ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(21)


投稿者名:K&K
投稿日時:(03/ 3/26)

 「やあ、令子ちゃん、相変わらず賑やかだねここは。」

 「どうしたの西条さん、その格好。」

 令子が驚いたように目を見張った。

 『うっ、なにこの匂い。汗とタバコとコーヒーと・・・・』

 『さっ、西条殿、ここに来るときはシャワーぐらい浴びてきて欲しいでござる。』

 西条はネクタイも締めず、その顔は無精ひげに覆われ、目の下にはうっすらと隈が浮いていた。先程
まで口喧嘩をしていたシロタマは鼻を抑え、少しでも遠ざかろうと部屋の奥の壁にはりついている。

 「シロちゃん、タマモちゃんすまないね。今週はずーっと事務所に泊まりこみで証拠の分析に追われ
  てしまってね。でもそんなに臭うかい?」

 クンクンと鼻をうごめかして自分の体臭を確認する。

 「この子達は特別よ、たいしたことないわ。ところで何しに来たの?」

 「実はこれといって用があるわけじゃないだが、なんとなく此処にくればいいことがあるような気が
  したのと、息抜きをかねて令子ちゃんの顔をみにきたのさ。」

 「用がないならこんな所で油売ってないで、さっさと戻って仕事をしろ。この税金泥棒が。」

 横島が聞こえよがしに呟く。

 「税金を払っていない君にそんなことをいわれたくないね。それに僕は給料ぶんの仕事はしているつ
  もりだ。君の方こそ学生がなんでこの時間に此処にいるんだ。さぼってないでさっさと学校へ行き
  たまえ。君の成績じゃ出席日数が足りなければ即留年だろう。そうなったらナルニナのご両親が悲
  しむぞ。」

 「ケッ、余計なお世話だ。」

 「まあまあ二人とも、こんな所でケンカなんてはじめないでください。」

 嫌味の応酬が始まりそうな気配を察知したおキヌがあわてて飛んできた。

 「はい、西条さん。」

 湯呑を手渡す。

 「ありがとう、おキヌちゃん。」

 「証拠の分析って言うとやっぱり六日前のあれ?」

 おキヌから湯呑を受け取りながら令子が西条に訊ねる。西条はお茶を一口飲むと答えた。

 「そう。あの現場から押収された大量の弾丸や薬莢、精霊石の破片なんかの分析の真っ最中さ。」

 「で、何か解ったの?」

 「ああ、少なくともあの日起こったことはまさに戦闘と呼ぶべきもので、犯罪組織の抗争などという
  レベルではないということくらいはね。」

 「ほかには?」

 「まあ、まだ可能性にすぎないんだが何点かね。」

 「たとえば魔族軍が関与している可能性とか?」

 西条の目が微かに細まり、覗きこむような令子の視線を受け止めた。

 「その情報はまだ表にでていないはずなんだが…。令子ちゃん、何か知っているのかい?」

 「一方の当事者の名前くらいは。」

 「その情報、もしよければ教えてくれないか?、もちろんただでとは言わない。僕のポケットマネー
  の範囲で相応のお礼はさせてもらうよ。」

 「お金は特にいらないわ。そのかわりオカルトGメンに貸し一つよ。」

 「君に借りを作るのは少々怖い気もするが…。」

 「いやならこちらも無理にとは言わないわ。」

 「いや、今はどんな情報でもほしいんだ。ぜひきかせてくれたまえ。」

 令子はお茶を一口すすり喉を潤した。

 「西条さんはもう確信していると思うけど、この件には魔族軍が関っているわ。」

 「現場には魔族軍仕様の薬莢や聖霊石弾の破片も多数散乱していたからね。ただ、最近は魔族軍の軍
  事物資も闇ルートを通じてかなりこちらに流入しているらしいから、それだけで一概に魔族軍の関
  与があったと決め付けるわけにはいかないよ。」

 「そのことは私もママから聞いているわ。でも今回の事件に関して魔族軍の関与は確実よ。なにしろ
  横島くんが魔族側の当事者から直接話しをきいてきたんだから。」

 「魔族側の当事者って、もしかしてワルキューレかい?」

 「あたり。詳しいことは横島君がはなすわ。」

 「えーっ、オレッスか?・・・、ったく面倒なことはみんな人におしつけるんだから。」

 「なにか文句ある?」

 「いえ、ないっス。」

 横島はいかにも面倒くさそうに、結城の部屋で傷を負ったワルキューレに会い、文殊で治療したこと
。その際、彼女から任務遂行中にあの事件に巻き込まれて負傷したと言われたことなどを話した。

 「魔族軍の特殊部隊が人間に襲われて全滅しただと・・・、信じられないな。」

 西条は驚愕の表情で首を振った。

 「でもワルキューレは相手は戦闘のプロだったって言ってたぜ。」

 「もしそれが本当だとして、そんなことができる戦闘部隊は日本はおろか世界中を探してもごく僅か
  なはずだが・・・。まあそれは後で調べるとして、彼女は他に自分の任務についてはなにか言ってい
  なかったかい。」 

 「こちらに逃亡した魔界の過激派を追っていたって言ってたぜ。」

 「過激派の逮捕ね・・・。おそらくそんな単純な話ではないだろうな。」

 「どういうことだよ。」

 「今、政府のお偉いさん達は魔族の活動に対して非常にナーバスになっていてね。まあ、あの闘いが
  終わってまだ一年しか経ってないから無理もないんだが、現在判明している魔界とのチャネルを全
  て封鎖してしまえなどと言っている連中もいるらしい。」

 「そんなことしたら、人間界での神魔の均衡が崩れてそのままハルマゲドンに突入なんてことにもな
  りかねないわ。」

 令子が呆れたようにはきすてる。

 「ああ。当然その辺の事情は(美知恵)先生もよくご存知で、終戦直後から唐巣神父と一緒に単純バ
  カどもをなだめてまわっておられたよ。」

 西条は横島の表情をチラリと確認してから言葉を続けた。

 「魔族側もこちらの事情を良く理解していてこちらを刺激したくないと考えたんだろうね、此処のと
  ころ人間界では魔族軍は全く活動してなかったんだ。ところがそんな状況があるにもかかわらず、
  正規軍を動かしたということは、なにかそうせざるを得ない事情が発生したと考えるべきなんだろ
  うな。もっともこれは僕のカンだけどね。まあ殺された森村の背後関係を洗っていくうちにその辺
  の事情は明らかになるだろうな。」

 「ワルキューレはどうするんだ?」

 横島は幾分硬い表情で西条に訊ねた。

 「放っておくさ。」

 西条はお茶を啜ると放り投げるようにつぶやいた。

 「本来ならこの件の重要参考人として話しを聞きたいところなんだが、おそらくもう結城という学生
  のところにはいないだろう。そうなると彼女を探し出すのは不可能に近い。我々にはそんな事に人
  を割くほど人員に余裕はないし、魔族と事件との関わりについても、ワルキューレを捕まえて聞き
  出すよりは森村の線を洗ったほうが早く明らかになるさ。死者は逃げないし嘘もつかないからね。」

 横島の表情が安心したように和らぐ。西条はそんな横島の顔を真正面からみつめると、さらにことば
をつづけた。

 「ところで横島君、君に頼みたいことがあるんだが。」

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