ザ・グレート・展開予測ショー

ふしぎな頭巾


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/25)

 昔々あるところに、忠兵衛という若者がおりました。
 そのスケベ根性ほどに働き者ではありませんでしたが、毎日親から受け継いだ畑を耕し、ほそぼそとした生活をおくっておりました。

 そんな、ある日のことです。

 「おーい、忠兵衛よぉ!そろそろ昼メシにしよーぜ!」
 「おお、いま行く!」
 友達の雪之進の誘いに応え、あぜ道にあがったとき、
 「・・・・・・おや?」
 畑の横の草むらで、なにかが動いたような気がしました。
 忠兵衛は、目を凝らしました。
 「仔ギツネじゃねえか・・・」
 一匹の仔ギツネが、草むらのなかで、身を縮めていたのです。
 仔ギツネは、あわてて逃げようとしましたが、どうやら足を怪我しているようでした。
 「ああ、かわいそうに。よしよし、いま手当てをしてやるからな」
 忠兵衛は手ぬぐいを引き裂き、拾った木の枝で添え木をしてやりました。
 「あまり人里には下りてきちゃなんねえぞ」


 

 その夜のことです。
 忠兵衛は布団のなかで、ある夢を見ておりました。
 数日前に見かけた、町の鍛冶屋の娘さんの夢です。

 『やだぁ忠兵衛クン、目がえっちだぞ(はぁと)』
 『ハダカでその台詞ってことは、つまりアレっすね!?イイんすね!?ずっと前から愛して・・・』

 とんとん、とんとん・・・

 「ん・・・・・・?」
 「忠兵衛さん、忠兵衛・・・」
 忠兵衛は、戸を叩く音で目を覚ましました。
 「誰だい、こんな夜中に・・・?」
 外に出てみても、誰もいません。しかし、どこからか声が聞こえてきます。
 「昼間はありがとね。これは、ほんのお礼。あんたにあげるわ」
 空から、なにかがひらひら落ちてきました。
 「これは・・・頭巾か?」
 古ぼけた、なんの変哲もない、ただの頭巾です。
 「きっと、その頭巾は役に立つと思うわよ。んじゃねー・・・」

 屋根の上から、なにかが走り去る音が聞こえました。
 「さては、あの仔ギツネか」
 忠兵衛は家の中に入ると、さっそく頭巾をかぶってみました。

 『あーあ、腹へったなぁ』
 『やっぱ、この家はダメだ。ロクな食いもんがねえよ』

 忠兵衛はおどろいて頭巾を取りました。周りを見回しても、だれもいません。ただ、屋根裏からネズミの鳴き声がするばかりです。
 忠兵衛は、もういちど頭巾をかぶってみました。

 『シケてんなー、まったくよお』
 『地震もねえのに逃げなきゃなんねーのか。やってらんねーよなー』

 (この頭巾をかぶると、動物のはなす言葉がわかるのか・・・)


 次の日から、忠兵衛は仔ギツネがくれた頭巾をかぶって畑仕事をするようになりました。
 この頭巾をかぶれば、ネズミだけでなく、あらゆる動物の言葉がわかるのです。朝は家の前に飛んでくるスズメの話、昼から夜はネコやカラス、そして夜は屋根裏のネズミ。そのほか、いろいろ。

 『毎日飛んでやってきてるんだ、たまにゃエサまくぐらいしろってんだ』
 『このひと、いつまでひとり身なのかしら。ま、貧乏くさいし、スケベそーだもんねぇ』
 『おらーガキども、カラスが鳴いてんだ、はよ帰れー』
 『かーちゃん、腹へったよー』
 『腹がへったんなら、寝ちまいなっ!!』


 ある晩のこと。忠兵衛はいつものように頭巾をかぶり、屋根裏のネズミの話に耳を傾けていました。

 『あの姫さま、もう長くねえらしいな』
 『あの山向こうの富豪のか。そんなに悪いのかね』
 『まっ、あの金欲夜叉がくたばりゃ、みんな鐘太鼓たたいて喜ぶことだろう。世の中もちったぁ平和になるってもんだ』
 『うーん、しょうがないね。しかし、原因はなんだ。流行り病か?』
 『それなんだけどよ。あの姫さま、でっかい土地を買い取ったまではよかったが、そこに生えてた楠を邪魔だっつって切っちまったんだ。根っこまで掘り返しちまってよ。それで祟られてんだとさ』
 『バカな女だな。んで、あとは死ぬだけってわけか』
 『いや。楠が生えてたところに塚を築いて、楠の御霊を祀ればいいのさ。そうすりゃ助かる』


 次の日。忠兵衛は、さっそく山向こうの富豪の家に行ってみました。
 「私はこんな格好をしていますが、じつは修験者です。娘さんの病を治す方法を知っております」
 娘の両親は、顔に喜びと期待を浮かべて忠兵衛を迎えました。
 母親は亜麻色の豊かな髪を綺麗に結い上げた、非常に美しいひとでした。
 父親はメガネをかけ、総髪頭のやさしそうなひとでした。しかし、額の後退ぐあいが非常に厳しくなっていました。

