ザ・グレート・展開予測ショー

女が髪を切る理由


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/ 3/23)

美容院の主任が驚いた。
「マジ?そんな大胆な事をしちゃっていいの?令子ちゃ〜ん」
長い髪を惜しむようにしている。
「いいのよ。それとカラーもね」
固い決意の美神令子のようだ。
「カラー?令子ちゃん、素でもカラーリング素敵なのに。で何色?」
「黒よ」
理解に数秒かかり、一度反対を述べた主任であったが、無言の圧力に負けたとしておこう。
だが、
腰まで届いた髪がばっさりと切られた時、目を閉じた事実はあった。
この時期だ。
「・・・・・・・・・」
横島は押し黙って、気が付くとある一方面を向いている。
「横島さん・・」
オキヌちゃんが気を使ってか、飲み物を持って来たことがあった。
本人は黙ったままコップを手にしただけであった。
「忘れられないんですね」
「・・・・・」
鼻から息が漏れた程度に首を振った。
「ねぇ、横島さん」
「?」
ちらりと振り向いたその目は悲しみを湛えたレンズである。
「・・・・・・ご免なさい」
足音を立てないようにしてそっと席を立った。
「どうで御座ったか?オキヌ殿」
ドアの外でおすわり?をしていたシロである。
「駄目よ・・元気にして、っていいたかったんだけど」
顔をうつぶせにして全身を隠すようにしている。
「悔しいけど。悲しい」
「一昨日からいってるじゃない。ほっといてやんなよって」
あくびをしながら屋根裏からタマモが降りてきた。
「でも、可哀想で御座らぬか?」
冷酷な奴といわんばかりの目をしたシロを交わして、
「良いこと?男だったらね。今の苦しみは自分で乗り越えなきゃ駄目なのよ」
「何でで御座るか?」
「・・・・。なんでって言われてもこまるんだけどぉ・・」
ぽんぽんと、考え込むように頭を叩いて。
「つまり今誰かが慰めても火に油を注ぐし、逆にこっちが引火しちゃうわけよ」
なんとなく、オキヌちゃんには理解出来た様である。
「あの目を見ただけで・・私怖かった」
「余計な事とは言いたくないけど、ほっといてあげなよ。それが良薬よ」
「で、御座るか」
「そうよ。だから判ってるのよね。美神さんは、だから外に出てる・・」
そう言おうとした正に今、
「ただいまー」
無理に明るく振舞う美神令子の姿を見たタマモの口から漏れた言葉が、
「判ってないじゃないの」
とばかりに目を手のひらで覆った。
「ど、どうしたので御座るか?美神殿」
「ふふ。気まぐれよ似合うでしょ?」
だが誰もそんな似合うとは思えない髪型、髪色である。
「高校生っぽいで御座るなぁ」
ショートヘアーに黒髪である。
「美神さん・・それって」
「何か?」
私にはそこまで出来ないなぁ、と負けを感じているようだ。
「で、横島クンは?」
「この部屋にいるわよ」
ため息と同時に発したタマモであった。
意気揚々と、まではいかないが、明るい声で入っていった。
数分後。
まだ廊下にいた三人であった。
不意にドアがあいたと思ったら、
「あっ。せん・・・!!」
先生と呼ぼうとしたシロがその形相をみただけで固まってしまった。
無言で出て行く横島である。
「何があったの?」
と、三人が部屋を覗き込むと、
「あっ!」
今までどおり、腰まで垂れ、淡色の髪が夕日に照らされている。
だが、茫然自失とばかりに床にへたれこんでいた。
「どうしよう・・」
おろおろする二人を余所目に、電話をするタマモがいた。
しばらくして。
「どうしました?令子君」
まだ夕日は赤色を保っている。
だから唐巣神父の眼鏡は燃えているように見えなくもない。
「あ、あのね私・・今日美容院にいったのよ」
「それで彼女の髪型にしたんですよね?」
まるで彼女を意識した髪型に。
最初は。
「ねぇ、元気だしなよ。横島クン」
大胆にも身を寄せた。
「!!」
その様相に驚いた目を見せた横島である。
「うふ。似合う?」
首を振り髪をなびかせようとしたが、まだ感覚がなれてないので何処かぎこちない。
「・・・・・・・・・」
無言が続く。
「ちょ、ちょっとなんか言ってよ」
笑顔が崩れかけたその時、横島の手が動いた。
無謀にも頬を殴ろうとしたらしい。
平素なら、
「なにするのよ!」
と、食ってかかり実際にお仕置きをする美神であるがこの時は動けなかったらしい。
後で回術するに怖かったと言っている。
殴られる!と思い目を硬く閉じたが衝撃が無い。
おそるおそる目を開けた。
泣いてる・・ウソ?
よく泣く男であるが、声も出さずに目だけ濡らし、肩が怒りで震えていた。
そして、右手だった平手を左手をかかげ美神の頭、こめかみあたりに沿える。
「何?」
文殊を発動させた。記入文字が「元」
そしてへたりこんだ美神の肩を使う形で立ち上がり、外へ脱兎の如くであった。
一通りの説明が終わる。
「ねぇ、神父私、いけないことをしたの・・かな?」
思いもよらない神父の答えは。
「そうですね」
「えっ?」
「彼の持つ悲しみは自分で乗り越えなければいかないんだよ。令子君」
「で、でも!」
甲高い声で、
「でも私が何も出来ないのって悔しいじゃない・・くやし・・」
珍しく大粒の涙。
「令子君。男の気持ちを察してあげないと、駄目じゃないかな?」
「そんな・・」
そんな事わからないじゃないのとでもいいそうであるが。
「でもよかったじゃないですか」
「えっ?」
「だって戻してくれたんですよね。髪を」
「うん」
俯いて答える。
「いい子ですね。横島君は、・・きつい事ですが殴られてもしょうがなかったですよ?」
横島が私に勝てるとでも?と思いついたが、すぐに否定出来た。
データー上の事実では横島の方が上である。
「うん」
もう一度頷いた後、滝のような号泣と共に神父の胸元に飛び込んだ令子である。
会話を外で聞いていたオキヌちゃんが、
「さっき神父の言ってたことタマモちゃんも言ってたわよね」
男心がわかるのかと、聞いてると察したタマモが。
「えへ。さっきの台詞、唐巣神父の受け売りなのよ」
と白状した。

FIN



今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa