ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その10(B))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 3/28)






その20分前・・・・


高級ホテル『グランド極楽』の一室。
東京の摩天楼がキラキラと眩い光を放ち美しい夜景演出している。

「飲むかい?」

「うん」

ひのめは横島からよく冷えたオレンジジュースを受け取ると風呂上りのせいかそれをグっと一気に飲み干した。
大人ならこんなときは酒でも煽るのかな・・・ひのめは横島の飲むビールを見ながらそんなことを思った。

「服のサイズよかった?」

「え!う、うん♪」

ひのめは少しおどけてポーズをとってみせる。
今の服装は部屋に置いてあった蛍の予備の着替えでTシャツの上にトレーナー、とハーフパンツ。
さっきまで着ていたジャージや下着は地下の乾燥機に入れて来た。

「そりゃよかった」

横島はひのめの返答に満足そうな笑みを浮かべながら「よいしょ」とひのめの隣に腰を下ろした。
二人分の体重でギシっとベットが軋(きし)む。
ひのめはチラっと横島を見る、横島は何も言わず目の前のテーブルに置いたピーナッツをつまみにビールをコクコクと飲み干した。

(お義兄ちゃんと二人っきり・・・・・)

そんな特殊なシチュエーションがひのめの鼓動を加速させていく。

ひのめの初恋の相手は誰か?
そう聞かれれば間違いなく『横島忠夫』と返答が返ってくるだろう。
実際、姉と結婚するまでは横島のお嫁になるというのが夢だったりしてた。
さすがに今ではそこまでは想ってるわけではないが、それでも横島のことを母や姉と同じくらい敬愛していた。


ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ・・・・


しだいに早まる動悸を抑えるように自分の胸をギュっと握るひのめ、
そしてチラっと横島の顔を横目で見た。

「!」

横島と目が合った。ひのめはゆでだこのように赤くなるながら急いであさっての方向に顔を向ける。
おそらく赤面してるであろう自分の顔を見られたのではないかと余計な心配がさらにひのめの頭を困惑させた。
そんな、ひのめに横島は優しい、それでいてちょっとだけ困った表情で聞いてみた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何かあった?」

その一言でひのめの心が急激に冷めていく。
先ほどまで感じていた激しくも温かい胸の鼓動が収まり、
シャワーで温まった体も急激体温が下がっていったような気がした・・・

「い、言いたくなかったらいいんだ」

急に暗くなったひのめの表情に『しまった』と思いながら横島は気まずそうにビールを一口飲んだ。
ひのめはさっきまで投げ出していたスラっと長い足を折りたたみ、体操座りの格好でベッドに腰掛けた。

「私ね・・・・」

「ん?」

ひのめの言葉に反応する横島。

「私ね・・・・・・・・・・・ママやお姉ちゃん・・・・・・・蛍ちゃん達のことが嫌いなんだ・・・・・・・・・・・」

衝撃的な一言。
自分の義母や妻、それに子供達まで嫌いと言われて動揺しない者はいないだろう。
だが、横島はそんな様子を微塵も見せずにひのめの言葉にジっと傾け続けた。

「私がどんなに努力しても決して追いつかせてくれない・・・・その上・・・・・・・・・・・・・追い抜かれて・・・
あっという間に見えなくなっちゃうんだ・・・・・・・・・・・みんな・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「しかも世間じゃ美神令子の妹・・・・・・美神の血統・・・・・
そんなものがいつまでも私にまとわり付いてくるし・・・
・・・・・・・もう・・・・・・・・・・・疲れちゃった・・・・・・・・・・・」

ひのめはギュッと自分の膝を抱きしめ顔をうずめる。
そんなひのめの体が少しだけ震えてきた・・・・

「そっか・・・・・・」

横島は震えるひのめから視線をそらし、グっとビールで喉を潤した。
そして相変わらず俯いたままのひのめに声をかけた。

「なぁ・・・・・・・・・ひのめちゃんはさ・・・・・・・・・・・・将来何になりたい?」

「え?」

横島の突然の質問に目を丸くするひのめ。
自分の将来・・・そんなもの六道女学院にも通っているのだ、『ゴーストスイーパー』以外にあろうはずもない。
そんな当たり前のことをなぜ聞くのだろう?とひのめは心で呟いた。

「いや、別に美神家だから、六道女学院に通ってるからってGSになるって決まりはないしさ・・・
それに運動や勉強も並以上なんだろ?他にもなれる職業なんてたくさんあるし」

