変わらないものはなく、留まる意味もない。−後編−
投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 3)
「アホ」
答えは簡潔だった。
「・・・」
呆けた顔で、黙りこむ。
「理由を言えよ」
溜め息をつきつつ。すると、はっとした顔で話し始める。正直、聞く気にはなれなかったがこのままじゃ気持ちが悪い。
「質が、悪いんですよ。あまりにも。西条さんが異常なんです、彼らの中から見れば」
「だろうな。民間からの公募をしているからって言って、乗るような奴はいないだろ。お前ら、嫌われてるしな」
「・・・嫌われてる?」
「GS界の不景気の原因だからな」
「・・・」
「しかも、給料は安い」
「な・・・」
いや、そんな唖然とした顔で見られても。
「正義感なんてもんで動いてる奴を好きになる連中だとは思うなよ。大抵の連中は金の為に戦ってる。そうじゃなければ、命なんて賭けれないさ。お前らの理念って奴を理解する気にもなれねえだろ」
「僕は・・・」
「正しいことをしているなんて、間違っても言うなよ」
「!?」
「正義なんてもんは、どこにもない。この世には、間違った選択なんてもんはない。その代わりに、正しい選択なんてもんもないんだ」
「正義がないと?」
「無料で悪霊を退治するのが正義なら、金は悪か?命を賭けて、金の為に戦う事は悪か?大切な者を養う為には金がいる、間違っちゃいないだろ。正義なんてもん、一欠けらも感じられない我が侭な正しさかもしれないけどな。でも、間違っちゃいない」
「・・・金の為、横島さんもそうなんですか?」
「さあな」
「・・・今の美神さんに貰ってる給料の三倍出します」
「だから?」
「・・・移って来て下さい」
「やなこった」
「・・・何故です」
「西条が気に気に食わないしな。それに、あそこには借りがある。一応、な」
「借りの為に、命を賭けるんですか?」
「ああ」
「・・・」
「それに、俺は―――お前らが嫌いだ」
「!」
「勘違いすんなよ。友人としての、お前は好きだ。でも、ICPOのお前は、反吐が出るほど嫌いだ」
「何故・・・」
「お前らのやってることを否定する気はない。寧ろ、肯定するよ。社会的弱者の為に戦ってる、その精神もたいしたもんだと思ってる。頑張ってくれ」
「なら・・・」
「でもな。お前らの除霊は本当の意味での除霊なんだよ。『取り除く』。まぁ、そういう意味では・・・うちの所長もそうだけどな・・・でも」
「『除霊』・・・」
「気にくわねえ、それだけだ」
「・・・分かりました」
「ああ、じゃあ、行ってくれ」
「・・・はい」
太陽が傾いて。
公園は真っ赤に染まっていた。
時々はこんな風に眠っちまうこともある。
まどろみに負けて。
恥ずかしいけど。
俺は、少し、泣いてた。
変わってしまった友と。
面影を未だに残す、景色に。
未来を見れば、過去を思い出す。
何で、こんな風に人間は作られたのか。
変われない、何時までも、残酷なほどに、時に縛られて―――。
「横島さん・・・またこんなところで・・・眠っちゃって・・・風邪引きますよ?」
「風邪引いたら、おキヌちゃん、看病してくれるかな?」
「も・・・もう、からかっちゃいやです」
「してくれないの?」
「・・・も・・・も〜・・・」
起き上がり、毛布代わりにしてたスーツを羽織る。
ベンチから降りて、俯いた彼女の頭に、ぽんと手を置く。
「帰ろっか、おキヌちゃん」
「はい、横島さん♪」
二人の影が、遠くまで伸びてく。
遊具の影も、木々の陰も、ベンチの影も、公園と外界を仕切る網の影も。
木々はざわめき、夜の近づく気配を感じさせる。
春が訪れても、まだ、肌寒くて。
「横島さん?」
「ん?」
「美神さん、怒ってましたよ」
「げ・・・」
「「横島の奴・・・帰ってきたら・・・半殺しよっ」って言ってました」
似てないものまねよりも気になる言葉。
「半殺し・・・かぁ・・・」
「大変ですね・・・でも、サボるの、駄目ですっ!」
めっ、と言った感じで指を俺に向ける。
全くもって―――可愛いことこの上なく。
「はぁ・・・おキヌちゃん・・・」
「何ですか?」
「看病、してくれない?」
今度は、躊躇いもなく。笑顔で。
「勿論、です!」
変わらないものはなく、留まる意味もない。
誰かの為に、それは大きなお世話ってもんだろうし、それに、人を気にしている暇なんてあろう筈もなかった。
しがらみを捨てて、生きる事。
残酷な、冷たい話かもしれないけれど、間違ってない、きっと。
そう、間違ってなんかいない。
でも、俺は捨てきれなくて。
しがらみを手繰り寄せて、もう一度同じ『今』を作り出す。
正しくないかもしれなくて。
でも、『誰かの為』なんかじゃない、俺の為に。
今までの
コメント:
- 微妙に・・・タイトルがずれてる。
気持ちが悪いですねぇ・・・。・・・ごめんなさいっ!
