ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その9)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 3/22)








「・・・・・・・・・とにかく家に入ろう・・・・・」

ひのめは無機質な声と共に立ち上がる。
足取りは重い・・・はっきり言って蛍達どころか、美智恵にも会いたくない気分だった・・・
だからといってこれ以上帰宅が遅くなるのも怪しまれる・・・・そう思いながら今度こそドアノブを回しゆっくりと玄関をまたいだ。

「ただいまー」

令花の暴走で荒れ果てた美神邸に響く明るい帰宅の声。

「あ、お帰りなさいお姉ちゃん!」

美智恵の代わりに先立って蛍がひのめに駆け寄った。
大好きな親戚の姉の帰還が嬉しいのだろうその顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「あ、蛍ちゃん来てたんだ♪」

明るく・・・元気に応えたつもりだった・・・・・そして心で呟く


・・・・・・・・・・・・・・・私ちゃんと笑えてるよね・・・・・・・・・・・・・・



「ひのめ!トレーニングだからって遅いわよ!心配したでしょ」

美智恵は居間の片付けを一時中断し、蛍の後からひのめに声をかけた。
ひのめは母の顔を一瞬だけ見ると・・・聞こえないように小さな声で・・・・顔を見せないように俯きながら言った。

「・・・・・・さっきまで楽しそうだったじゃない・・・・」

「ん?何か言った?」

「なんでもないよ、ちょっと着替えてくるね」

小さな声で一言だけつぶやくとひのめは蛍と美智恵を押しのけるように自室に向かって早足で向かった。
もうダメだった・・・・劣等感、疎外感、敗北感・・・・そんな感情がひのめの心を覆って涙が溢れそうだった。

(ダメだ・・・一回泣こう・・・)

一言でもしゃべれば流れ出そうな涙を抑えながら心で呟く。
これから美智恵からされる話の内容は知らないが、とにかく今の状態ではもう一度顔を合わせただけで泣いてしまいそうだった。
だから・・・シャワー浴びるとでも言って風呂場で一泣きして心を落ち着かせよう・・・・そう思ってた・・・・なのに・・・

「あ、お姉ちゃん!待って!」

ひのめの白ジャージの裾をむんずと誰かが掴んだ。
掴んだ人・・・・蛍はひのめの気持ちがわからないのだろう、ひのめとは逆に相変わらす笑顔でこう言った。

「私ね!サイキックソーサーも出来るようになったんだよ♪」


ピタっ


その一言にひのめの動きが止まった。
蛍はその歩みを止めたものの振り返らないひのめに続けて話しかける。

「ま、忠志も出来るけど・・・・私は幻術も使えるし一歩リードかな♪
あ、それにね令花ったら今日神通棍使えてたのよ!う〜ん・・・私でも最近使えるようになったばかりなのに〜」

蛍は純粋に・・・本当に純粋な気持ちで言っただけだった。
自分の霊術の成長、弟と妹の霊力の覚醒・・・・きっとお姉ちゃんなら凄いねって言ってくれるんじゃないか・・・
そんな子供らしい気持ちで言っただけだった・・・・・しかし


パアン!!!


乾いた音・・・・・蛍の右手を勢いよくはたいた音が美神邸に響いた。


「え?」

蛍はいきなり自分の右手に走る痛み・・・・そして、
肩を震わせるひのめの後姿に今何が起こったかのを理解することが出来なかった。

「いいかげんにしてよ・・・」

始めは静かなで低い声・・・・・・・・ひのめはゆっくり振り返りその涙を溜めた瞳で蛍を睨んだ。
蛍は敬愛する姉からなぜ自分がそんな目で見られているか分からずビクっと肩を震わせる。

「何よ・・・・・それって霊力が低い私にたいする嫌味なの!!?
ねぇ!そんなに自分達の才能を自慢したいの!!!?」

「わ、私・・・そんなつもりじゃ・・・・」

ひのめの剣幕に右手を押さえながら震える蛍、その瞳には涙が薄っすらと浮かんでいる。
そんな光景に見かねた姉・令子がガっとひのめの肩を後から掴んだ。

「ひのめ!やめなさいっ!蛍があんたの霊力のこと知ってるわけないでしょ!?
今日はどうしちゃったのよ!!」

「うるさい!」

バシィィ!!

振り向きざまに令子の手を肩から叩き落とすひのめ。
そして今度は令子に噛み付いた。

「だったら忠志は何で知ってたのよ!お姉ちゃんが言ったんじゃないの!!?」

「それは違・・・」

「・・・・お姉ちゃんと私って何でこんなに違うのよ!
私だって美神公彦と美神美智恵の子供なんでしょ!!?何で何でなの!」

「ひのめ落ち着きなさい!」

「・・・本当は私・・・・ママの子じゃないんじゃないの・・・・?」


パアァァァンっ!


乾いた音ともにひのめの頬に痛みが走った。

「いいかげんにしなさい!!」

令子はひのめを叩いた手を下げながら叫んだ。
ひのめの一言が許せなかったからだ・・・。
子を命かけて生む・・・・・・母となった今だからこそ分かるその行為、気持ち・・・。
美智恵のそんな気持ちを踏みにじるようなそんなひのめの一言が許せなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ひのめは頬を押さえながら沈黙する・・・顔を伏せ、決して相手の目を見ようとはしない。
そんなひのめが心配になったのか美智恵がそっと歩み寄り話しかけた・・・

「ひのめ・・・」

美智恵が手を差し出す・・・しかしひのめはそれを避けるために体を軽く動かした。
そして・・・ギュッっと両拳を握り呟く。

「ママや・・・お姉ちゃんには分からないよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天才の領域にいる二人には・・・・」

「え?」

「霊力を鍛えるために毎日・・・毎日吐くまで走って、頭の中真っ白になるまで練習して体いじめて、
・・・・・・どんなに・・・・・どんなに足掻いても追いつけないこの苦しみが・・・・・」

ギュウと自分の体を抱きしめるひのめ。

「そんな私の気持ちも知らないくせに!!みんな・・・・みんな大っ嫌いっ!!!」


ダっ!!