「そ、そうだけど・・・・」

言われて改めて思った。
自分はいつの間に美神家=GSというレールに自分で乗ったのだろう・・・
いや、母も姉も今までそんなことを言ったことはない。
好きな職業につく、それはGSでなくてもいい。そんなことはとうの昔に気付いてた・・・・それでも
それでも・・・・その道を目指すのは・・・

「お義母さんや・・・令子のことが大好きだからじゃないのかな・・・・」

「!!?」

「これは俺の推測だけどね。違ったら謝るよ」

「嫌い!・・・・・・・・・・・・・嫌いなんだから!!」

ひのめの激昂に苦笑いを浮かべて手をひっこめる横島。


「でも、本当に嫌いなのは・・・・・・・・・
何にも出来ないで・・・・・・・・・・・・・・・・・人の才能に嫉妬して・・・・八つ当たりしちゃう自分なんだ・・・
・・・・・・・・・・・・・・ホント・・・・ヤな娘だよね・・・」

ひのめは自嘲気味に笑うとスっと窓の先に映る夜景を見つめた。
何てキレイなんだろう・・・・私の心とは正反対だ・・・・
そんなことを思いながらしだいにその夜景が涙で霞んでいった。
そのとき自分の頭に温かいぬくもり・・・・横島の手のひらが添えられていることに気付く。

「ひのめちゃんはいい子だよ・・・・努力家で、やさしいくて、明るくて・・・・そして何より常識人・・・・
だから・・・俺はそんなひのめちゃんが好きだ」

横島は屈託の無いでひのめの頭を撫でた。
年頃の女の子を励ますにはずいぶん幼稚なセリフだと思う。
それでも本心からの言葉・・・・・・・・・・・・・・それがひのめの心にもゆっくり浸透していった。

「俺だけじゃない・・・お義母さん、令子も蛍も・・・・・・・・・そして忠志と令花も・・・
みんなひのめちゃんのことが大好きなんだよ」

「・・・・うっ・・うっ・・・グず・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」

溢れる涙・・・今度は悲しいからじゃない、嬉しい・・・・温かい涙。
ひのめはポロポロと心の雫をこぼしながら頷く。
そんなひのめに横島はやさしい笑みで微笑むだけだった・・・・・・・・・・・・・・


















ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ。

ひのめのすすり泣く声に混じるように横島の携帯の着信音が鳴り響く。
横島は机の上に置いてあった携帯を手に取ると着信ボタンを押し電話を耳によせた。

「はい。・・・・・・・・・・あ・・・・うん。・・・・・・・・・・・・・・・・俺から?・・・・・ああ・・・・分かった・・・・そんじゃな」

「誰から?」

「ああ、令子から」

「そう・・・・」

電話の声の主の名を聞いてひのめの表情が少し暗くなった。

(いっぱい心配かけてるんだろうなぁ・・・)

落ち着いてきた心で心配をかけているであろう人々の顔が思い浮かぶ。
令子・・・・・・・・・・美智恵・・・・そして蛍・・・。
その中でも手を叩き払ったとき、蛍が自分を見る畏怖の視線に罪悪感がわいてくるひのめだった。


「なぁ、ひのめちゃん」

「ん?」

何気なく返事をしてひのめは気付く。
電話を切ったあとから横島の表情が急に真面目になったのを、
いや、真面目というよりは緊張感、使命感のようなものを帯びていることに。
その緊張感が伝わったのか、ひのめの体もなんだか固くなっていく・・・
そんなひのめを見つめながら横島が重そうにその口を動かした。

「君は・・・・・・・・・・・・・・・・・霊能力の才能は間違いなく受けついでいるよ。
しかも・・・・・・・・・・それはズバ抜けた才能だった・・・・・・・・・・・
・・・・・だけどその才能は・・・・・・・・・・・・・・封印されてるんだよ・・・・・・・・・・」

「え!・・・・・・・・・・・・・な、何で!!?」

横島の紡ぐ言葉が鈍器のようにひのめの頭の中に響いた。
自分が今までコンプレックスに感じていた『霊力』、それが自分には飛びぬけたほどあるらしい。
それなのに何故自分は使えない?そんな当然の疑問がひのめの表情に出た。
横島はひのめの顔を見て少しだけ暗い表情を見せる。

「あれは・・・・・・・・・・・・・・・・もう12年も前になるかな・・・・・・・・・・・・・」


コトン・・・・

空になったビール缶を机の上に置くと・・・・・・・・・・・・・横島は静かに語り始めた。









                                   その11(過去編)に続く。



今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa