「狼でござるぅ」とは、一言も言わない話。 後編
投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 3)
次の日の朝、事務所前。
俺達の新居は撤去されていた。
呆然と、その辺りを眺めるシロと。
何気にほっとしてる俺。
「ま、まぁ・・・シロ、あれは・・・なかった、という事で・・・」
「拙者と・・・忠夫さんの愛の巣が・・・」
シロは、泣いてた。だらだらと滝のように涙を流している。鼻水やら、涎やら、まるで幼子のように。
「なっ!何故泣くっ!?」
ポケットからハンカチを出して、差し出してやる。それを受け取って、顔を拭くものの、まるで勢いが止まる気配はなく・・・ハンカチが湿り気を帯びるだけで、まるできれいにはならなかった。
「だって・・・だって・・・」
こいつは・・・冗談つーのが分からんのか・・・
って・・・そうだっ!!こいつは・・・天然純粋培養生物(良い意味で)シロだったっ!
「あ、だからな・・・あれは・・・冗談で・・・」
そう言うと、さっきまでの茫然自失な顔に表情が浮かぶ。
決して、見たくはない類いの、表情。そこに浮かんでいたのは、泣きそうな顔だった。
「忠夫さん・・・拙者に言った言葉・・・全部嘘なんでござるかっ!?」
物凄く―――不安そうに、彼女は呟く。独り言とも取れかねない、でも、俺は流す気にはなれなかった。当たり前じゃねえか・・・。
「んなわけねえだろがっ!!!!!」
ぜえはぁ・・・思わずでかい声を出しちまった。
びくん、と彼女は体を振るわせる。尻尾もぴたっ、と宙の一転を指したまま凍りついたように動かない。
少し、間があって。
尻尾は凍りついた状態から解凍されたように、動き出した。
その顔に浮かぶのは、まぁ、見れない顔じゃなかった。
・・・可愛かった。
って・・・思わず激昂しちまったが―――あの犬小屋についての事は・・・嘘だっ!それ以外は殆ど本当だけどっ。
「じゃ・・・じゃぁ・・・」
「あ、だから、泣くなってのっ!!」
「くすんくすん・・・れも・・・」
俯く彼女の肩を抱き、涙声の彼女を慰める言葉を捜す。
が・・・どうすりゃ良いものか・・・。
やっぱ、犬小屋再建計画・・・?
それよりは・・・。
「し・・・新居はもうちょっと待ってくれ。あ・・・あんな犬小屋なんかよりも・・・ずっとでかい家、立ててやっから」
「今度は・・・事務所の中の土地を使わないで欲しいわね」
ぎくぅ・・・
「あ、あの・・・」
振り返った先にいたのは、笑顔の鬼だった。
般若?
「・・・あんた、私がどれだけ苦労してぶち壊したか、分かる?」
「え、と・・・」
「いやぁ・・・苦労したわよ。あんたとシロの愛の・・・ぶち壊すの」
気のせいか、何かたちの悪い思いも込められてるような・・・。
「・・・美神殿がやったんでござるか!?」
「そうよ、シロ・・・」
不敵な笑みを浮かべ、激昂するシロに軽く言葉を吐く美神さん。
ちなみに・・・シロのリミットは、振り切れていた。
「許さんっ!!」
「なっ」
「ふふっ、来なさいっ!!シロっ!」
恐ろしい速さで駆けるシロ。
それでも、笑みを崩さない美神さん。
その手に―――・・・ハリセンっ!?
「シロっ!待てっ!」
無謀だっ、あまりにも無謀だっ!
ハリセンで、シロと立ち向かおうなんて・・・。
俺は寧ろ、美神さんの心配をしていた。怒り狂った狼に、人が敵うとは思えない。
武装がハリセンってのも、勿論、その気持ちを上積みする要素になった。
「嫌でござるっ!」
牙を剥き出しにして、一瞬で間合いを詰め、右手に収縮させた霊気を不可視の刃へと変える。
そして―――。
シロは吹っ飛ばされてた。
ハリセンから放たれてる・・・霊気の渦。
まるで、霊気が渦のように回っている。まさか・・・。
「そのハリセンっ・・・」
「ふふん、どう、このハリセン型神通棍の威力は」
既に棍じゃねえ。
「く、シロっ!シロぉぉぉぉぉぉ!!」
・・・上気した頬、苦しげな表情。俺は自分の霊気を彼女に送る為に彼女を抱きしめる。
―――起きてくれっ、シロっ・・・。
起きて・・・くれ・・・
起きて・・・
起きて・・・
「忠夫さん・・・起きて下され・・・」
目覚めると、そこにはシロの姿があった。見慣れた、エプロン姿の。
「あ、ああ」
戸惑いつつ、起き上がる。意識ははっきりとしていた。妙に、現実味のある夢で―――。
「・・・嫌な夢でも見たんでござるか?」
「ん・・・そう言う訳でもねえけどな」
「?」
「お前が出てきたし、な」
「・・・忠夫さん・・・」
近づく顔、潤む瞳、僅かに開いた唇。もう、触れ合うほどの距離。そう、二人でいるだけで、精一杯で―――。
ありゃ?
