ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−39


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 3/28)


魔神6体による電撃作戦。
それが発動した魔界は大いに沸いていた。
長い歴史を通して、魔界がここまで大きなアクションを取ったことは稀である。
電撃作戦は成功し、神界は駐留所とチャンネルを失った。
かつてのアシュタロスの挙兵は、彼一人のスタンドプレーという側面があった。
しかし、今回の作戦は魔界が総力を上げる狼煙であると受け取られていた。
単純明快の力押しでありながら、最大限の効果を発揮した作戦。
分かりやすいが故に、魔界では多くのシンパが集まることとなる。

新しき魔神横島は着実に名声を得始めていた。





一方、魔神達が人界遠征をしている頃。
横島の居城ユーチャリスでは一つの実験が行われていた。
それを行うのはドグラ・マグラであり、ジークであった。
実験内容は『因果律への干渉』である。
正確には干渉ではなく、鑑賞であったが。
宇宙の意思への干渉が上手くいくかどうかの試金石としての実験。
失敗すれば、他の魔神や神界に計画が露呈する怖れもあり、二人は酷く慎重に事を行っていた。

「ジーク、もう少し、200マイトほど出力を上げてくれ」

言われて無言で、魔力の出力を上げるジーク。

「上げすぎだ。もう10マイトほど出力を下げろ。因果律に触れる寸前だ」

やはり無言で出力調整を行うジーク。
今回の実験の肝は、宇宙を司る法則の一つ<因果律>の存在を確認することである。
一般に<因果律>とは、<運命>と呼ばれることもある。
偶然を支配し、必然とする。
それは如何なる存在でも――――例え最高指導者達でも不可能な行動ではあったが、一つの法則性として確認が取れていた。
今回の実験は干渉に必要なデータ収集であった。実験方法(干渉方法)が正しいかの確認でもある。

「フム。成功のようだ。もう良いぞ?」

言われてやっと身体の力を抜くジーク。
<因果律>を映し出していたビジョンがブラックアウトする。

「フゥ――――」

「お疲れ。感想は?」

「覗くだけでもこんなに疲れるのに、干渉するとなったらどれだけの力を要することやら………」

「ワシも知らん。ポチはエネルギー供給源に心当たりがあるから、それ以外の準備を整えておくように言っておった」

「しかし………本当に可能なんですか?“3界全てに呪いをかけるなんて”」

「さぁな。少しでもマシな世の中にする、前向きな呪いだ。
 ワシ等のようにまったりとした性格の魔族にとっても、成功することに吝かではない」

横島の計画の根幹部分に携わっている。ジークにはそんな自負がある。
しかしジークは疑念を消すことが出来ない。
横島はもっと遠くを見ているような気がする。自分達には語られていない真意があるのではないか?

ジークの気苦労は絶えなかった。


――――同時刻――――


地下でジークとドグラ・マグラが実験を行っていた頃。
ユーチャリスの地上部分で、ベスパ・パピリオ・リグレットが手勢を大量生産していた。
蜂、蝶、蛍を元に次々と力を込める。
人界へ攻め込む上で、大規模な軍勢は必須だ。
横島によれば、人界占領が目的ではないという。だからある程度の数さえ揃えば問題ないとのこと。
自分の存在意義を見出せないリグレットをわき目に、ベスパは悩む。

『姉さん復活の希望は潰えた。
 時間をかけて待ちさせすれば、いつか姉さんに会うことも可能だったろうに………。
 必要とあらば、この身を提供してでも転生させる!そう思っていたのに。
 正直、人間が憎い!
 だけれど、こんなことをして何になる?
 人界へ攻め込むことに何の意味が?』

またあの悲劇が繰り返される。とは思わない。
横島もその点に思いを馳せたのか。最低限の知性以外は与えないように指示している。
少なくとも、敵とココロを通わせるほどに感情を発達させてはいない。
悲劇を予防する意思と、悲劇を起こすだろう人界侵攻。
この矛盾を整合させる理由があるのだろうか?
結局、自分は流されているだけなのかも知れない。
あの時も。そして今も。

「どうしたんでちゅか?」

考えに没頭し過ぎたらしい。パピリオの顔が間近に来ても気付かなかった。

「いや、何でもないさ。お前………」

そこで口を噤む。

――――お前、横島のやってることは正しいと思うか?

愚問だった。妹はルシオラの復讐に燃えている。
自分がそうであるように、彼女はリグレットをルシオラとは思っていない。

クシャッ

パピリオの頭を鷲づかみにして撫で回す。

「な、何でちゅか?」

「何でもないよ。姉妹のコミュニケーションって奴だ」

ブツブツ文句を言いながら、結局はベスパのしたいように任せる。
何だかんだ言って、姉とのコミュニケーションは嫌いではないらしい。

そしてそれを眺めるリグレットは、一人疎外感を感じていた………。




ユーチャリスにも情報収集のためのセンターのような場所がある。刻一刻と変化する、魔神達と神族の戦い。
変化の度合いは神族側の数の変化のみではあるものの、決して気は抜けない。
失敗する可能性など無きに等しいが、横島による人界侵攻の足がかりとなる一戦だ。
ユーチャリスにて、手の空いている者はセンターに集っていた。

