ザ・グレート・展開予測ショー

悪夢 第一夜


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 3/27)








「……みさん、起きてください。美神さんったら……!」

 揺り起こされる美神。

「ン、ア〜ァ……」

 起き上がり、背伸びをする。そこにはおキヌちゃんがいた。

「なに?おキヌちゃん。折角、いい気持ちで寝ていたってのに……、」

 そう言うと、突然、おキヌちゃんは大粒の涙を流し始めた。

「え、なに、どっ、どうしたの!?」

 突然泣き出されて、一体何がなんだか分からない。すると、おキヌちゃんは泣きじゃくりながら、美神の胸を叩く。

「美神さんの、バカバカバカバカッ!!何でそんなに呑気にしていられるんですか!?横島さんが死んだって言うのに!!」

「えっ……?」

 有り得ない。美神はそう思った。現に横島は昨日も元気に仕事に来ていた。何一つ変わりのない、いつもの表情をしていたし、気に病んでることもなさそうだった。それ以前に自殺するようなタマじゃないことは百も承知だ。もしアイツが死ぬことがあれば事故しか考えられないが、トランクに閉じこめて、海に投げ入れても死なないヤツが単なる事故で死ぬだろうか?

「まさか……、アイツが死ぬわけがないじゃない!?」

 これは夢だ。そうに違いない。でなきゃ、あの横島クンが死ぬはずがない。美神はそう思いたかった。しかし、号泣するおキヌちゃんの様子を見ていると、嘘ではなさそうだった。

 試しに自分の頬をつねってみる。……痛い。そんな馬鹿な…、本当にそう思いたい気分である。しかし、現実は現実である。美神は溜め息を一つ、つく。そして膝元で泣く、おキヌちゃんの顔を見ようとする………

 が、


















「はっ!?」

 気が付くと、そこは葬式会場。いつの間にか美神自身も喪服姿だ。膝の下で泣くおキヌちゃんの姿もない。あまりの状況の変化に辺りを見回すと、見慣れた顔が並んでいる。そして横には、横島が……。





















 エッ、横島クン?






















 美神は驚き、のけぞる。おキヌちゃんに死んだと聞いた横島が、目の前にいる。喪服こそ着ているが、トレードマークのバンダナを付けた生身の彼だった。試しに横島の頬をつねってみる。

「……イデデデデデデ!?な、なにするんスか、美神さん!?」

「あ、生きてるわね、ちゃんと……。」

「当たり前ッスよ、イキナリなんですか?」

 葬式の最中なので、横島がつねられた時の悲鳴以外は小声で話す二人。しかし、美神は横島が生きていることに、安堵していた。安堵する理由は分からないが、とにかく胸がホッとしたのだった。

 しかし、それも束の間、美神は不思議に思った。今やっているお葬式は一体、誰の葬式なのだろうか?それにさっきまで自分の膝で大泣きしていた、おキヌちゃんの姿もない。自分の左右両脇にいるのは、ママと横島クンだけ。その奥にも、そのまた奥にも、いくら見回してもいない。美神はコソッと横島に耳打ちした。

「ねぇ、横島クン。これって誰のお葬式だっけ?それとおキヌちゃんが居ないようだけど、どこいったのかしら……?」

 それを聞いた途端、横島の顔色が豹変し、彼は頭をうつむけた。そして彼の目は今にでも涙があふれ出そうになっている。しばらくの沈黙の後、横島はようやく口を開いた。

「美神さん……、それ、本気で言ってるんですか……?」

「エッ?」

「前を見て下さい……。そうすれば、全て分かりますよ。オレからは何も言えません……。」

 この世の終わりであるかのような悲愴な顔をして、言う横島。前を見ろ?美神は疑問に思った。葬式会場で一番前にある物。それは言われなくとも分かり切っている。


 まさか………!!


 美神は恐る恐る前を向く。前を見ると、目の前には遺影の入った額縁がある。そこには大抵、というよりは間違いなく、死者が生前に残した写真がはめ込まれている。そして美神が見た額縁の中には…、


















「…………………おキヌちゃん!?」










 信じたくても信じなければならない事実。しかし、美神には何がなんだかサッパリ分からない。さっきまで死んでいた横島クンが生きていて、さっきまで生きていたおキヌちゃんが死んでいる?
 おかしい。これが現実なはずがない。だとすれば、夢ということもあるが、それにしては質感がリアル過ぎる。では、一体何なのであろうか。エミの呪い?タマモの幻覚?それともナイトメアが復活して、私が気付かない間に復讐を仕掛けているのだろうか?

 ダメだわ………、と横に首を振る。どれも決定打に欠けるからだ。第一、これが現実なのか、夢なのかも分からない状況だ。対処の仕様もない。一体どうしたらいいのだろうか?


 分からない……。














 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない……。










 自分でも頭がこんがらがってきた。考えがループする、結論が出ない。自他共に認める世界最高のGSであるこの自分でも今の状況が分からない。多分、経験したことがないからであろう。しかし、そう思うと、余計にイラついてくる。


















「オイッ、令子。いつまでそうしてるんだ?」











 不意に肩を叩かれる。考えが煮詰まってイラついていた美神は八つ当たり気味に怒った顔で振り返り……、

「なによ?ちょっと静かにして…………って、オッ、オヤジぃ!?」

 目の前に立っていたのあの鉄仮面を被った自分の父親であった。辺りを見渡すと、ココは火葬場もようだ。また場面が突然変わった。もう何も言うまい。三度目にして、この状況に諦観している美神だった。

「何を驚いてるんだ、さっき会ったばかりじゃないか?」

「エ、エェ、マァ……」

 あっちはホンの数分前に自分と会っていたかも知れないが、今の自分は親父とまともに会うなんてのは、数年振りのことだ。よそよそしくなるのもおかしくない。

「まぁ、いい。火葬も終わったことだ、行くぞ。」

 そう言って、父親は外に出ようとした。

「待って!!」

 美神は父を引き止める。すると公彦は振り返り、

「なんだ?」

「なんだ?って、何でオヤジが骨壺の箱を持ってるのよ!?今日はおキヌちゃんのお葬式のはずでしょ!?」

 美神は父親が両肩にぶら下げ、手で支えている骨壺の箱を見て、声高に言う。公彦はキョトンとした顔でこちらを見ている。

「………?何を寝ぼけた事を言ってるんだ、令子。今日はウチの葬式だぞ?それじゃあ聞くが、お前の持っている、それはなんだ?」

「エッ………?」

 自分の腕を見る。すると自分がいつの間にか、遺影の入った額縁を持っているのに気付く。流れから行くと誰の遺影なのか、想像は付くのであまり見たくはなかったが、念のために自分の持っている額縁の中を覗き込む。


 そこにはやはり、自分の母の姿があった……。


「あぁ……、やっぱり……。」

 やはり同じ状況が三度も続くと、ウンザリもしてくる。というより、美神はやり場のない怒りがこみ上げてきた。

「……ちょっと、いい加減にしてくれない!?ドコの誰だか分からないけど、こーゆー悪趣味なのは嫌われるわよ!?言っとくけど、私は優しくないからね!!今すぐ止めないと……」

 額縁を投げ捨て、激昂する。額縁は投げられた勢いですぐに、ガラスに叩きつけられ、割れる音がした。

 ガシャンッ………!!

























 その時である。

 美神の周りの景色はガラスのようにヒビが入り、全てが止まった。音が無くなり、人も動かない。動いているのは美神、只一人。

「………?一体これは……、」

 不思議そうに辺りを見回しながらその空間を動く彼女。すると、どこからともなく声がした……。




―― ………そんなに知りたい?じゃあ、見せてあげるわ、真実を!!




「なっ!?」

 その声が言い終えると、ヒビの入った空間は音を立てずに崩れ落ちていき、新たな空間を見出していく。その先に見えた光景は日本墓地だった。そこには横島やおキヌちゃん、唐巣神父、はたまた自分の両親など、自分に馴染みの深い連中がたむろしている。美神はその集団に近づく。

「ねぇ、みんな、こんなトコでなにをし………!?」

 声をかけたが一向に誰かが気付く気配がない。しかも誰かの身体を触ろうにしても、自分の身体がすり抜けてしまう。ココにいる連中は全員、霊感が鋭い者ばかりである。もし自分が今、幽体離脱している状態であったしても、気付かない者はいないはずだ。

「変ね……?」

 一行はある墓の前で立ち止まっている。そして最前列には両親が居た。どちらも悲哀に満ちた表情をしている、というよりは全員がそのような表情だ。両親がその墓の地下に円筒を入れる。そして坊主がお経を唱え、全員がその墓に対し両手で拝むと一行は墓地を出ていく。その間、無論、美神の存在は気付かれていなかった。美神は一行の去った後の墓を見た。その墓石にはこう書かれていた。


『美神家之墓』と。




 そしてその側面にはきっちりと『美神令子』の文字が彫られていた……。





「え、ど、どういうこと?私は死んでいるって言うの……?」

―― それはアナタが判断することよ!!さぁ、行きなさい、あの光の向こうに!!

 声が再び囁くと、辺り一面に光が差す。すると美神はその光源の中心に吸い込まれていく……

「キャアアァァァァァ……!?」

 何も分からないまま吸い込まれてゆく美神。そして彼女がすっかり光に吸い込まれるとその光は跡形もなく消えてしまった。


 

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