「なぁ・・・シロ?」
「何でござるか?」
「何で・・・こんなに狭いんだ?」
「二人の・・・新居でござるよ(ぽっ)」
犬小屋生活。
悪くない。
と、思いました。
小学生か、俺は・・・。
今までの
コメント:
- まさかの夢オチ。収拾つかなくなりそうだったんで、の事ですが。が・・・。多分、何じゃコリャぁぁぁと思った方が複数名おられるのではないかと。
謝っときます。ごめんなさい。 (veld)
- 何じゃコリャぁぁぁ!?(いい意味で、です←笑) 何か前編から通じてまんまとveldさんの術中にはまりっぱなしだった気がします(爆)。夢の中の嫉妬心を露わにした令子が余りに「らしい」感じだったと思います。夢、現実ともにコロコロと表情を変え、喜怒哀楽をストレートに表現するシロが良かったです。ラストで狭いながらも楽しそうな犬小屋生活をする二人に賛成票1票です♪ 投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- 犬小屋生活、おもろかったです♪笑かしてもらいました♪ (紫)
- やられました。最後までveldさんに振り回されてしまいました(苦笑)
しかも最後は夢オチかーー。 (湖畔のスナフキン)
- 令子やるなぁと思ったのに・・・(ノД`)<神通ハリセン
ごめん。頭の中はシロよりハリセン持ってる令子でいっぱい(謎)
令子は突っ込み役だよね。横島はボケでw (NAVA)
- やはり愛すべき夫には一城の主となってもらいたいと思うのが、妻の望みなわけで。それが大きいか小さいか等は二の次であり、ともかくも自立した大人のステータスシンボルでもある、己の家というものに憧れるシロの気持ちは痛いほどわかるわけで……
でも、美神事務所の敷地内で犬小屋に住む横島の地位は、完全に美神の飼われ犬なわけで(笑) (矢塚)
- い、犬小屋ですか……そこに二人も……狭いぞ(笑)
今回のお話は笑わせてもらいました!とっても良かったです!投稿お疲れ様〜! (リュート)
- 犬小屋。
この言葉に何かしらの反応を持った奴、手を上げろ(恐る恐る手を上げながら)。深い意味はまるでありませんが(上げた手を下ろしつつ)。と言うわけで(何がだ)
・・・一回、言ってみたかったんです。
コメントを下さった皆さん、どうも有難うございます。
・kitchensinkさん
術をかけた覚えがねえぇぇ!!とか、そんな事を思ったりする今日この頃。
夢オチ、これ、最悪な手の可能性も無きにしも非ず。全否定ですしね、ある意味(汗)
シロ様の喜怒哀楽、令子嬢の怒りっぷり。何というか、表現できたのなら良かったですが・・・。犬小屋生活って・・・良いかも。そう思わせることが出来たのなら、私の勝ちです。 (veld)
- ・紫さん
おもろかった、笑わしてもらった・・・何か、物凄く嬉しいんですが。
いえ、本当に、『犬小屋生活一発ネタ』と言っても過言ではないので(意味不明ですが)。
楽しんでいただけたら、幸いです。
・湖畔のスナフキンさん
やっちゃいましたっ!振り回しちゃいましたっ(満面の笑み)
考えてみれば、これは、ラヴ・バトル(どこがだ)・壊れ・ほのぼの〜・電波話ではないですかっ!!
・・・そりゃあ、振り回すはずだぜっ!!
最後、夢オチで今までの全てがぶち壊しですが。はははは。(をい) (veld)
- ・NAVA師父ドン(殿、とつけようとしたらミスってこれが出ました。これはこれで良いじゃん。と思ったのでそのまま使用。ちなみに、首領と言う意味で)
神通ハリセン・・・どこからこんな電波届いたんでしょうか?殆どの話、構想ゼロ時間なんで、唐突に出てきやがります。こんなの。
令子の活躍・・・むぅ、(一瞬しか)なかったですね・・・。と言うよりも、私が書くのって、令子出ませんよね・・・。何故だっ!?って聞かれりゃ、出しづらいの一言に尽きますが。
いや、私は令子がボケ、横島突っ込みで、その後ドつき漫才で攻守入れ替わると言うのも捨てがたいと。 (veld)
- ・矢塚さん
マイホームは妻の夢です。多分。
自分、男なんで分かりませんが・・・。でも、憧れはありますんで。
>敷地内に犬小屋
立地条件は最高だなぁ、とか思い、書いたわけですが。はっきり言って、飼われ犬以外の何者でもないですが。が。
何時かは、築いて貰いたい。富士山よりも大きなシロを。・・・ああ、上手くねえ。 (veld)
- ・リュートさん
狭いながらも楽しい我が家。
いや、幸せな家庭を築けるのではないかと。
別居中の二人に贈る犬小屋。
「・・・住んでみようか?」呟く夫。
「うん・・・」答える妻。
そして、二人はまた、元のようにおしどり夫婦に。・・・謎ですが。と言うか、意味不明ですな。これ。
押しどり。・・・ニヤリ。 (veld)
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