ザ・グレート・展開予測ショー

好きという、言葉の意味。 前編


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/ 2)


 手の中にあるのは、白紙の台本。表紙に描かれた犬のイラストが凄く可愛い。
 無駄にでも、長く高校生としていたなら、絵ってのはそれなりに上手くなるものなのかもしれない。
 
 ただ、一言言わせてもらうとすれば・・・。
 こいつのモデルは、狼だってこと。
 犬じゃない。
 狼だ。
 荒々しく、強く、獰猛で。
 他人に流されたりはせず。
 自分が正しいと思うことは曲げない。
 信念を持ってる・・・狼だ。
 ぷりてぃーである事は否めんが。

 どっぐふーども大好きだから、別に犬でも良いかもしれん。
 っていうか、犬だな。
 犬。

 俺の、犬だ。

 こういうと卑猥な感じがするが・・・(困惑)

 俺の狼だ、では、ちょっと意味が違うだろう。
 ・・・犬で。
 やっぱ、犬の方向で。




 距離が短い。
 気づけよと思う。
 何時までも子供じゃないんだから。
 気づけよと。
 ゼロに近い距離で、俺の顔を覗き込むこと。
 やたらと露出部の多いラフな格好をしていること。
 動きやすいから、とか言ってるけど。
 おまえは何時までも子供のままじゃない。
 頼むから、止めてくれ。


 俺の前以外では。


 そう言えなくて。

 何も知らないままでいられるなら。
 きっと、こいつは純粋なまま。
 綺麗なままで居られる。
 でも、俺のいらない言葉で変えてしまうのが怖い。
 変わらないで居て欲しい。
 変わらない保証なんてないけど。
 そして、それは身勝手な俺の我が侭であること。
 分かっているけど。


 少し、ずれてる。
 視点が、きっと。


 必死で、目を上に向けて。
 自分の劣情を押し殺す。
 最低な人間てのはどういう人間なのかは分からない。
 価値観ってのは人それぞれってなもんだし。
 でも、欲情する対象が・・・てのは、洒落にならない。
 だから、俺は否定する。
 好きだという気持ちまで・・・そう、俺は。
 好きなんかじゃないんだって。








 「先生、大好きっ!」

 好きという言葉の持っている薄っぺらさが、悲しいくらいに拙者の心を落とす。
 幾度となく口にし、そのたびに自分の思いを重ねてた。
でも、伝わらなくて。
 何時の頃からか手段ではなくなっていた。
 ただの挨拶に過ぎなくなってた。
 『好き』の意味が、失われていくのを日に日に感じてた。

 会えない事への不安と、会う事への不安。
 確認?―――もう、そんなものさえ、意味を為さなくなる。
 届くことはない、思い。―――少し、悲しくて。


 取り戻すことの出来ない時間の中で。
 『好き』と言う言葉がどういう意味を持っているのかを知っていたなら・・・。

 でも、会えれば嬉しくて。
 拙者は何時ものように、もう、意味を為さない言葉を贈る。


 「シロ?」

 「何でござるか?先生・・・」

 「・・・んにゃ、何でもない」

 「くす・・・変な先生でござる」

 「うん・・・ちょっと変かもな」

 「妙に素直でござるな」

 「まぁ、こんな日もあるってこった」

 もっと、自然に居られたら。
 もっと、自然に言えたら。
 もっと、自然に。
 もっと、もっと。



 「先生」

 先生が拙者を見つめる僅かなタイムラグ。
 それが、拙者に躊躇いを生む。
 いらない不安を植え付ける。

 「ん?」

 凄く、綺麗な笑顔。
 それが崩れるのが嫌で。
 それが曇るのが嫌で。
 言葉を止めて、息を飲む。
 迷いは、惑いに。
 嫌な想像が、心の中に浮かぶ。
 それが妙に生々しく、拙者の心を削っていく。

 浮かぶのは、背中。
 拙者の前から去り行く、彼の、背中。

 「何でもないでござるよ」

 出た言葉は、乾いていた。
 伝える事を、本気で伝えることを恐れた臆病な拙者の心のように。

 「何だそりゃ」

 呆れ顔。

 ―――気づいて欲しい。

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