ザ・グレート・展開予測ショー

力(1)


投稿者名:初心者1069
投稿日時:(03/ 4/ 3)

極楽に行かせてあげるわ!!」

決め台詞とともに神通棍ならぬ神通鞭がうなる。
一瞬の閃光の後あたりに漂っていた不快な霊気が消えた。

「ふう。除霊終了。結構疲れたわね。」

息を切らすことも無く美神が言う。

「よく言いますよ。
 俺は今日早く帰りたいのに、雑魚霊団の方を俺とおキヌちゃんに押し付けとい‥」

言い終わる前に強烈な踵落しが頭上に決まった。
めきっという嫌な音とともに横島が地面に沈む。
おキヌが除霊のために消しておいたライトを点けると、ひどく漫画的に地面にのめりこんでいる横島が浮かび上がった。

「あんた達の修行のための親切をそんな風に言われるなんて心外だわ。
 だいたいいつから私に口答えできるほどえらくなったのよ。」

「美神さん‥私達のためを思って‥」

手しか地面の上に出ていない横島を地面から引っ張り出そうとしながらおキヌが目を輝かせる。

「それに霊団相手ならあんた達の方が能力的に向いてるじゃない。」

「本当は元手が要らないからなんじゃないですか?」

やっと顔が地面の上に出た横島はこの余計な一言でぐしゃという音と共に再び地底探索へと旅立った。         

「それにしてもおかしくないですか?
 あの程度のボスの霊に対してあんなに霊が集まるなんて。」

体のどの部分も地面の上に出ていない以上自力で這い出て来るしかないと判断したのだろう。
横島を助けるのをあきらめたおキヌが言う。

「そうなのよね。
 でも、依頼された仕事はさっきの霊団の壊滅だったから私達には関係ないわ。追加で料金払うなら別だけどね。
 それに、また集まってもあの程度なら人を驚かすぐらいしかできないだろうし。
 それに今日は早く帰りたいのよ。」

その『人を驚かす程度』に困ったから依頼主が依頼したわけだが。
そんなことはこの人には関係ないらしい。

「でも、万が一ってこともあるでしょうから一応原因を探した方がいいんじゃないですか?」

良心の塊といってもいいおキヌは納得がいかないようだった。

「いい?私達は唐巣神父のようにボランティアで除霊してる訳じゃないのよ。
 これはビジネスなの。契約以上のことをする必要なんて無いわ。」

仕事である以上その考え方が間違っているわけではない。
おキヌだってそれぐらい分かっている。が、やはり納得はできなかった。
最も自分に美神を言い負かせることができることができる訳ではないので話を変える事にした。

「それにしても、何でこんなところで霊団が生まれたんでしょうね?
 別に霊的に何かあるわけでもないし、きれいな景色があるようにしか見えないですよね?」

その言葉の通りこの場所は何の変哲も無い美しい森だった。
近くに川が流れているらしく、水が流れる心地よい音が響いている。
依頼主が言うにはこの辺りは知る人ぞ知る蛍の大生息地らしい。

「さあ?
 言わなかっただけでほんとは自殺の名所だとか殺人事件が起きたとかそんなんじゃないの。」

興味なさげに美神が言った。その言葉の通りなら霊的に問題が無いわけがない。
そのことに気付かぬ美神ではなかったが、一番高い可能性におキヌが感づくと何というか分かったものではないのであえて黙っていた。

「そんなに気になるなら、後で依頼人に聞いてあげるわ。
 こら!横島さっさと出て来なさい!」

おキヌとの話を打ち切り、自分の丁稚?に指示した。
自分がやったのにひどいものである。
が、その言葉が放たれると同時にどうやったのか横島が穴から飛び出てきた。
長いバイト生活の間に植えつけられた恐怖からか頭より先に体が反応してしまうようだ
勢いよく飛び出したせいであちこち怪我をしており、衣服も破れていた。

「自分がやったのにそういう言い方しますか普通?」

聞こえないように小声で愚痴を言う横島。
が、

「もう一回沈みたい?」

と青筋をたてた満面の笑顔で言われ、怒られた犬のように大人しくなった。

いつも通りの儀式を微笑みながら見ていたおキヌは終わったと見ると横島の傷口についている土を払い慣れた手つきでヒーリングし始めた。
毎回こんなことをしているのだから、ヒーリングの能力も高まっているのだろう。すぐに治療は終わった。
漫画で言うとコマとコマの間の出来事である。

(最近治るのが早くなっちゃって、触れていられる時間が少なくなっちゃったな‥‥
 ただでさえ殴られる回数が減ったり、文珠を使えるようになったりして私の出番も減っちゃってるのに‥‥
 私もなんか新しいことしないとヒロインの座が危ないかも。もっと横島さんの注意を引けるような露出の高い服でも着ようかしら。)

自分の世界へとトリップしかけているおキヌを美神の声が現実へと連れ戻した。

「そろそろ帰るわよ。いつまでもこんなところにいたくないし。
 横島君ライト消して、懐中電灯出して。」

明らかに許容量を超えて物が入っているリュックを背負った横島にいつものように指示をする。
しかし、横島にはその言葉は届いていないようだった。何かに取り付かれたかのように宙を見つめていた。

「こらぁ!横島!
 無視するなんていい度胸じゃない!」

先ほどはあれほど反応した美神の怒鳴り声にも反応しない。
ただ、何もせず空を見ているようだった。
表情からは何も読み取れなかったが、眼だけが不思議な色をたたえて大きく見開かれていた。

「横島さん‥‥?何見てるんですか?」

おキヌの目には横島が夜空を見ているようにしか見えなかった。
確かに都会とは比べ物にならぬくらい綺麗に星が見えるが、すでに除霊前にその話はした。
それに、今はライトがついているので除霊前の方が良く見えていた。

だが、そんな人工的に作られた真昼の光の中でも横島には見えていた。
小さく今にも消えてしまいそうな淡い儚げな一つの光が。
ゆらゆらとゆれている一筋の光。
一匹の蛍だった。

それは横島を誘うかのように頭の周りを飛ぶと、森の中へと飛んでいった。

「美神さん、悪いんですけど先に帰っていてください。俺は文珠で帰れますから。」

そう言うと横島は蛍が消えていった森の中へと走っていった。

「横島さん一体どうしたんでしょうね。
落ち着いてからはあの人を思い出すものを見てもどうにもなかったのに。」

おキヌが悲しげに美神に尋ねた。

「きっと今日は特別なのよ。
 おキヌちゃん、今日何の日だか覚えてない?」

美神は無表情を装っていたが、眼にはそれとわかる悲しみの色が浮かんでいた。

「今日は‥‥!!あれからもう一年なんですね。
 まさか、美神さん横島さんのために珍しくこんな遠出の仕事引き受けたんですか?」

美神の言葉でおキヌも気がついたようだった。
表情がさらに暗くなる。
人の気持ちを理解できるというのもいい事ばかりではない様だ。

「違うわ。ただ、ギャラが良かっただけよ。
 さ、早く帰る理由もなくなったし依頼人のところに報告しに行きましょうか。
 霊が集まる原因が分からないのを知らせて、別口で調査しましょ。」

そう言った美神の表情はもういつものように眼が¥だった。
そもそもGSという信用第一の商売をしていて、ボス霊を見逃したなんて知れたらとたんに仕事が来なくなる。
それでも早く帰ろうとしていたのは横島を思う優しさからだった。その理由がなくなった以上除霊する必要があるわけだ。
まあ『別口で』なんていってるあたりそんな優しい性格だとは思えないのだが。

(もう、この人は本当に素直じゃないんだから。)

おキヌはいつものように苦笑しながら歩き始めた美神を追いかけ始めた。



何故自分は蛍一匹を追いかけてこんな森の中を走っているのだろう。
普段都会に住んでいるので珍しいくはあるが、必死になって追いかけるほど昆虫が好きなわけじゃない。
別に蛍を見るのが初めてというわけではない。前に見た時は別に何の感慨もわかなかった。

横島はそう思っているのに追いかけるのをやめる事ができなかった。
彼はこの蛍を追いかけなければならないという直感に従っていた。
それは霊能力者独特の第六感―霊感だったのだが、当の本人はそんなことを知る由もなかった。

走り続けているのに疲れが少しも出ないのは、日頃の『散歩』のおかげだろう。
森に強引に突っ込んだので木の枝等であちこちすりむけていた。
しかし、そんなことも気にならない程集中して彼は今にも消えてしまいそうな光を追いかけていた。
しばらく走っていると、急に開けた場所に出た。それと同時に追いかけていた蛍を見失った。

光の乱舞。横島がそれを見たときに思いついたたった一つの言葉だ。
たどり着いた場所ではおびただしい数の蛍が飛び交っていた。

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