また横島クン泣かせちまったなぁ・・・とか、思ってるんですが。人情派みたいな感じで。 (veld)
- ICPO・・・・そんなに質悪いんか・・・(汗)
給料の3倍出すといわれても動かない横島、
何ていうか美神事務所との絆を感じます(ホロリ) (ユタ)
- >めっ、と言った感じで指を俺に向ける。
↑良すぎです(場違い挨拶)。関係の無いところに目がいってしまうのは悪い癖ですね(汗)。他人のたもでもなく、また正義といった大義名分や理念のために除霊事務所の仕事に勤しむ(?)横島クン、彼の口調が少々キツイ感じもしましたがある意味彼「らしい」考え方ですね。余り正義漢っぽくふるまう彼って想像しにくいですし(笑)。投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- 本当の意味での除霊。
竜崎霊華とかセイレーンとかヴィスコンティとかもお札で除霊するのだろーか。
うん、それはヤだな。 (紫)
- 横島が大人だ・・・w
つーか、令子の出す給料の3倍って・・・実はそんなに大した額でもないようなw
理念に関しては、人それぞれだからピートも反論しなかったんだろうなぁ。
うむ。大人な話だ。 (NAVA)
- しがらみを切り捨てて生きられれば、どれほど気が楽だろう。
しかし、大概の人間は切り捨てなど出来ずに、人々の中で苦悩しながら生きていく。しがらみを感じてしまう心こそが、人間が人間として生きていくうえで大切な部分でもあるのを知っているから。しがらみを感じる心があるからこそ、他人の、おキヌの心を感じて慰められることも出来る。
だから、たまに何もかもが嫌になって投げ出しても、最後にはもとの帰るべき場所に行き着き、傷つきながらもまた人と交わるのだろう。 (矢塚)
- 皆さん、コメントどうもっす。何というか、「狼でござ〜 よりも少なかったってのは予想通りなようなそうでないような複雑な気持ちでいっぱいだったりする今日この頃です。(謎挨拶)
読んでくれて有難うございます。つまりは、それが言いたいわけで。本当に。
ではっ、コメント返しさせて頂きます。
・ユタさん
本文の中でICPO職員の、質(しつ)が悪いを、質(たち)が悪いと思われた方がおられたらどうしよう、とユタさんのコメントを見てから思った次第です。
遅っ!と思われるかもしれませんが。一応、これ、しつです。
絆、というか何というか。まぁ、腐れ縁みたいな感じで。というドライな横島クンを書こうかなと思ったんですが。後編の通り、甘ったれですな。 (veld)
- ・kitchensinkさん
全く本文の流れとは無関係のところで力を入れ、尚更にそこがお気に入りでもあったりする私にとって、その神のお言葉は恐悦至極です。
神のコメントに答える度に四文字熟語、覚えれたら良いな♪とか考えている私ですが。
南極に向かう前の令子さんとの会話の中であった言葉を意識して。それと、自分の考え、って奴を彼に反映させてしまったことは否めない所です。そこの所での反対票は寧ろ望むべく所でしたのでなかったのは意外ですが・・・『彼っぽく』はあるのではないかと。多分(汗) (veld)
- ・・・今気付いたんですが。俺・・・コメント返す時に賛成票入れてるぅぅぅぅぅ!!!!(激涙)
ごめんなさいっ!!(土下座っ)本当にごめんなさいっ!!(大地にキスするくらい深く)恥ずかしいっ!!!!!生きててごめんなさいぃぃぃぃ!!
・・・うぅ・・・マジでへこみますな・・・これ。
すいません・・・七票、あれ、五票ですんで。 (veld)
- ・紫さん
・・・すいません。(テンション低)
本当の意味での除霊、それは、システム重視と言うか、合理的と言うか・・・。
本当の所、どうなのかは分かりませんけど、やっぱ、最終回、横島クンの言った台詞っすかね。
除霊されるなら、おキヌちゃんの方が良い。
良い。私も倒されるならおキヌちゃんです。(をい)
話、変わってしまいましたが。そんな感じで。(をい) (veld)
- ・NAVA師父殿
すいません・・・(凹みつつ)
大人ですな・・・理念、ここんとこは人間、誰しも譲れないものがあるわけで・・・ピートも大人なんでしょうな。そこんとこ、流せる辺りは。
給料の三倍・・・まぁ、大人になったんだから、彼の給料もそこそこのものにはなっているとは思います。motherから通じるものになるかもしれないです・・・宣伝ですが。かるぅく。
大人な話・・・ですな。・・・そうかなは・・・。 (veld)
- ・矢塚さん
すいません・・・。(・・・と、これ自体、読む方を不快にさせているのではないかと気付いた十○歳のある日。)
人との交わりの中で、傷つくことが怖くなる時は誰しもきっとあると思います。でも、その中で生きていくからこそ、人は自分の意味を持つのかもしれないと。
恐れてはいけない、そんな事を偉そうに誰かから言われる筋合いはないでしょうけど、それでも、人は人の中でしか生きることは出来ない。
しがらみは、足かせであることも確か。
でも、しがらみは、命綱であることも間違いはなくて。
『今』を生きること。 (veld)
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