ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その8(A))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 3/21)





日曜日当日・・・・・・・・・

PM5:13
東京は沈みゆく太陽で紅く染まり、あと数時間もすれば闇の住人が騒ぎ出すだろう。
そんな中ひのめは夕日に紅く照らされている土手を走り続けていた。

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・・」

かなり早めに走っているがひのめの呼吸のリズムが崩れる様子はない。
動きやすい白いジャージが流れ出る汗を吸収し、愛用のランニングシューズが『ザッザッ』と音をたて地面を蹴った。

「はぁ〜〜〜」

1km程走りその足を止める。
体に負担を過度にかけずに体を鍛える・・・それがひのめがいつも心がけていることだった。
しかし・・・今日は違っていた。

「よ〜し、あと15km!」


まるで自分を励ますかのように大きな声で今日の最終目標を叫ぶ。
その声に同じ土手をジョギングしている人たちが何事かとひのめほうに振り向いた。

「あ、・・・いや」

ひのめはその視線に気付きバツが悪そうに首にかけてあったタオルで額の汗を拭った。
顔を隠すようにゴシゴシと汗を拭くと、『まだまだ』・・・と心で呟いく。

ひのめは今日一日・・・

早朝から筋トレ、ジョギング、
昼からは毎週幸恵と通っている道場でしごかれた後だった。
そして夕方は今の通り長距離ランニング。

ちなみにひのめが通っている道場、
元オカルトGメンの日本人婦警が開いた道場で剣道、柔道、空手、霊波道・・・etcと武道から霊術まで教えていた。
師範はその元オカGの婦警、今は壮年となり白髪が目立ち、その体は『細い』分類に入るだろう。
それでも、弟子、門下生の中で彼女に勝てるものは誰もいなかった。

「あいつつ・・・」

今日の師範との組み手を思い出し、手を後へまわし背中をさするひのめ。
上手く受身が取れなかったせいで痛めたのだろう、少しだけ痛みで顔歪めた。
そして、師範の言葉を思い出す

『ひのめさん・・・・柔道も霊術も同じです。相手の流れを読み自分の動きをそれに合わせる。
そうすれば、いかなる相手にも屈することはありません』

そこまで思い出してひのめは「はぁ」と息をついた。
言ってることは分かる・・・・だが、それを実践出来ないから困っているのだ・・・
と、思いつつもあのどこか凄みのある師範になかなか意見できないひのめだった。

「まぁ、いいや・・・・走ろ」

一言だけ言うとひのめはタオルを首に巻き再びその足を動かし始めた。
先程までと同じようにリズムのいい足音刻む・・・・だが、
その心は違った・・・

(今日何の話だろう・・・・・・・・・・・)

何日か前に母に質問したこと時のことを思い出す。


『ねぇ・・・私の背中の傷っていつからあるの?』

自分では軽い質問のつもりだった・・・だが、そのときの母・美智恵の表情は今でも覚えている。
驚き、焦り・・・そして少しだけ悲しみが混じった表情でこう言った。

『今度・・・・日曜日に話してあげる・・・・』

それ以上何も話してくれない母に、今になって不安なるひのめ。

「はぁ・・・はぁ、はっ・・・はぁはぁ」

脳は酸素を一番消費すると言われるが、そのせいなのだろうかひのめの息がしだい切れてきた。
それでも・・・・それでもひのめは走るのをやめない・・・
完全に日が暮れ、星が輝き、草木が眠り、朝日が薄っすらと照らしても走り続けるのでは?

そう思うくらいにひのめは走り続ける・・・・・・・まるで不安を振り払うように。


















PM8:10分

美神邸マンション・・・渡り廊下

「はぁはぁ・・・」

息を切らせ体中から汗を流しながら歩くひのめ。
疲労感溢れる顔、ガクガクと震える足・・・・限界と言わんばかりの体調で一歩一歩足を前に動かした。

努力・・・・天才肌と言われる美神家におよそ無縁と思われる言葉。
そう思われているが、もちろん美神美智恵、美神令子がそれだけであれだけの力をつけたわけではない。
元々の才能に溺れることなく、努力を続けてきたからこそ今の二人がある。
そう・・・ひのめはちゃんと理解していた・・・・だから・・・だから自分もそうなれると思っていた。

ひのめは呼吸を整えると気だるい思い右手で玄関のドアノブを掴む。
一応何時ごろには帰ると連絡したが、「遅い!」と一括するであろう美智恵の姿を思い出し少し苦笑いを浮かべた。
そのとき・・・


『ねえ!ばあちゃん!俺、神通棍使えるようになったんだぜ!!』

「!!?」

ドア越しに聞こえたその声にひのめの動きが止まった。

(忠志・・・?)

最近聞いたその声を忘れるはずもなく、声の主の名を呟く。
そして次に聞こえたのは

『ったく・・・・忠志はガキなんだから。・・・・・すぐに自慢したがる』
『きゃはは』
『うっさいなー』

(蛍ちゃん?それに令花ちゃんもいるの?)

