ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−40b


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 4/ 4)




「ワルキューレ、準備の方はどうなってる?」

魔界のユーチャリスで戦況を眺めつつ、横島はメインディッシュの確認をする。

「全て順調です。単純に爆発するだけの分、威力は保証いたします。
 まともに喰らえば、上級神族と言えども消し飛ぶことでしょう」

「そうか、神界の動きは?」

「こちらも予定通りです。対最上級&上級神族用結界を破り始めています」

リグレットが精一杯の笑顔を振り撒きながら、創造主に報告する。

「そうか。それなら問題ない。タイミングは神族の奴等が戦場に乱入し、ベスパが撤退をしてからだ。
 ベスパと入れ違いにゲートから送ってやれ。ゲートが潰れても一向に構わん」

リグレットの痛々しい笑顔を不憫に思いつつも、横島は冷静に応じる。

「ゲートの軸調整も万全です。
 これで神界の主力も一網打尽ですね」

「ああ、邪魔者は黙らせるに限る」

「他の魔神達が不審な動きを見せていますが?
 先ほどもスパイがユーチャリスに入り込みました」

『命じられればすぐにでも私が行く』リグレットはそんな視線で横島を見る。

「放っておけ。適当な情報を掴ませてお帰り願うさ。
 全ての計画の核心部分は俺の頭の中にしかない」

リグレットと横島の会話を耳にしつつ、小竜姫は常々思っていた疑問を口にする。

「横島さん?
 一つお尋ねしたいことがあります。3界のバランスを取ると言っておきながら、人界へ侵攻する。神界の軍勢を壊滅させる。
 矛盾してはいませんか?」

「そりゃしてるさ」

あっさりと認める。

「では何故?
 さきほど貴方は言いました。
 『全ては頭の中にある』と。
 私達が知らされていない事実があるのではありませんか?」

リグレットは興味無しとばかりにビジョンに見入る。彼女にとって創造主の言葉に疑問を持つ必要性はない。
彼女にとって、創造主の意思は全てに勝る。己の意思など関係ない。
命じられれば誰かを殺し、命じられれば夜伽の相手をする。例え伽の最中にルシオラと呼ばれようとも………彼女は抗議の声を上げない。
どんな形であれ、求められるのは喜ばしいことだったから。そうしなければ、自分の存在意義というものが維持出来ない気がしたから。
心を開いて話す相手がいない孤独な環境が彼女にそうさせる。悲しい、悲しい女がそこにいた。

そんな中、小竜姫の追及は続く。

「知る必要は無い。
 ………ってのも薄情な話か。
 保険だよ。俺の計画が失敗した場合のね?」

「保険………ですか??」

「俺の計画が失敗した場合、世界は何も変わらない。
 それじゃあ駄目なんだ。
 だからこそ人界と神界の力を削いでおく。
 魔界が、俺が主導して世界を改革していくためにね」

「デタントは完全に放棄ですか………」

「ソフト(内面)の改造が失敗したなら、ハード(外側)だけでも改造しなきゃいけない。
 俺達のやろうとしてることはそういうことだろ?
 それにみんなに話している計画が成功したなら、軍事力自体に大した価値はない」

『違う!何かが違う!』
そう思いながらも、何が違うのかが分からない小竜姫。
話は終ったとばかりに、美神母娘とベスパの戦いを眺め始める横島。
そこに何かのヒントが隠されているのではないか。
訳も無い予感に囚われて、そんな横島の様子を窺う。

魔方陣で自分の霊力を上げるのではなく、相手の魔力を下げる。
そんな作戦の下で、ベスパと戦い続ける二人の様子を見つめる横島は、かすかに微笑んでいた。






美神母娘が戦場で華々しく戦っている頃。
西条輝彦は宛がわれた数人の部下を引き連れて、ゲートに近づいていた。

『ゲートを封じれば、魔界への逃げ道を失うことになります。
 そうすれば敵は間違いなく士気が下がることでしょう。
 更に!魔方陣でこの地を常に浄化してはいるものの、ゲートを通して魔界の風も流れてきています。
 この魔界の風、空気こそが戦場を汚染する根源。
 浄化と汚染の繰り返し。これではイタチごっこが目に見えています。
 その魔界の風の流入を防げれば、魔方陣は完全に効果を発揮し、魔族の力は大幅に下がります。
 私達が派手に暴れ回る陰で、貴方達はゲートを封じなさい』

部下達はほとんどが、結界関係のスペシャリストであり、西条がリーダーとして派遣された理由はただ一つ。
命懸けでも彼らを守護すること。
今回の戦いの帰趨を左右するこのチーム。
隠密行動ゆえに、大規模な護衛をつけるわけにもいかない。
だからこそ少数精鋭で、美智恵の片腕を自他共に認める彼に白羽の矢が立った。

今回の侵攻軍は全員ゲートから出たようだ。
戦場はゲートから少し離れた――――距離にして1kmほどの場所に移動している。
美智恵達が徐々に徐々に、後退に偽装して戦場を移動させたせいだ。

