さあ、どっち?(その夜・2)
投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/31)
水晶玉には、勝手なリクツをならべる令子の姿が映し出されている。
「相変わらずだな、あの女」
雪之丞は、やれやれといった口調で言った。
「まあ、いつものことさ。でも、やっぱりあの人の首に鈴をつける必要はあるだろうな」
横島は、どこか悟ったように言った。
「鈴か・・・・・・。そういや、美智恵の旦那はどうしてる?」
「南米に旅行中。ひのめちゃんと一緒にな」
美智恵が日本にいてくれれば、美神さんもここまで好き勝手なマネは出来ないだろうに、と横島はおもった。
もっとも、美智恵が事態収拾に乗り出せば、自分が勝手に仕事をやっていることがバレるかもしれない。あの人の目はとてもゴマかせないだろうしな。
それはともかく。
はたして、クスリの効果は消えたのか。いまいちはっきりしないな・・・と横島はおもった。
シロやタマモの様子を見た限り、うまくいったような気もするが。
「彼女の様子も見てみるか」
「彼女って?」
横島は、もういちど水晶玉に念を込めはじめた。
やがて、水晶玉は、ひとりの女性の姿を映し出した。弓かおりである。
「あ、おい!見るなよ!」
「どうして?一応チェックしておかなきゃ」
どうやら、彼女はもう寝るところだったようである。
和風の部屋で、長襦袢を着て寝るのかな、という横島のフトドキな想像は裏切られた。
水色の、普通のパジャマである。部屋の中の様子は『女の子らしい』(横島のみたところ)つくりだった。
部屋の中の明かりは消されている。窓から差し込む月の光のおかげで、なんとか彼女の表情をみてとることができた。
ベッドの縁に腰掛けたかおりは、机の上の写真たてに手を伸ばした。
「あ、あれ!俺の写真じゃねえか!」
どこで撮影したのかはわからないが、柵に退屈そうによりかかる雪之丞の姿が映っている。
かおりは、黙って写真を見つめている。口元が、かすかに動いた。
どうして。
『どうして・・・・・・?』
今度は、確実に聞き取れた。横島と雪之丞は、彼女の様子を息を詰めて見守っていた。
そのとき。彼女の目が大きく潤んだ。やがて、涙がひとすじ、彼女の頬をつたって、写真のうえに落ちた。
『ごめん、なさい・・・・・・』
消え入りそうな声でつぶやき、彼女は写真たてを胸におしあてるように抱きしめた。
水晶玉から彼女の姿がきえても、横島と雪之丞はひとことも口にしなかった。
先に口を開いたのは、横島である。
「ひゅーひゅー。モテてるじゃん」
沈黙に耐えきれず、横島は雪之丞をからかってみた。しかし、雪之丞はだまっていた。
車内のランプはつけておらず、水晶玉の光が消えたので、お互いの表情は見えないのだ。
「弓・・・・・・」
雪之丞は、ひどく弱々しくつぶやいた。
横島はシートを倒し、寝転んで頭の後ろで手を組んだ。やがて、雪之丞も横島にならって寝転んだ。
「・・・なあ、雪之丞。弓さんの結婚相手がだれか、知ってるか?」
「まあ、な。護摩堂健一(ごまどう けんいち)ってやつだ」
「護摩堂・・・。GSだな。京都で有名な・・・」
横島は、しばらくだまっていたが、やがて後部座席に手を伸ばして毛布をひっぱりだし、それをかぶって寝てしまった。
「横島、寝たのか」
雪之丞は、横島に声をかけた。返事がかえってこない。彼はため息をつくと、横島とおなじように毛布をかぶり、目をつぶった。
車が走っているのに気付き、雪之丞はめざめた。すでに朝になっていた。
「どこ行くんだ・・・?」
「京都」
「・・・なんでだ」
「旅行さ。お前もつきあえよ」
途中の公園で、二人は顔を洗い、口をすすいだ。コンビ二でサンドイッチと缶コーヒーを買って、朝食をすませる。
「名古屋にも寄ってくか。一度みそカツ食ってみたいんだ」