本当の妹のように可愛がってる自分の姪っ子達の声。
最後に

『ひのめ遅いわね〜、どこ行ったのかしら?』
『携帯鳴らせばいいじゃない』
『それがあの子、部屋に置いていったみたいなのよ』

(お姉ちゃんまで・・・)


姉・令子の声だった。ここまで聞いてドアに耳を押し付けるひのめ。

『そういえば、忠夫クンは?』
『それが急な除霊が入ったんだって、まぁ・・・・そろそろ着くでしょう』

(う〜ん・・・ちと残念)

横島に久しぶりに会いたいと思ったいただけに、横島がいないことがひのめの表情に少し落胆を浮かべる。
取りあえず中にいるメンバーを理解したことで仕切り直しドアノブを再び握った。

『ねぇ、おばあちゃん!!私ね幻術使えるようになったのよ!!』

ピタっ

蛍の一言にひのめの動きが再び止まる。

『ホントに!?凄いじゃないの!』
『見ててよ・・・』

そういって目を閉じ霊力を集中させる蛍。
その様子をひのめはちょうど中を見れる小窓からヒョコっと覗いた。

(凄い霊力・・・・・・・・)

ひのめが見つめる蛍がしだいにブレていく、いや、その姿はしだいに2人、3人へと増えていき
4人まで増えたところでパっと消えた。

「ぶは〜!つ、疲れた〜!!」

蛍は構えをとくと肩で息を切らせながらその場にヘタりこんだ。

「蛍・・・・あんたいつの間に?」

娘の能力に驚きと感嘆の声を漏らす令子。
感嘆は娘の才能の高さから・・・・驚きは・・・彼女の前世と同じ能力だったから。

「え・・・・と、いや、何となく出来そうだな〜って思ったら出来たの」
「は?」

あっけらかんと答える娘に令子はマヌケな声を出してしまう。
当の蛍は疲れた疲れたとばかりにストレッチをこなしていた、そんな中元気に声を挙げたのは・・

「へん!幻術よりももっと凄いコト出来るぜ、俺!!」

忠志だった。忠志は姉に負けじと立ち上がる。
話の流れから霊術の発表だろう・・・このくらいの年頃の男の子は何かと自慢したがるものだから。
そう思う令子達が見守る中、忠志の右手に霊力が集中していく。そして・・・

「出ろ!サイキックソーサー!!!」

ビュン!!

忠志の叫びと共に現れたのは、父・横島忠夫譲りの六角形の霊力の盾・サイキッキソーサーだった。
美智恵がその光景に『パチパチ』と拍手をすると、
忠志はその霊力の塊を自慢げに構えてみる・・・・・・・・・・・だが・・・・

「何よ、私のほうが幻術のほうが凄いじゃない。それに・・・・」

蛍は挑発するような視線を向けるとグっと右手に力を入れた。そして・・・

「えい!!」

ビュン!!

その掛け声と共に蛍の右手にもサイキックソーサーが現れる。
蛍はさらに挑発するような口調で・・・

「ほら、こんなの簡単にできちゃうんだから〜♪こんなので喜ぶなんて忠志はまだまだお子様・・・・ブガっ!!」

高笑いを挙げる蛍の顔面に何かがぶつかった。それは・・・・忠志の投げつけたサイキックソーサー。
幸い蛍の霊的防御力が高いおかげか顔に傷はついていない・・・それでも直撃した部分が赤くなり小さなタンコブになっている。
忠志はそれが面白いのケラケラ笑いを挙げるが、ぶつけられた本人・・・蛍は怒りで肩を震わせた。

「よくもやったわねぇーー!!」
「ベーだ!俺のサイキックソーサーのほうが出来がいいもんね!!」
「上等じゃない!このバカ愚弟!!!」
「かかってきやがれ!このペッタンバストのアホ姉貴ーー!!」

お互いの言葉が開戦の合図となった。
サイキックソーサー投げあうわ、幻術使うわと大暴れ、しかし霊力が尽きると次は取っ組み合いのケンカ。
このくらいの年頃は男女の腕力差がないぶん質が悪い、決着がつかないもんだから長引いてしまう・・・・・・・・・・が。

ゴガンっ!ゴンっ!!

「いでぇ!!」
「いたっ!!」

それまで部屋の中を大暴れしていた二人はその頭に走る衝撃に動きが止まった。
それは・・・・令子のゲンコツ。そして次に来たのは・・・





「何やってんの!!!!!!!!!!!!!!あんた達はあああ────────────っっ!!!!!!!!!!!!」





令子の怒号だった。
その天地も揺るがしそうな声にビクゥ!と肩を震わせる二人。
その時点で既に二人とも涙が浮かんでいる。

「だ、だって・・・忠志がケンカしかけるから」
「違うもん!ほたねーちゃんが・・・」

「二人とも悪いっっ!!!!!!!!!」

責任逃れをしようとする二人を一括する令子。
その様子を令花は祖母の影に隠れ震えながら見ている・・・
しかし、その祖母が立ち上がり、スタスタと叱られる二人の前に出てきた。

「蛍・・・・忠志・・・・」


『怒られる』

その覚悟だけが二人の脳裏に浮かんだ。
当たり前だろう、二人のケンカのおかげで障子は破れ、花瓶は割れ、絨毯は無残に破れている。
きっと母以上に怒るに違いない・・・・そう思い目をギュっとつむる蛍と忠志。

美智恵が腕をあげた・・・・・・・・・ぶたれる。二人はそう思い歯を食いしばった。





























「蛍!忠志!!いつの間にこんな凄い子になっちゃったの〜〜!!!もうさすが私の孫!!!」

美智恵はそういって涙ぐむ二人を力一杯抱きしめた。
予想とは違う祖母の行動に目をパチクリさせる二人、
そしてそんな光景に「だぁ〜!」とズッコける令子だった・・・・。


 


                                   
                                

                                    
                                    その8Bに続く

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