「やはり妙神山は固いな。
 魔神リリスと言えども、中々前に進めていないようだ」

ワルキューレが腰に刺した剣を指で叩きつつ、呟いた。

「小竜姫が協力すれば、簡単に落ちたんじゃないのかい?」

メドーサが皮肉気な表情で応じる。

キッ

睨む小竜姫。かつては自らが守護していた山だ。そこには様々な思い出があり、尊敬する師もいれば、付き合いの長い部下もいる。
出来れば見逃して欲しい。そう横島に嘆願するも、返事はNO。
確かに妙神山は戦略的に重要な拠点だ。今後の戦いの有利に進める上でも見逃す手はない。
武神斉天大聖の座す聖地ともなれば、敵味方に与える心理的影響は大きいが故に、最初に落すことが決定されていた。
小竜姫はそこで協力を求められなかったことに安堵を覚えていた。同時に無力な自分を歯がゆくも思う。

「ところでワルキューレ?貴女、剣なんて持ってたの?」

気を紛らわすため。というわけでもないが、気になっていた質問をする。

「これか?マイ・ロードからの頂き物だ。
 主からの贈り物を無碍にも出来ん。
 性に合わないが、一応は士官学校でも指南は受けたしな」

「そうなんですか」

言いながらワルキューレの剣を眺める。強い魔力が込められているのがすぐに分かる。
しかしこれは…………。

「横島さんの魔力?」

「気付いたか。まぁ、当然だな。
 マイ・ロードが直接念を練り込んだ一品らしい。
 半端な威力じゃないぞ。それこそ真面目に剣技を修めるのが馬鹿馬鹿しいくらいな」

「見なよ。
 斉天大聖を封じるのに成功したよ。
 これで妙神山は落ちたな」

メドーサが無感動に知らせる。
それは作戦が9割方成功したことを意味していた。






「いよいよ始まったようやな〜」

「そのようですね。本当に良かったんですか?
 彼はお気に入りだったんでしょう?」

「まぁ、かまへんやろ?
 それが本人の希望やし、わてらも楽しみが伸びるっちゅうもんや」

「それにしても彼の準備だけでは心もとない気がしますが。
 宇宙意思の力は一介の魔神が押さえ込めるものではありませんよ?」

「そん時はわてらが力を貸してやったらええ。
 あいつは十分やっとる」

「最初からそのつもりでしたけどね。
 今度は…………彼ら全員を救ってやれると良いのですが」

「そうやな。魂の牢獄なんて碌なもんじゃないからな」

「ええ、気付くのがもっと早ければ何とかしてあげられたのに………」

「まぁ、それも横島の頑張り次第やな」

「期待しましょう。彼の想いの強さに」





かつて。横島はワルキューレ達に語った。
自分の目的は神界・人界・魔界の3界全てに呪いをかけることだと。
呪いの内容は生きとし生ける者の心に干渉すること。
その心にほんの少しだけの『優しさ』を植え付けることだと。

ワルキューレは問うた。
『そんな話は聞いたこともない。そんなことのために魔神になるのか』と。

ジークも言った。
『悪いことは言わない。夢を見るのは止めろ』と。

しかし彼の行動を止めることは出来なかった。
そして横島は彼らの想像を越える行動力を見せて、実現のために布石を打った。

横島の目的を知った小竜姫は問うた。
『そんな単純なことのために、あれだけの準備をするのは不思議だ』と。

横島は答えた。
『これは世界創世に匹敵するほどの大呪術。全ての生命体に干渉するつもりだ。単純だからこそ効果は大きい。単純じゃなければ、実行は不可能だ』と。

小竜姫は更に問うた。
『人界に限定すれば、もっと簡単なのではないか。神族や魔族の抵抗は半端ではない。貴方が憎んでいるのは主に人間なのではないのか』と。

横島は更に答えた。
『事はそんなに簡単では無い。人界だけに限定して博愛の心を植え付けたとしても、それは神界と魔界に付け入る隙を与えるだけ。だから自分は3界全てを呪う』と。

更に彼は言葉を続けた。
『最高指導者達がそれを認める理由。それは進化のためだ。デタントにより多様進化の道を歩んだ世界は行き詰まりを見せている。人界を例に取れば、産業革命以来、文明は爆発的な進歩を遂げた。20世紀初頭から20世紀末までそれは顕著だった。しかし、そこからの進歩は非常に緩やかになった。それまでに比べれば、牛歩と呼べる程度にまで速度は落ちた。このままでは壁にぶち当たる。ならば!その壁をぶち破る新たな刺激としてそれを認めるのだ』と。

小竜姫は震える声で呟いた。
『それでは自分達の世界は彼らにとって箱庭でしかないのか。今準備している大呪術も、箱庭に与える栄養剤でしかないのか』と。

横島はたった一言だけ答えた。
『YES』と。

そして横島は彼女に協力を要請する。
協力しないのならば、邪魔だけはするなと言う。



小竜姫は返事が出来なかった。



動きを封じられればそれで良い横島は、特に返事を強要しない。

真の目的を覆い隠すフェイク。
未だ、彼の真意に近づいた者はいない。
そのフェイクに疑問を感じつつも、その真意に近づいた者はいない。

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