ザ・グレート・展開予測ショー

心は共に・終


投稿者名:マサ
投稿日時:(03/ 3/28)


「…………?!」
異変に気付き、おキヌは森の奥の方を見る。
「何の……光…?」
―自然な呟き。
とても淡く…それでいて見失う事の無いほどはっきりと確認できる一筋の光。
森の奥から漏れるその光に向かっておキヌは駆け出した。
胸の高鳴りが先程よりも激しくなっていく。
―苦しい……―
酸素の供給が追いつかない。
服の胸の辺りを右手でぐっと握り、唯只管茂みの中を進んでいく。
獣道らしいが、細く低い木の枝に半分覆われていた。
不思議に、体がふわりと浮いたような錯覚に見舞われる。
葉の擦れ合う音、枝の折れる音、風のざわめき……。
それらが意識の表面で凍り付いていた。
何処か遠くの物のように耳に入る音全てに現実感のようなものが薄れていく。

生い茂る大小の木々の間を通り、掻き分けて行くと、突如視界が開けた。
それと同時に、先程まで朧気だった光が強くなったような気がする。
決して眩しいわけでもなく、それでいて周辺の草一つ一つが確認できるほどに光っているような感覚。
辺りを見回すと、正面の地面が途中で途切れ、下には一面の広大な森林が広がっている。
―崖。
あまり見覚えは無い。
そう言えば、この辺りにある崖については何時も家族から行かないように注意されていた―と記憶している。
そして、次の瞬間に起きた事が彼女を一番驚かせた。

今まで周囲全体を包んでいた光が一箇所に集まり始め、次第に形を形成していく。
長い髪を後ろで束ね、ヒトダマを浮かばせた巫女服の少女の形へと。

「……私…」

彼女にはそれだけの言葉を紡ぎだすだけで精一杯だった。
どうしてか、擦りガラスを通しているように朧気に月の光る夜空。
それを見上げ、微かに口を動かす光の塊。
実体の無い、普通は見えないそれ。

何故か、その場から動く事が出来ない。
動こうと思えば動けるのだろうが、頭の何処かでそれを拒否している。










夢だと思っていた。
というより、思いたかった。
―もう一人の自分―
形だけでなく、雰囲気が、“波長”が同じ…。
ただ怖いのとは違う。
けど、考えたくない。
寂しくて、つらくて。
そんな気持ちを知っているから…。
だから―怖い。

でも、何故?










凍りつきかけた頭で必死に考えを巡らせるものの、どうしても一つに纏まらない。
今自分のいる空間自体が何か、感覚を失ったような、それでいて懐かしいような。

『私……絶対思い出しますから……』
もう一人のおキヌがやはり夢の通りにそう言った。
今度はクリアに聞こえる。
既におキヌが夢で見たものと同じであるということを確信させるには十分な材料だった。
「あなたは、誰?私…なの?」
やっと発したおキヌの声は震えている。
『…私は……あなた。…思い出して』
返ってきた言葉におキヌは更に疑問が浮かぶ。
一体、何を思い出せというのか。
「思い出すって、何を?」
そう問うた時、もう一人のおキヌの形が足元から徐々に崩れて夜の闇に消え始めた。
切なさを含んだ様子でおキヌの手を取り(実際はあまり触れた感じは無いが)、俯いて涙しつつもう一人のおキヌは告げる。
『ごめ…んね…。もう……でも…き…っと…』
最後に微笑んで見せ、彼女は闇の中に霧散していった。

「…………」
先程まで存在を感じていた自分の手の平を唖然として見つめるおキヌ。
手が痺れている。
一体、何がどうなっているのか。
どうしても纏まらない。
そんな時だった。

「おキヌちゃん!」
聞き慣れた声。
何時も自分のそばにいる人の声だ。
何処からか嬉しさが込み上げてきて、おキヌは無意識に振り向いていた。
「お姉ちゃん!」
姉、早苗の立っている目の前の林の方へと。
早苗はおキヌの所へ歩み寄ると空を見上げてこう呟いた。
「…きっと言いたかったんだべな。“思い出して”って」
「え?」
首を傾げるおキヌ。
霊感の強い早苗は多少離れていても聞こえていたようだ。
「あ、こっちの話だから」
両手を前でひらひらと振って誤魔化して見せ、早苗は胸中でつい口が滑った自分を悔やむ。
「そう…」
短い呟きの次には、おキヌがふらりと早苗に正面から寄りかかる形でよろめいた。
「お姉ちゃん…なんだか、眠い…」
そう言うとそのままおキヌの意識は深い眠りの中へと沈んでいった。
「疲れたんだべ。早く家に戻ろう」
「…すーすー…」
よく眠ってる、と安堵の言葉を洩らし、眠っている妹をおぶるとその場を後にする。

