ザ・グレート・展開予測ショー

愛しくて


投稿者名:矢塚
投稿日時:(03/ 3/27)

 
 オーナーのデスクに座り、私は彼を見つめた。

 かわり映えのしない顔に、少しよれの効いた風体。

 あなたはいつもと変わらないのに、いつから私のほうが特別な感情を抱くようになったのだろう?

 あなたのことを思うと、私の胸は胸がこんなにも高鳴る。

 あなたを見つめてると、つい微笑んでしまう。

 『好き』では、物足りない。

 『愛してる』では、照れくさい。

 この私の気持ちをうまく表す言葉は『愛しい』なのかも知れない。

 そう、私はあなたが『愛しい』

 私のこの思いは、きっとあなたにはほとんど伝わっていないわね。



 本当はみんながあなたのことを好きなのを、私は知っている。
 
 あなたの為に一所懸命になっている人たちを見ていると、嫉妬する反面、少しだけ嬉しい。

 だって、あなたにそれだけの価値があると、改めてわかるから。
 
 私はあなたが他の人に使われるのが、少し悔しい。

 だから、私の傍にずっといて欲しい。

 私の目の届くところにいて欲しい。

 絶えずあなたの存在を感じていたい。
 
 でも、みんなの手前、そんなことはさすがにいえないわね。 

 自分でもわかっている、私は素直じゃない。

 だって、私は美神令子だもの。
 
 「……美神さん。そんなにじろじろ見つめないでくださいよ……」

 つい気が緩んで凝視してしまっていた私に、横島クンが声をかけた。

 その彼の仕草は、困惑しながらも少しだけ苦笑しているようにも見える。

 「――だって、好きなんだもん――」

 おキヌちゃん達がいる前で、こんなことを言ったらひんしゅくを買いそうだけど、幸いにして今この部屋には私と彼しかいない。

 本当は『愛しい』と言いたいのだけれど、わざと軽く『好き』という。

 私の『好き』は、『愛しい』と同じ意味。

 私の言葉に少しだけ呆れたように、彼は「はいはい、わかりました」と受け流した。

 その態度に私はカチンとくる。

 だって、あなたが一番、私のこの気持ちを知ってるはずじゃない。

 いったい私と何年来の付き合いなの?

 さっきまでの愛しい気持ちがいくぶん霞んでしまう。

 険悪な空気になりそうな時に、おキヌちゃんが事務室のドアを開け挨拶とともに入ってくる。

 私を見たおキヌちゃんが、苦笑を浮かべて言う。


「……美神さん、また一万円を眺めてたんですか?」


「さっきからずっとだよ」

 わたしは横目で、横島クンの顔を見ながらゆっくりと、もう一度言った。



「……だって、好きなんだもん……」
 


 ――そう。最後の『好き』は『あなた』に向けて――



                 Fin

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