々の二人だが、 その傍で一人の血塗れの男が倒れていた。

理由は…

令子が泣き止んだ時、 横島が
『美神さーん、 そんなに俺の事心配してくれたんスね?
感激っス』
と令子に飛び掛り、 令子にボコされた。
照れ隠し、 とでも言うのだろうか…

場面は戻ってオフィス…
横島も復活し、 美神親子も作戦終了の様だ。
令子と横島がおキヌの部屋の前へと急いだ。
横島は令子に急がされていたのだが…
『おキヌちゃん、 入るわよ』
まず、 令子だけがおキヌの部屋に入っていった。
『何ですか、 …美神さん…うぅぅ』
涙の止まっていないおキヌが美神の方を泣きながら見た。
美神の顔は妙に明るかった。 笑っているようにも見えた。
この顔を見て、 おキヌは無性に美神を怒りたくなった。
『ほら、 おキヌちゃん、 元気出して!!!
横島の代わりなんていくらでもいるわよ!!』
ドアの外に居た横島が
(なんか、 偉い言われようやな)
等と思っていると部屋の中からパーンと言う乾いた音が響いた。
『私の気も知らないで…そんな事2度と言わないで下さい!!!』
おキヌが涙を目に浮かべたまま美神を叩いた。
美神はこのおキヌの行動にいくら自分が楽しむためとは言え、
もの凄い酷い事をしてしまったということを悟った。
美神も1日前にこのような事を自分も言われたら、 同じ行動を取ったように思えたからだ。
『ご…ごめんね。 おキヌちゃん…』
『出てってください…今は一人に…』
そうして美神がドアを開け、 出て行った。
そしてドアの前で
『横島クン、 今入りなさい』
美神が左頬を擦りながら横島に言った。
そしてドアが再度開かれ
『出ていってって言ったじゃ…!!!
横島…さ…ん? ですよね? あの…その…なんで…?』
おキヌが横島に尋ねると、 横島が有りのままをおキヌに話した。
『じゃぁ、 何でここにいるか分からないんですか?』
横島は頷いた。
美神が外で
(あれ…? 思ったより反応が…)
等と思っていると中から
『おキヌちゃん、 いきなり何を…』
横島の慌てている声が聞こえた。
美神が鍵穴から覗いてみると、 そこには横島の胸に顔をうずめているおキヌの姿が…
『理由なんてどうでもいいですよね?
逢えて良かったです。 本当に…戻ってきてくれて…』
涙声でおキヌが横島に話しかけている。
美神は二人の雰囲気にむっとしたが、 ま、 いいか、 と言う具合にその場を離れた。

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