横島はのんきな顔つきで言った。
「みそ煮込みうどんもいいなあ。天むすも食ってみたいし、ひつまぶしってのも美味いらしいぞ」
雪之丞はだまっていた。横島の真意を測りかねたのである。
「美神さん。横島さんから連絡ありましたか?」
めずらしく早く出勤してきた令子に、おキヌは尋ねた。
「ないわねぇ」
「そうですか・・・・・・」
シュンとしたおキヌに、令子は笑っていった。
「大丈夫でしょ。指名手配については、カタがついたし。アイツも話がわからないヤツじゃないでしょうしね」
「それは、そうですけど・・・」
「それよりさ、みんな朝ご飯まだでしょ。私もまだ食べてないからさ、用意してくれない?」
「あっ、わかりました。・・・すみませんけど、シロちゃんとタマモちゃんを起こしてきてもらえませんか?」
「・・・タマモはともかく、シロも寝てるの?」
「ええ。・・・昨夜は、あまり眠れなかったみたいで」
朝食が終わると、おキヌは最後の身じたくをした。
「それじゃ美神さん、行ってきます」
令子は、窓の外を眺めていた。おキヌの声にふりむいた。
「ああ、うん、気をつけてね。行ってらっしゃい」
やっぱり、美神さんも横島さんのことが心配なんだな。おキヌはそう考えて、すこしホッとした。
令子は、視線を元に戻した。
横島クン、どこにいるの?
はやく帰ってきてね、そしたら。
令子の身のうちから、ゾクゾクするものがわきあがってきた。
尋問は、いや拷問はどういったふうにしてほしい?
水責め。電気イス。いや、それでも物足りない。
一度でいいから、爪の間に針をつっこむヤツ、あれやってみたいのよね。
とにかく、ママが旅行に行っているうちに帰ってきてほしいな。
「ふ、ふふ、ふふふ。クックック・・・・・・」
あんただけは、この私が特別に殺してあげるわ!!
今までの
コメント:
- どーも、すみません。ようやく続きです。
制作は、順調に遅れております(スタジオジ○リ風)。 (Kita.Q)
- ゆっきーと横島クンのやってることってさり気なく覗き見と言う立派なセクハラ行為だったりするのですが...(笑)。弓の様子を見てますます落ち込む雪之丞をそれとなく励まそうとする横島クンが「らしい」ですね。これから京都へと向かうみたいですが、果たして横島クンは雪之丞の手助けをしようとしているのでしょうか? 或いは令子の「殺気」を感じて逃げているのでしょうか?(ちが) 色々な意味で次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 美神さん・・・・鬼やぁぁぁぁぁぁ!!!!!
横島・・・まぁ、がんばってくれ(所詮他人事らしい) (あらひ)
- さりげない友情が良いなぁ。
それにしても、令子の首に付ける鈴・・・。
誰がなるんですかね。あるいは何を付けるのかw
と、微妙にプレッシャーかけてみるw (NAVA)
- kitchensinkさん、あらひさん、NAVAさん、コメントありがとうございます。
>kitchensinkさん
「京都へ行こう」は一発ギャグです!といいながら本当に京都に行くはめになりまして。初めから筋立てを考えていればこんなことにはならなかったわけです。
でも、本当にヤバいのは次からなんですねぇ。
>あらひさん
はじめまして、こんにちは。
他人事ですか。実は僕もです(こらこら)。
美神さんには、とことん暴走してもらいたいですね(笑)。
>NAVAさん
いやもう、NAVAさんのニヤニヤ顔が目に浮かぶようです(笑)。
先のことを考えれば、横島が鈴にならなければならない・・・と僕は思うのですが、どうでしょ? (Kita.Q)
- ゆがんだ愛情表現だ。
プリーズ、コール、ミー、クイーン! (トンプソン)
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