ひのめは溢れ出る涙を拭おうともせず走り出し、
そのまま美智恵や令子が制止する間もなく玄関のドアを乱暴に開け出て行った。
あまりにも一瞬の出来事に唖然とする令子と美智恵。だがやがてハっと気付き叫んだ。

「私が行って来る!」

一言だけ言い残し、ひのめを追いかけるために令子もその場を後にあとにした。

「ねぇ・・・おばあちゃん・・・・私のせい・・・・?」

蛍はそういって鼻をすすり袖で涙をゴシゴシ拭った・・・そんな孫に美智恵はやさしい笑みで

「蛍のせいなんかじゃないわよ・・・」

涙ぐむ蛍の頭をそっと撫でてあげた・・・


















「ひのめ待ちなさい!」

令子がそう叫んだ瞬間エレベーターに乗り込むひのめ。
ザーっとヒールでブレーキをかけ令子もエレベーターに乗り込もうとするがタッチ差でドアが閉まった。

カチカチカチカチっ!!

懸命に『開』のボタンを連射をするがどうやら間に合わず、エレベーターは動き出したようだ。

「くっ!」

ガンっとエレベーターのドアに蹴りを入れる令子。
こうなった以上下りる方法は一つ・・・・階段しかない。

「ここ、15階でしょ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう───!!」

令子は一つボヤくと猛ダッシュで階段を降り始める。

「ったく!30代の兼業主婦に激しい運動させるんじゃないわよ───っ!!!」


30代の兼業主婦の叫びが闇夜に包まれるマンションに響いた。













「・・・うぐ・・・・え゛・・・う・・・・ぐず・・・ううっ・・・」

エレベーターという小さな箱の中に・・・・・・・・・・・ひのめのすすり泣く声が広がった。
本当はこの場で大泣きしたいのだが、『誰かが入ってくるかも』という考えがわずかに残る理性の中にあった。
それでも涙は拭って拭っても溢れ出てくる・・・まるで体にある水分を全てに出してしまうのではないかと思うほどに。


基本的にひのめは明朗活発な前向きな性格だ・・・だがここ1か月半・・・・六道女学院に入学してからは違った。


軽い気持ちで受けて受かってしまった高校。

そこで待ち受けてたのは霊力という壁。

強敵に叩きのめされる自分。

守っていた者に守られてばかりの自分。

報われない努力。

美神という名のプレッシャー。

姪っ子甥っ子達との才能の差。

砕かれる自信。


そんな様々なことが少しずつ少しずつ・・・まるで棒倒しの砂山を削るようにひのめを壊していった。


チーン・・・

『1階』というマークにランプが点く。
エレベーターのドアがゆっくりと開くのとは対照的にひのめは脱兎のごとく飛び出した。

だが・・・


ドンっ!

「いてっ!」
「きゃっ!」

ひのめに鈍い痛みと共に短い悲鳴をあげた。
どうやら、顔を見られないよう俯いていたために、エレベーターに乗ろうとしていた人がいたことに気付いていなかったらしい。
ひのめはぶつかった相手の顔も見ずに一礼してその場を去ろうとするが・・・・

「あいつつ・・・。あれ?ひのめちゃん?」

自分の名を呼ばれ足を止めた・・・ひのめはゆっくり振り向き自分の名を呼んだ人物を見る・・・それは・・・

「忠夫・・・お義兄ちゃ・・・ん」

「ど、どうかしたん?」

蛍光灯の光に照らされるひのめの悲しい表情に戸惑う横島・・・だが、次の瞬間。

ダ・・・ドンっ・・・

「へ?」

横島がマヌケな声をあげる。なぜなら


・・・・・ひのめが自分の胸に飛び込んできたから・・・・・・・・・。


いきなりのひのめの行動にいまいち状況が理解できず、
横島は取りあえずひのめをやさしく離そうとするが・・・ピタっとその手が止まった。

(・・・・震えてる?・・・・・・・いや、泣いてるのか・・・・)

自分にギュっと抱きつき、肩を震わせるひのめ・・・・何か事情があるのだろう。
ここまで思って横島は優しい笑みを浮かべながら・・・・そっとひのめの背に腕をまわしポンポンと軽く叩いた。

背中に感じる温かい感触・・・・その暖かさがひのめを涙の堤防を壊していく。
しだいに肩のの振るえが大きくなり、横島を抱きしめる腕の力が強くなる・・・そして


「う・・・・うあぁ・・・うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああっ!えっう゛ああああ・・・・ああああああっ!!
うぅうぅうぅううっ!はっ・・・あっ・・・・うぐゥ・・・ええう・・っわあ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!」







ひのめは泣いた・・・人生で一番泣いたのかと思うくらいに。

悲しみも・・・

悔しさも・・・

恐さも・・・

・・・全ての不安をその涙で流すように・・・

・・・・・・・・・暖かい温もりを感じられる横島の胸で・・・・・・・・・・











                                         その10に続く






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