 忠兵衛は、さっそく娘の様子を診てみました。
 彼は、まず娘の美しさに驚きました。母親譲りの亜麻色の長く美しい髪、「世の中に、これほど美しいひとがいたのか!」と心の中でつぶやくほどに整った顔立ち。

 しかし、長いこと臥せっていたためか、非常にやつれた様子でした。

 まず忠兵衛は、娘に向かって手を合わせ、お祈りをしているふりをしました。二十分ほどお祈りをすると、娘に問いかけてみました。
 「先日、あなたは、ある土地を買い取ったそうですね?」
 「・・・ええ、そうよ。それがどうしたってのよ!?」
 娘は乱暴に答えました。その様子を見た母親は、深いため息をつきました。
 「お母様!ため息つかないでよ!!」
 「バチがあたったのよ。あの土地買取にしても、あれほど反対したのに・・・」
 「バチですってぇ!?冗談じゃないわよ。そんな非科学的なこと、あるわけないじゃないの!!」
 「まったく・・・。私は、あなたをそんなガメつい娘に育てた覚えはありません!!」
 「私のどこがガメついってのよ!?」

 「まあまあ、ふたりとも冷静に」
 忠兵衛は、このままではラチがあかないとおもい、口をはさみました。
 「今回の災いは、その土地に生えていた楠を切ったために起こったのです。その楠が生えていた場所に塚を築き、御霊を祀れば、娘さんの災いは消え去ることでしょう」

 両親は大急ぎで忠兵衛の言葉に従いました。
 無残に掘り返されたその場所に塚を築き、楠の御霊を手厚く祀り、祈りをささげました。
 
 すると、どうでしょう。青白い娘の顔にたちまち血色が戻り、全身が生き生きとしはじめたのです。
 「まあ、娘が・・・こんなに元気になって!」
 「おお、奇跡だ!神よ、感謝します!」

 「やったぁ!自由っていいわ!健康っていいわ!・・・さあ、今までたまっていた仕事を片付けなくちゃ。まずはあの土地に可能な限り高い屋敷をつくって、美神高利貸し支店をつくって、それから、それから・・・」
 「・・・・・・お待ちなさい」
 「なぁに、お母様?」
 「・・・あんたって娘は、あんたって娘は!!」
 「あっ、ちょっと、痛いってばお母様!!」


 母親の激しい説教と、半泣きで口答えする娘を見つつ、忠兵衛は腰を上げました。
 「それじゃ、俺はこのへんで・・・」
 「待ちたまえ、忠兵衛どの。・・・あなたはひとり身なのかな?」
 「え?・・・ええ、まあ」
 「すきなひととかは、いるのかね?」
 「・・・いや、べつに」
 「それは好都合。どうだろう、うちの婿にこないか?」
 「・・・・・・え!?」

 もちろん、忠兵衛は、最初はそのつもりでした。しかし、この母娘の様子を見て、そんな下心はキレイになくなっていたのです。
 言い争っていた母娘は、さっと振り向きました。
 まず、口を開いたのは母親でした。
 「うーん・・・すこし頼りなさそうだけど、いい考えね」
 「ちょっと!ウソでしょ、お母様!?」
 「結婚すれば、このコもすこしは落ち着くかもしれないし。私は賛成ね!」
 「イヤよ!私は結婚する気なんてないわ!だれが、こんな・・・」
 娘は、忠兵衛に向かって中指を突き立てました。
 「あのね、冷静に考えなさいよ。こういう好機はめったにないんだし、渡りに船だと考えるべきじゃない?せっかくあちら様も乗り気なんだし」
 「え!?いや、俺、結婚したいなんて、ひとことも・・・」
 母親は、忠兵衛にみなまで言わせず、彼の腹に拳を叩き込みました。
 「さあ!あなた、急いで!はやく祝言をすませましょう!!」
 「よし、任せておきたまえ!!」
 「ちょっと、私の意見はどーなるのよ!?」
 (いやだ・・・初対面の人間にむかって、『ふぁっ○・ゆー』なんて女とはぁぁ・・・)


 忠兵衛と娘の抵抗もむなしく、祝言がとり行われました。
 娘の両親と使用人は、まるでもののけのごとく勘が良くて、忠兵衛は浮気など出来ませんでした。というか、娘、いや彼の妻がそれを許しませんでした。
 なんだかんだといいながら、彼の妻は素直じゃないが優しいところがあり、かわいいところもありました。さらに、生まれた娘もかわいらしく、非常に聡明でした。
 忠兵衛もこれはこれでいいかもしれない・・・と思うようになりました。
 こうして、二人は末永く、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


 『ふしぎな頭巾』5〜7才用


 「うう〜〜、なんてイイ話なのかしら〜〜」
 広大な屋敷の、広大な庭の片隅で。
 今日も冥子は読書にいそしんでいた。

 
 こんどこそ、おしまい。
 
 

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