ザ・グレート・展開予測ショー

白い花 〜wildflower〜


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 4)


 花が咲いてた。
 綺麗な花。
 電柱の傍に咲いてた。
 白くて、儚げな、そんな花。

 散歩道、二人で通りかかるそこにその花は咲いてた。
 二人でこの花を見るのが習慣になってた。
 何を言うこともなくて、ただ、二人で見てた。
 それは、やけにあっさりとしてた。通過儀礼のようなもので。
 でも、二人、その花を見ると妙に優しい気持ちになれた。

 なくなっても、きっと、何が変わるというわけでもない、そんな事さえ、思ったり考えたりする事もない。

 でも、どうだろう。
 なくなったら、俺はやっぱり、考えたりするかもしれない。
 ふと思い、恐れる。
 一度知ってしまった事。
 どんな些細なものでも、やっぱり、失うのは、恐くて。







 その花の白さが、どんなだったか、とか。
 思い出したりするかもしれない。
 もう、思い返すことも出来ないだろうけど。







 変わらないものはない。記憶の中に、その花が留まりつづけることはなく。
 白が黒に変わっちまう事だって―――有り得るんだって。

































 朝になれば、何時ものように歩く。
 万年筋肉痛の身体を起こして、何十キロのオーバーワークに向かう。
 けたたましい目覚ましを黙らせて。

 朝は何時もどおり爽やかで。
 そして、行く街の光景も変わらずに。
 隣を見つめれば、これまた変わり栄えのしないシロがいて。

 そう、変わらない。



 少し、肌寒いけれど。
 手を繋ぐ手は温かく。
 これも仕事のうちとか何とか理由付けしてた前とは違う良く分からない高揚感ってのが俺の心を湧かせる。

 何故だろう、癪だけど、楽しい。


 言葉がなくても、別に気まずくはない。
 意識することもない。
 自然なんだな、と思ったり。



 何時ものように通る道。頭の中に焼き付けられた道程。
 マーキングしているわけでもないのに、この場所は拙者の場所でござるぅ、とか、何とか言ってる犬。
 もとい、狼。


 「せんせ」

 「何故、そこで止める」

 「可愛くないでござるか?」

 「・・・何の影響だ?それ」

 「お昼の連ドラ、『禁断の愛シリーズ・せんせ―――」

 「いや、言うな。何となく、言うな」


 真昼間から・・・そんなもんすんじゃねえよ。

 精神年齢がそこらの小学生よりも低い某犬っころが変な知識身につけたらどうすんだ。

 止められねえぞ。止めねえぞ。

 ・・・とりあえず、こいつの身の回りにいる男は俺だから・・・標的は俺になるわけだしな・・・。
それなら、無問題。(をい)



 「とりあえず、だ。そのせんせ、ってのは止めろ」

 「どうしてでござるか?」

 人差し指を口に咥え、恨めしそうな顔で俺を見つめるシロ。
 何故だろう?
 頭、はたきたい。

 「また、要らない事を教えて・・・とか何とか言われて俺が美神さんに殴られるんだ」

飼育係、という不名誉な役割を押し付けられてるんでな。

 「く〜ん・・・それなら、仕方ないでござる・・・」

 「悪いけどな」

 それに、本当にそんな風に呼ばれた日には・・・こいつと一緒に街を歩くことが出来なくなる気がする。























 花は白かった。
 風雨にさらされているだろうに、負ける事無く、その身は天に向かって伸びていて、凛とした姿を見せていた。
 真っ白な花、どこか危うい、その姿を見ると、胸が痛くなった。


 秋が来るのが、怖くなった。



 「・・・先生?」

 物思いに耽っていて、彼女の声に気付いていなかった。
 顔を向けると、不満げな表情を浮かべたシロがそこにいた。

 「何だ?」

 「先生、もうすぐ、花でござる」

 「花?」

 「あの、花の辺りでござるよ」

 「ああ、そうだな」

 目印は蒼い屋根の家。塀に張られた『落書きするな』の張り紙。
 その家の裏の電信柱の下。もう、電信柱が見えてた。

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