「それにしても、風に魔力が満ち溢れていますね。力の弱いGSだと空気を吸っただけで戦闘不能になりかねませんね」

部下の一人が緊張を紛らわそうと軽口を叩く。ゲートまでの距離は100mを切った。

「君の方は大丈夫かい?
 ゲートの封印は大仕事だ。緊張してヘマをやらかすような――――」

西条が途中で口を噤む。
一同は例外なく、視線をゲートの手前に向ける。

「フンッ!横島が言った通りの展開か」

丁度ゲートを通って、メドーサが現れていた。

(まずい。あの女はかなり強い。やり過ごすぞ)
(了解です)

すぐさま近くの岩場に姿を隠す一同。
メドーサは辺りを一望して、ちょうど西条達の上の方で視線を止める。

「おや?デミアンじゃないか?アンタも仕事かい?」

「まあな。横島直々の指名でゲートの守護だ」

西条達の隠れた大きな岩。丁度その上でデミアンの声がする。

((((何時の間に?!))))

「ご苦労なことで。暇じゃないかい?」

「実際暇だった。が………」

そう言って足元の岩を破壊する。
隠れ場所を失った西条輝彦率いる、結界のスペシャリスト達。

「おやおや。ネズミ狩りかい?」

「まぁな。ゲートの封印なんて思いつかないとでも思ったか?」

「やるなら、戦闘開始前にやるべきだったねぇ。
 アタシ達を引き込んで、袋にするつもりだったのかい?」






――――西条輝彦チームvsデミアン&メドーサ。









ベスパの一撃が大地を震わせる。
魔力を下げる結界の中、それでもベスパは圧倒的な強さを誇った。
10000の力が1000になったところで、100の力しか無い存在には十分な脅威。
令子と美智恵はそれをかわしつつ、ベスパに反撃の銀の銃弾をお見舞いする。
だが銃弾を警戒したベスパは一瞬で距離を取る。
追う令子と美智恵。
ベスパは彼女達が思うよりも狡猾だった。というより、やる気が無かった。
彼女が飛び込んだのは、妖蜂とGS達の乱戦の中。
飛び交う霊波と魔力が彼女達の足を止める。
ベスパの姿を見失う。
仕方ないとばかりに、乱戦の中を抜け出そうと動き出した瞬間。
遠くからベスパの魔力砲が乱舞する。
周りのGSと彼女の部下である妖蜂達を巻き込んで。
巻き込んだ。
そう思ったのは勘違いだった。
魔力砲はGS達には命中せず、ひたすら妖蜂達に降り注ぐ。
妖蜂達はベスパの魔力砲を意図的に弾き始める。
弾いた先は――――美神親子の居場所。






魔力砲が弾けた。





「やり過ぎでちゅよ、ベスパちゃん?」

一瞬シーンと鎮まった戦場に、パピリオの声が響く。

「「パピリオ?!」」

自分達に向けられた魔力砲をパピリオが防いだことと同様に、彼女がこの場にいることが美神親子を驚愕させる。
最悪だ。ベスパ一人だけでもキツイのに、同じ強さを持つ彼女まで来ている。

「…………あのくらい凌げなくて、ヨコシマにとって利用価値があるとは思えないがね」

「それでもでちゅよ。ポチが必要と言ってるんだから、殺しちゃ駄目でちゅ」

戦場の喧騒が再開した中、姉妹が暢気に会話を続ける。

「ちょっと待って!横島君が私達を助けろと言ったの?!」

事態を把握出来てはいないが、会話の内容だけは捨て置けない。

「そうは言ってまちぇん。出来るだけ生き延びさせろとは言ってまちたが」

「それはどういうこと?」

「深く考えることは無いさ」

そこに新たな声――――メドーサとデミアンが加わる。

ドサッ!

何かが美神達の元へ投げ込まれる。

「「西条君(さん)?!!」」

満身創痍の西条。
意識は失っており、時折漏らす苦痛の声が彼の生存を主張している。
そしてそれが示すことは、ゲートの封印失敗。
美智恵の背筋に冷たいものが走る。

そして戦場に最後の役者達が姿を現す。

「見るでちゅ。今回の主賓がお目見えでちゅよ?」

そう言ったパピリオが指し示した場所はゲート。西条が封印するはずだったモノ。
魔界が施した封印を破って、魔族軍がそうしたように、神族の軍勢が降臨し始めていた。
それを見た美神親子の喜色に満ちた表情とは裏腹に、魔族達の反応は冷ややかなものだった。

「横島の読み通りか」

「だな。恐ろしいほどの先見だ」

「先見では無いだろう?
 アイツが誘導した結果だ。
 ただのスケベじゃないってことか」

「どっちでも良いでちゅよ。
 ポチの言う通りにしてれば間違いは無いってことでちゅ」

メドーサ、デミアン、ベスパ、パピリオ。
順番に話す4体の魔族の言葉には、横島に対する驚嘆、横島に対する信頼、そして罠に嵌って死んでいくであろう神族達への哀れみが宿っていた。





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