「…この感覚は……」
少し歩いた所で早苗は覚えのある感覚を覚えたと同時に軽い眩暈を起こす。
他人のテレパスの媒体となる時の気の遠くなるような感覚。
唯一つ違うのは、早苗の意識は完全に消えていないことであるが。
「おキヌちゃん…?」
ふと背中で未だ眠っている妹を見ると歩みを速める。
このままでは何時自分が意識を失うか分かったものではない。





























「はぅ〜。ただいまぁ〜〜〜」
玄関を上がった所でおキヌを背中から降ろし、疲れた様子で早苗がうつ伏せにべたりと倒れこむ。
体力に自身のある早苗にしては大げさな姿だが。
「どうしたんだ!?二人揃ってこんな時間に外へ出て!」
怒鳴り声と共に奥から父が、それに続いて母が出てきた。
流石に声音で父の眉がひくついているのがうつ伏せになっている早苗にも分かる。
「説明するから、怒らないでけろ〜」
体勢はそのままに、頭の上で手を合わせる早苗。
「そうか…。…足の方を持ってくれ」
軽く頷くと、仰向けのおキヌの脇の下の方から腕を回して上半身を持ち上げる。
はいはい、と言って母が足の方を持ち、彼女の部屋へと運んで行く。
「…よいしょっ」
両親の後姿を見つつ早苗はゆっくり立ち上がり、居間へ移動した。
その場に座り込むとぼーっと天井を見上げ先程の出来事を思い出す。
実際には彼女が見たのはあの光が霧散し始めた頃だ。
細かい事情までは分からない。

「で、何をしていたんだ?」
振り向くと父が神妙な顔で早苗を見つめていた。
その後、二人がこの夜の森に入っていった理由と、早苗の見た事について説明が入る。
「で、父っちゃはどう思う?」
「うむ…。多分、おキヌの前に現れたそれは残留思念だろう。それも、言っている内容から生き返る直前だと思う」
「やっぱり、300年ともなると幽霊でも出来るんだべな」
「まぁ、そういうことだな」
腕組みして答える父に苦笑いを浮かべて早苗が賛同する。
「でも、なんで今頃その残留思念がおキヌちゃんを呼んだのかな?」
「さぁ…。何か切っ掛けがあったとしか」

尚、父が娘たちの不在時に慌てふためいていたのは母だけが知る事実である。






























その後、この話題に結論が付く事は無く、次の朝を迎えることとなった。

「……ん〜?」
細目がちの寝惚け眼で周囲を見渡す。
―自分の部屋だ。
そして―。
「あれ?お姉ちゃん?」
ベッドに凭れて座った体勢で寝ている姉を見つける。
「…ん、…ふぁ〜。おはよう、おキヌちゃん」
「お、おはよう、お姉ちゃん…」
大きく伸びをしながら構わず“おはよう”などと言われてしまうと後の言葉に詰まってしまう。
「あのさぁ、朝っぱらからナンだけど…」
「え?」
早苗の口ぶりにおキヌは疑問の声をあげた。
触れるべきかという迷いからやや躊躇したが、早苗は思い切って切り出してみる。
「昨日の夜、アレに何言われたの?」
「えーとぉ…」
「うん…」
ごくり、と早苗の息を呑む音が聞こえるようだ。
「ごめんね、憶えてない」
「だぁぁぁぁ〜っ!?」
真剣な表情から一気にずっこけた。
そのギャップからして、かなり大きく。
「ほ、本当に憶えてないの?」
「うん…」
こくり、と申し訳なさそうにおキヌが頷く。
「ねぇ、“アレ”って何?」
「いや、いい。どうでもいい事だから」
「そ、そうなの?」
「うんっ!」
力一杯頷いて見せ、早苗はおキヌの部屋を後にした。
ぶつぶつと一人ぼやきながら。

「変なお姉ちゃん…」



































「どうしたんです、横島さん?元気出してください!」


「心はいつも一緒ですよ。私たち3人…たとえはなればなれでも…!」

そう、何時も、3人の―心は共に。




Fin

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