ザ・グレート・展開予測ショー

例えば、そんな出逢い方


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 3/24)




 青く青く何処までも澄み切った空が広がっている。
 大きく伸びをすると、横島は腰を下ろした岩にそのまま背を預けて寝そべった。

「偶にゃ、こーいうのもいいかもな」

 何とは無しに呟いて、目を閉じる。
 背中に触れる岩肌は、陽射しの暖かさを残していた。

 周囲をぐるっと森に囲まれた山奥。 伐採の業者が通る舗装されてない山道を登り切ったその先。
 横島がこんな所に居るのは、お判りだろうがシロのお蔭である。

「しっかし、止まれと言っても止まりゃしねぇし、あいつは…」

 酷使された足腰が、鈍い痛みを訴えている。
 山道が尽きたここに来て、彼女は漸くその足を止めたのだ。

「1〜2時間は、戻って来ないだろ」

 休むから暫くその辺を走ってろ、と言って送り出してから、まだ10分ほど。
 一緒でないとつまらない、とぶつぶつ言いつつも、欲求に勝てなかったのか嬉しそうに森の中へと走り出して行ったシロだった。

 カサッ

 茂みが発てた音に、横島は窺うとは無しにそちらを窺った。
 緑の隙間に、ちらりと見える白い色。 赤い瞳がこちらを覗き見ている。 危険な生き物じゃなさそうだと、横島は気にしない事にした。
 兎に角、疲れているのだ。 帰り道の事を考えると、体を休ませておかなければ地獄を見る。

 不意にお腹が鳴った。

「あいつ、まだ帰って来そうにないしな。 少し食っとくか」

 出しなにおキヌちゃんの作ってくれた、お弁当を取り出した。
 幽霊なのにこう言う所は、妙に気が利いている。 包みを一つ取り出して、横島は齧り付いた。

 カサカサッ

 再びの音に、視線をそちらに向ければ、自分の右手に視線を集中した猫の様な瞳。

「おまえも食うか?」

 差し出された手に、一瞬、後退りながら、それでも視線は逸らされない。

「狐は好奇心も強いけど、警戒心も強いってどっかで聞いたっけ…」

 苦笑すると、もう一つ取り出したお稲荷を、少し離れた所へ置く。

 それが何を意味しているか判ったのか。 まるで馬鹿にするなと言わんばかりに、その小さな仔狐はぷいっと横を向いた。 尤も、横目の視線はお稲荷から離せないでいたが。
 その可愛らしさに、思わず横島の顔にも笑みが浮かぶ。

 手にした残りを食べ終わると、そのまま手を広げてゴロンと大の字に寝っ転がる。
 目を閉じて耳をすませば、流れて来る風の音と、遠くで囀る鳥の声。 それに混じって、こっそりとお稲荷へ躙り寄る足音。

 横島は、そのままじっと耳だけ澄ませて、体に当る陽射しを浴び続けた。

 咀嚼の音が終わって、暫くするとまた足音。
 近付いてきたソレに気付かない振りをする。 いきなり右の掌に感じた生暖かさに、薄目を開けて目をやれば、楽しそうに舐めている白くて小さな狐の姿。

「足りなかったか?」

 掛けられた声にビクっと身を震わせたが、何もしないと見ると狐は横島の胸元へ、よじよじと登りだす。 登り切ってペタンと腰を降ろすと、じっと彼の顔を眺めた。
 首を傾げた姿が可愛らしくて、もう一度尋ねてみる。

「もう一つ要るか?」

 言葉が判ったかの様に首をフルフルと横に振ると、そのまま胸の上で丸くなった。

 重いと言う程の重さも無く、ただ感じる暖かさが心地好い。
 何だか急に眠くなって、横島はそのまま睡魔に身を委ねた。

 ・

 ・

 ・

 誰かの気配に目を覚ませば、そこにはシロが立っていた。
 日はまだ真上、眠っていたのは小一時間ほどか。

「よう、早かったな」

 寝ぼけ眼で掛けた声に、しかしシロは答えない。

「…? どうした?」

 よく見ると、俯いて何やら身を震わせている。

「よ…」

「よ?」


「横島先生の、バカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 突然の叫び声に、胸の上で丸まっていた仔狐が、びくっと飛び起きる。

 大丈夫だと撫ぜた後、目をシロの居た方に向ければ、彼女は振り返りもせずに麓へ向かって山道を全力疾走で駆け降りていた。
 あっと言う間に、土煙以外見えなくなると、横島は呆然と呟いた。

「何だったんだ?」

 答える様に、仔狐が首を傾ける。

 30分ほどそのまま待ってみたが、シロが戻って来る気配は無い。

 両手で抱えた仔狐を横に降ろして、横島は体を起こす。 
 が、そのちびすけは、すぐに肩へと駆け登ってきた。

「どうした?」

 視線を向けると、ぺろっと彼の口元を舐める。

「ははは… くすぐったいって。
 ほら、おまえも、そろそろお帰り。 俺も、もう帰らないとヤバそうだしな」

 が、肩に乗ったまま、狐はぷいっと横を向く。

「一緒に来たいのか?」

 思い付いて訊いてみれば、今度は首を縦に振って彼の頬を舐めた。

 明らかに人語を解しているのだが、何か当然の様な気がして気にならない。
 ちょっとだけ悩んだが、あのボロアパートには決まりは無かったなと思い出した。

「来ても大したモンは食えないぞ?」

 その言葉に、一瞬、肩を落したものの、それでも肩から降りようとはしない。
 苦笑して、横島は立ち上がった。 時計を見れば1時過ぎ。 シロは戻って来そうに無いし、帰りは自分で漕がないといけないのだ。 彼の普通のペースで漕いで、帰り着く迄に5〜6時間か。 あまり時間的にも体力的にも余裕はない。

「一緒に来るなら、こっちに入っててくれるか?」

 そう言って、ディパックの口を開けた。
 嫌そうにしながらも、その中に収まるのを確認して、そのまま背負う。

「そいじゃあ、帰るか」

 家までの結構な距離に溜め息を吐くと、横島は自転車を漕ぎ出した。
 行きよりも重くなった背中を、少しだけ気にしながら。

「それにしても、一体なんだったんだ、シロの奴…?」

 まぁ、ほっといても平気かと山道を下る。
 それより、こいつの餌をどうしようか、と悩みながら。

 ・

 ・

 ・

 事務所に行った時の地獄を、まだこの時の彼は気付きもしない。
 とっとと帰ってしまったシロが、点けてしまった炎の事を。



 【おわる】



────────────────────



……ぽすとすくりぷつ……

 むぅ… なんか続き物くさい。
 実際に続け(られ)るかは、定かではないのじゃが。

 時期的には、『犬には向かない職業!!』の直後辺りか。 だから、おキヌちゃん、幽霊なのだな。
 その頃の彼女の方が、好きなのは確かだったりするんだけれどもね、私の場合(^^;

 しかしソレだとすると、傷心のシロが里に帰ってしまったので、『スリーピング・ビューティー!!』の時には居なかったと言う事に…(爆)
 けどなんだなぁ… 何でシロを出すと、こう言う扱いになっちゃうんだろう、私?(^^; 好きなキャラの一人なのに、割を食う役が多過ぎ…(苦笑)

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