ザ・グレート・展開予測ショー

Diary


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 3/29)







令子が死んだ・・・

原因は十年前に受けた妖毒・・・・。
俺たちがそれに気付いたのは令子が死ぬ数日前のことだった。
だが、例え一年以上前に気付こうがその血清を作り出すのは不可能だったろう、
退治した妖怪変化はすでにこの世から消滅しており、現代の科学医療でも作り出すことは出来ないのだから。

「令子・・・」

春風が舞う中、俺は冷たい墓石にそっと触れた。

墓標には『横島家之墓』の文字・・・・・その中に『横島令子』と刻まれている。

手のひらから伝わる冷たさ・・・それはもはや血の通わない令子を頬を触れたときを思い出させる。

「俺はどうしたらいいんだ・・・・・」

決して応えてくれることはない・・・・。
そんな分かりきったことを言ってる自分に自嘲気味に笑みがこぼれた。















「ただいま」

そう言っても返事など返ってくるはずもない。
令子が死んで1年・・・・・・・この家に住んでいるのは俺一人なのだから。
前は『子供でもいたら』とたまに思うことがあったが、
それだけでも令子を思い出しそうで、今ではなるべく考えないようにしている。

「ん?」

玄関をあがろうとした俺の目に郵便ポストに入れられてる小包が止まった。

「誰からだ?」

俺は無造作に小包を取り出すと差出人の名を確認した。
差出人・・・・・それは令子の母親、つまり隊長からだった。
重さは・・・・・・・どうだろう単行本2冊くらいだろうか?
俺は取り合えず小包を持って台所へ向かった。

ビリリィ、ビリビリ・・・

そして無造作に破り中身を取り出した。
それは・・・・


「・・・・・・・・・・日記?」

『Diary』と書かれた冊子をペラペラとめくる。
そしてすぐに気付いた・・・・間違えるはずない、この字のクセ・・・日記の主が令子だということに。

「何を今さら・・・・」

俺は一言だけ呟くとパタンと日記を閉じた。
悲しみは時が癒してくれる・・・・そんなことを誰かが言っていたが俺の中では日増しに令子がいない寂しさと、
なぜ助けれなかったという後悔の念が大きくなるばかりだった。
だから・・・・日記など読んでそんな想いを大きくするのまっぴらごめんだ。

「・・・・・・・・」

だけど俺の意思とは反して体が無造作に日記を開いた。
ここまできたら覚悟を決めよう・・・・そう思いパラパラと適当にめくった。

















「2006年4月2日

最近どうも調子が悪い。
霊力も落ちてきているような気がする・・・いや、確実に落ちている。
とにかくあいつの足を引っ張らないようにしなければ・・・」







「あいつ一年も前から・・・」

気付かなかった・・・・俺の目に令子の不調が映り始めたのはこの日付の半年後くらいだった。
それからさらにページを進める。
結婚記念日、誕生日、クリスマス・・・・いつも文句をたれていたはずなのに日記には『楽しかった』、『嬉しかった』の文字。
相変わらず素直じゃないな・・・そう思うと自然と笑みがこぼれた。









「2007年3月24日

今日からこの日記の内容が闘病日記なりそうだ。
あいつと医者は全然たいしたことない病気と言っているが、
自分の体は自分が一番分かってる・・・。
おそらく、妖毒。しかも遅効性・・・・・・・・・血清はないに等しいのだろう。」


「2007年4月4日

今までにも増して霊力の減少が大きい。
それに伴い吐血、発熱の回数も増えてきた・・・。
病室の窓からは桜がきれいに咲いている・・・私はあっさり散ったりしない。
もう一度一花咲かしてやるんだから♪」


「2007年4月17日

今日もママとひのめがお見舞いにやってきた。
ママは相変わらず明るく取り繕っているが、ひのめもそれにつられて無理に笑顔を作っているのが痛々しい。
そのことを言ったらひのめが私に抱きついて大泣きした。
改めて思う、こんな小さな妹残して死ねない・・・と。」


「2007年4月29日

今日は先客万来だった。
先生、エミ、冥子、タイガー、ピート。
今のGS界を代表するメンツ・・・あんたら仕事行けよ・・・そう思いながらも、
更に後退していた先生の頭を見るとそれは言えなかった。
私とエミがケンカして、それをピートが一生懸命止めて、冥子が暴走しかけて・・・
そんな楽しい光景にあと何回私はいれるんだろう・・・・」


「2007年5月5日

世間ではゴールデンウィーク。子供の日だっけ?
そういえば、私とあいつの間には子供がなぜか出来ない。
ずっと欲しい欲しいと思っていたが、今ではいなくてよかったと思う。
あいつを縛るものは少ないほうがいい・・」


「2007年5月10日

おキヌちゃんが見舞いにきた。
今では六道女学院の先生だそうだ、私と旦那とおキヌちゃんで活躍してたころが脳裏に鮮明に浮かんでくる。
私が死んだあとは頼むと言ったら、涙を流しながら怒られた。
謝りながらも私はあいつをまかせれるのはおキヌちゃんしかいないと確信する・・・
だっておキヌちゃんがいまだに独身なのは・・・・・・・・・。」


「2007年5月13日

西条さんからの報告・・・
やっぱり遅効性の妖毒だった。にしても数日中に死亡・・・・か。・・・そんなに急に言われても覚悟なんて出来るわけない。
あいつは文珠の力で過去に戻ると言っている。
10年前・・・・あんなに頼りなかったあいつがここまでたくましくなるなんて・・・
私の目利きは確かなものだったわね♪」


「2007年5月14日

ダメだった・・・
あいつが持ってきた血清は今の私には効果がなかった。
おそらく病状の悪化や、個人の免疫力の差が原因だと思う。
泣こうにも先にうちのヤドロクのほうが泣き出した、全く情けない・・・
そう思いつつもあいつの頭を撫でながら笑みがこぼれた。」


「07ねん  5がつ16日

きょうは  つかれた。
日に日にペンをも つ手が重くなる 
とに かく今は寝よ う」

「07年 5 1 7
とくにな し」

「07ねん 5月18

とく になし」


「2007年 5月19日

多分これが最後の文になると思う。
今、私のベッドの隣では旦那がいびきをかきながら予備ベッドに寝ている。
ここ数日看病でろくに寝ていないのだろう・・・起こさないようにそっと口付けをした。
温かいぬくもりだった・・・もう二度と味わうことが出来ない温かさに今涙がこぼれている。




恐い・・・・死にたくない・・・死にたくないよ
まだいっぱいやりたいことも、会いたい人も、欲しいものもあるのに・・・
何より・・・もっと・・・もっとたくさんあいつといたい、一緒にいたいよ




・・・・・・・・・グチはここまで。
美人薄命ってホントなんだ・・・そう思うと少しだけ笑顔作ることができた。
もう・・・何か眠くなってきた・・・明日もいつも通り太陽の光を浴びれるといいな・・・あいつと一緒に」












日記はここで終わっていた。
5月19日・・・あいつが死ぬ一日前で・・・
最後のページには・・・あいつの涙だろう・・・濡れたところが乾いてしわになっている箇所がいくつかあった。
あれ?また新たに最後のページ濡れていく・・・これは

「俺の・・・・涙・・・か」

ボロボロと溢れる涙が拭って拭っても止まらない。
こんなに涙が出たのは令子が死んだとき以来だろうか・・・
このまま大泣きしようかと思ったとき


「これは・・・」

日記から何かがはみ出ていた。
それをスルスルと取り出してみる・・・俺が手にしたもの・・・それは・・・

「手紙?」

手にしている手紙、それは簡素な白い封筒に包まれている。
宛先は・・・俺。差出人は・・・・・・・・横島令子・・・。
今は亡き妻の手紙に俺の心臓が飛び上がった。

ビリ・・・

震える手で封筒の頭を破り、便箋を取り出した。














『TO 愛するヤドロクへ



私とあんたの仲だから堅苦しい口調はやめとくわよ。

この手紙をあんたが読んでるってことは私死んでるわねー!
いやーまいったまいった!こんなに早く死ぬなんて思わなかったわね。
と、まぁ前置きはここまでで・・・
あんたのことだから、美人妻の私が死んで落ち込んでるんでしょ?
はぁ〜、これだから・・・・心残りになっちゃうのよ。
いい?この手紙は私が死んだ一年後に届くようにママに頼んでおいたの、
一年くらいは喪に伏してもらおうってね。でもね・・・・

もういいから・・・・

私はもういないんだから・・・そろそろいい相手見つけなよ。
っていうか、一人しかいと思うけどさ。

まぁ、言いたいことはそんだけ。
じゃ〜、また来世(笑)
                 


追伸 

あんたと過ごした人生・・・・・・・・・結構楽しかったわよ♪
                           
              2007年4月30日 from あなたに愛された妻より』

















クシャ・・・・

さっきよりも震える手、いや体で俺はその手紙を握り締めた。
死んだ後まで俺の心配しやがって・・・・


「はは・・・・バカヤロウ・・・・」


手紙の通りもし誰かとくっつくんなら一人しかいないと思う。
10年来の付き合い、いつも俺の面倒みてくれて令子が死んだあとでも俺を支えてくれてる青髪の女性。

「・・・・・・だけどさ」

俺は天井に顔を向け虚空を見つめながら言った。

「こんなの見て・・・・・・・・・・・・・・・・お前のこと忘れられるわけないだろう・・・・・・」


ぼやける視界・・・

溢れる涙・・・・・

でも・・・

今だけはそれを拭おうと思わなかった。






                                     fin   






あとがき

分かると思うんですが『ストレンジャー・ザン・パラダイス(28巻参照)』のバッドエンドパターンです。
未来はいくつにも分かれているらしいのでこういう令子の命を救えなかった未来もあるんでは?
と、思いつつ書いてみました。まぁ、紫さんのダーク作読んで書きたくなっただけですが♪

追伸

「血清がダメでも、こんな方法で令子が助かる!」っていうツッコミは勘弁して下さい(笑)


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