ザ・グレート・展開予測ショー

そんな、良く晴れた午後の話


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 4)


 窓の外から優しい日差しが差し込んでくる。キッチンの中は程よい明るさで。
 白いフリル付きのテーブルクロス。テーブルの上に乗ってる二つのティーカップと、紅茶の入れられたティーポット。お菓子の入った器。
 ちょこんと座ってる私と、ティーポットを二つのカップに注ぐ彼女。
 白い湯気が立ってる。結構、熱いみたい。

 「はい、どうぞ」

 おキヌちゃんが私の前に差し出す。くんくんと鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。あんまり、行儀正しくないかな、そんな事をやった後で考えて、少し恥ずかしくなる。
 おキヌちゃんの顔を見る。その目はカップの中の水面に向いていた。私の方は向いてなかったみたい。安堵の溜め息を付く。

 持ち上げて、口元に運ぶ。ハーブの香りが鼻腔をくすぐる。砂糖のものではない柔らかな甘さが舌の上にのって。少し、切なくなる。何故だろう、こんな気分になることは滅多になくて。

 「タマモちゃん、美味しい?」

 向かい側に座ったおキヌちゃんがにこやかな表情で尋ねてくる。曖昧な顔を返すけど、正直な所、分からなかった。
 美味しい、と言えば美味しいけど。
 でも、何か違うのよね。

 「何か、不思議な味」

 「うん、そうね・・・私もこういうのあまり飲まないから・・・でも、美味しいと思うけどね・・・あ、砂糖は入れなかったけど」

 「あ、うん。要らないから・・・。うん・・・全然、不味くはないのよ、でも、分からなくて・・・」


 柔らかな空気が流れてる。この空気を作り出してるのは、この御茶でもなく、私でもなく、ましてや、この台所であるわけでもない。
 この空気を作ってるのは、目の前の彼女。ふ〜ふ〜、とやや熱めのお茶を冷まして口に運んでる、おキヌちゃん。こんな事言ったら怒られるかもしれないけど・・・お母さん、って感じなのよね、この娘って。

 「ん・・・どうかした?」

 「あ、何でもない」

 思わず手を振ってしまう。きょとんとした顔を作った後、微笑んで、呟く。

 「ふふふ、変なタマモちゃん」

 思わず、顔が赤くなる。
 怒りとか、そんなんじゃなくて、羞恥って言うものとも違う。

 何か、気恥ずかしい、その感覚が嬉しい。


 穏やかな日々。
 訪れること、願ってた。
 どんな時も、私は・・・きっと。


 寂しくて、しょうがない。
 悲しくてしょうがない。
 でも、大丈夫。
 私は、ここにいる。
 この場所にいるから。


 「うふふ・・・」

 おキヌちゃんが笑う。

 どうかしたの?目で尋ねる。

 「ん・・・何か・・・タマモちゃん、可愛いなぁって思って」

 「何それ・・・」

 戸惑う、からかう様子ではなくて。
 とても、優しい声。

 「笑顔って、あんまり見ないからね」

 「・・・そうかな?」

 あんまり意識してないけど・・・寧ろ、私は自分が笑顔を作っていたことが不思議だった。

 可愛い・・・か。ちょっと、くすぐったい。

「うん、タマモちゃん、笑顔の方が素敵よ」

「何か、横島みたい・・・」

「横島さん、そんな事をタマモちゃんに言うの?」

 少し驚いた様子で、ちょっとむっとした感じで・・・嫉妬って奴かな?
 私はそんな彼女の姿がおかしくて・・・でも。

 「通りで、女の人に向って言ってるわ。いつも」

 呆れ顔。ほっとしたような顔。そして、怒った顔。

 「・・・横島さん、後でおしおきです・・・」

 とか言って、すぐに許しちゃうくせに。

 そう思うと・・・おかしくて。

 「ふふふ・・・あははは」

 「?」

 私は笑ってた。

 彼女はきょとんとした顔を浮かべてたけど。

 そんな、良く晴れた・・・午後の話。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa