白紙の台本に見つけた気持ち。 後編
投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 2)
「先生・・・どうでござるか?」
「どうって、何が?」
「もう・・・師弟の間に・・・」
「そうだな。もう少し、試してみようか」
「・・・うん♪」
翌日の朝。
学校にて。
「まぁ、昨日のところは美神さんに半殺しの目に合わされたわけだけれども・・・」
全身に包帯やらバンソウコウやらをつけているミイラ男を囲うように座る除霊委員達。
彼らの顔は一律に呆れたようなものであり、その目の前の人物(であることさえも不明)に対する敵意というものは見られなかった。
「っていうか、普通の人は死にますよ。それ」
最初に口を開いたのは、男前だった。
たまたま訪れた事務所の中で、血にどす黒く塗られた彼に縋るシロと共に、病院にまで搬送したのは他ならぬ彼だけにその時の怪我の具合は知っている。
少なくとも、こんな冗談が出来るような身体ではなかった。絶対安静、集中治療室よりも霊安室の方が良いんじゃない?とか言われてもおかしくなさそうな肉片だったのだから。
顔など原型を留めていなかったのだが、しかし、この場にいる友人の顔は、もう殆ど回復しているといってよかった。
「まぁな。ゴキブリを凌駕する生命力が売りな所あるから」
自分で言うな。そう、その場にいた誰もが思ったが口には出さなかった。
言った本人が「うんうん」と頷きながらいるだけに、何か言うのは憚られた。
「・・・否定できんのー・・・」
とりあえず肯定はしておこうとタイガーが頷く。
「まぁ、横島くんだしね」
微苦笑を浮かべつつ、愛子もそれに続く。
「どういう意味かは知らんが・・・誉められてはいない気がするぞ」
ある意味、人間の進化形態の中ではかなり優れた人種ではあると思うけど・・・。そう、愛子は言おうとして、止めた。それは、あんまりだと思った。
あんたは人間じゃない、と言ってるようなもんだ。
・・・まぁ、物の怪だろうが何だろうが、好きであることに変わりはないけど。
「でも・・・」
「でも?何だ、ピート」
顔を曇らせ、何か話すことを躊躇している金髪の美少年に顔を向け、促す。
「冗談なんかでやってるなら・・・止めた方がいいです」
苦々しく、言う。その声に、横島の顔色が少し、変わる。
「そうじゃの。シロちゃんが可哀相じゃー」
「女の子を傷つけるような真似は許さないわよ、横島クン」
責めたてるとか言う響きはない。
ただ、たしなめる、そういう響きはあった。
だから、別に激昂することもない。
「何言ってんだか」
言葉は小さくて、クラスの中に少なからずある喧騒の中に消え去った。でも、彼らには聞こえていたらしい。批難の眼差しに苦笑いを浮かべつつ、心中で呟く。
何で俺が冗談であいつの事を好きだとか言わないといかんのだ。
チャイムが響いた。
戸が開く音。あれだけ騒がしかった部屋が一気に静まり返る。
「それじゃあ、また」
「次の休みにのー」
先生がやって来て、ピート達はそれぞれの席に戻る。
元々隣の席の愛子が俺の事を見、笑う。
「何だよ?」
「・・・青春よね」
「・・・何言ってんだか」
「誤魔化すことないのに」
「・・・」
「素直になりなよ。横島クン?」
「ああ」
全部、本気に決まってるだろーが。
白紙の台本。
薄っぺらい、レポート用紙で作られた、その中に書いた言葉はただ一言だけだった。
シロ用の台本。
1p。
『「シロ、お前が好きだ」』
「先生・・・拙者も・・・」
浮かべた笑顔は魅力的で・・・。
今までの
コメント:
- 自分の気持ちを言い出せない。何かに紛らわして伝えることで、逃げ道を用意する。
ええ、経験ありますともさ。冗談と流せるように、気まずくならないように。
今回の横島君とはちょっと違うんでしょうが、そういう彼の何ともしがたい心境が伝わりました。 (NAVA)
- 普段は音速を超えるくらいの速さで口説き文句を紡ぎだす横島クンの口が、いざ本命を前にするとすくんでしまうあたりが非常に「らしい」と思いました。そんな彼の気持ちをすぐに悟った愛子っていいなぁ、などと関係ないところに目がいってしまったり...(笑)。いつかシロも横島クンも正直に自分の気持ちを明かせる時を願いながら、賛成票1票です。投稿お疲れ様でした♪(けど包帯を巻いた状態ですと格好つかないでしょうねぇ←謎) (kitchensink)
- 一度目の芝居は、観衆の邪魔によりミステイク。
その手に持つ、たった一言の為だけに用意された台本を今一度見返し、自分がどれだけ本気であったかを再確認する。
さあ、台詞は完璧に覚えたし、次の芝居は台本無しでいきましょうか? 横島君。 (矢塚)
- 良く分からない話になってしまったかもしれないっす。読んで下さった方々有難うございます。そして、さらにコメントを下さった方々、感謝です。
んでは、コメント返しさせて頂きます。
NAVA師父殿へ。
自分の気持ちを伝える事は難しいっす。素直に、ありのままにぶつけようと思っても、恐れが躊躇を生みますし。だから、「冗談だよっ」という言葉に逃げられるようにする。好きであれば好きであるほどにやっぱ、ですな。
逃げ道を作っている、ある意味では同じではないかと。 (veld)
- kitchensinkさん
音速を超える速さ・・・確かに、ありゃあ早いっ!!
光速と言わない所に神様の思慮深さを感じました。
愛子さんって長く妖怪として生きてますから(・・・何か間違ってるような)やっぱ、そういうところが鋭いと言うか、聡いのではないかと。何というか、悪戯っ子な笑みを浮かべてるイメージあるんすよね、彼女って。
何時かはきっと訪れる、『二人が自然にいられる日』が。気持ちを明かせる日、きっと来ますよ。きっと。 (veld)
- 矢塚さん
何か、矢塚様節って感じです。本編よりも全然良いコメントを書かれるのって・・・(泣) いや、嬉しいんですが。勿論。
たった一言の言葉。言えば良い言葉、分かっていたのに言えなかった。それは、きっと、自分の中に恐れがあったから。
躊躇う事無く、伝えよう。君の本当の気持ちを。変化を恐れていては何も始まらないのだから―――。
・・・負けた。(がくっ) (veld)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa