ザ・グレート・展開予測ショー

変わらないものはなく、留まる意味もない。 −前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 3)


 変わらないものはなく、留まる意味もない。
 誰かの為に、それは大きなお世話ってもんだろうし、それに、人を気にしている暇なんてあろう筈もなかった。
 しがらみを捨てて、生きる事。
 残酷な、冷たい話かもしれないけれど、間違ってない、きっと。


 夢の中で―――薙いだ闇。
 切り裂かれた空間に浮かぶ幻。
 誰も彼もが、涙を流してる。表面に出さなくとも、心の中で。
 幻―――幻想―――否定しちまえば、何てこともない、くだらない、妄想。
 変えてみせる、全てを。
 そう思っても―――過去。



 どうしようもないことは諦めなければならない。
 どれほど、悔いても、どうしようもなくて。
 己の無力に、泣きたくなるけど。

 血まみれの右拳を抱いて、吼える。



 受け入れる事。
 現実を、今を。




 腕時計を見れば、正午を少し回ったくらい。昼に食べたパンの袋をポケットに突っ込んで、空を見てた。春の日差しはうららかに・・・って、うららかの意味は知らないんだけど。
 まぁ、それなりに、良い心地って所だろうか。襲い掛かる睡魔に抵抗らしい抵抗もしていないというのに、何故か、意識はまどろみの中、食い止められていた。

 視界の隅に映る新米ママの井戸端会議。そして、公園の遊具で遊ぶ幼い子供達。興味があるわけでもない。目を閉じ、視界に映るものを消す。

 ベンチの上で寝そべっている俺を人はどう見るだろう?
 リストラされて困り果てているサラリーマンってとこか?
 それにしては、生気もなく、やる気もなく、焦っている様子も見えないだろうが。
 スーツも、着てないけどね。

 ・・・再就職、諦めたように見える可能性も無きにしも非ず。



 「こんな所でどうしたんです?」

 声をかけられた。聞き覚えのある声。頭の中で、瞬時に顔が浮かぶ。
 ピート。
 目を開け、確かめる。ぼやけてた。瞬きをし、こする。
 そして、もう一度、俺を揺すってる奴を見る。
 
 ―――横島クン、正解。

 「横島さん」

 「・・・ん?」

 「何で、こんな所で眠ってるんです?」

 お前はそんなことを聞くために俺を起こしたのか?
 何か、理不尽な気もしつつ、大人な反応を示す。

 「仕事帰り」

 流してやる、と言う事。いささか、不機嫌な口調になったのは仕方がない。

 「サボりですか?」

 苦笑い浮かべてんじゃねえ。そう思いつつ、頭を掻く。言ってることは、間違ってない。完全な正解とも言えないが。

 「・・・労働条件、極悪なんだよ。俺の事務所はな」

 極悪って言うか・・・あれは、最早、苛めの域だ。

 「まぁ、あの人の事務所ですし」

 男前の顔が、物凄い事になってるぞ、ピート君。苦笑いもそこまでいくと別の言葉になりそうだ。渋・・・渋笑い?
 やっぱ、ボキャブラリーねえわ。俺。

 「・・・幾ら一流って言っても、給料まではそうならないわけよ」

 って言うか、何で俺の給料はああまで絶望的なものなんだ?
 本当に、一流なのか?
 いや、ひょっとすれば・・・美神さんはあんまり儲かってないのかもしれん。
 それが俺の給料に反映しているだけなのかも・・・。

 ・・・やめよう。
 どんなに彼女の事をフォローしようとしても無駄だって事は分かってる。
 つーか、分かってた。

 「・・・ま、まぁ、あの人の事務所ですし」

 何で、どもる。
 というより、何故さっきと同じ台詞なんだ。
 教えてくれ。ピート。
 何故、そんな悲しげな顔をしてるんだ?
 何で、顔を逸らす。
 何で、肩を震わせてるんだ?
 笑ってるのか?
 そうなのか?
 そうだったらそうと言ってくれ。
 殴ってやるから。思いっきり。
 ・・・あ、何か、日光に反射するものが目から・・・。
はっきり言って、残酷だぞ、それ。

 「すると、俺のやる気も下がると言うわけよ」

 軽く流してみる。すると、彼は目元をハンカチで拭い、俺をまじまじと見た。

 「・・・変わりましたね」

 何を今更。

 「変わるもんだろ。誰しも、時の流れには逆らえない」

 使い古された陳腐な言葉。

 「詩心があるとは知りませんでしたよ」

 アホか。

 「ねえよ、そんなもん」





 「・・・僕、ICPOに入って・・・いろいろ考えることがあるんです」

 「ほう」

 どうでも良い事だ。そんな事、俺に話すな、そうは、言えない。
 友達、だからな。

 「民間のGSの相場はあまりにも高すぎます」

 「だあな」

 それこそ、一流ともなれば、あんまりなくらいなものになる。
 『幸運は買えないが、不幸は高値で掃うことが出来る』それをキャッチコピーにデリバリーサービスとかしようと考えてたくらいだ。・・・まぁ、その高値ってのが半端じゃないんだが。
 下手な人間がすれば、不幸を払うどころか更なる不幸を導きかねない。
 ちなみに、もう一つの候補は『三十分以内に来なければ料金一割減』
 下手すりゃ、邪魔されかねんな、行くのを。つーか、こんなこと許したら減給じゃすまねえな。・・・クビかも。

 「企業や、一部の豊かな人はその、腕の良い彼らに頼ることが出来るかもしれない・・・でも」

 「つまるところ、用件は何だ?」

 「・・・あなたをICPOにスカウトしたいんです」

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