ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−38b


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 3/20)




「5箇所の神族拠点を一斉に同時制圧。
 梃子摺りそうな斉天大聖は仮想空間に置いてけぼり。全くお見事よ。
 まぁ、私達まで引っ張り出しておいて『失敗しました〜』何て聞きたくないけどね?」

魔神リリスが朝日を眺めながら、隣の横島に話し掛ける。
人間だった頃のように、ジーンズ生地の上下に身を包み、トレードマークの赤いバンダナも健在だ。
対してリリスは紺色の二股に分かれた尖がり帽子とローブに、中も紺色のフェミニンななワンピース。不必要に露出されている部分もあるが、これぞ古き良き魔女のスタイルといった風である。
二人に共通する点は、それが戦闘後であるのにも関わらず、服が一切汚れていないこと。破けていないこと。
結局、神族達はただの一度も彼らに攻撃を当てることは叶わなかったようだ。

「デタントの意義って何だと思う?」

唐突な横島の質問に意図が見えないリリス。

「霊的に安定させることで、世界を多様に進化させる。エントロピーの増大を促すのがその意義よ」

「らしいな。でも疑問に思うだろ?
 どうして俺の行動を最高指導者達が容認しているのか」

「そうね。色々探ってるけどさっぱり分からず。
 貴方もあの方達も防諜が完璧だから」

「………デミアンか。アイツは俺を未だに馬鹿にしてる部分がある。
 人間は非力だ。だから頭を使う。
 禁断の智恵の実を食したのは魔族ではなく、人間なのさ。
 その辺りが分かってないのさ」

そう言って眩しそうに朝日を眺める。
ルシオラと眺めたのは夕日。今眺めているのは朝日で隣にいるのはリリス。
その違いに何とも言えない気分になる。

「で、貴方は何をしたいの?」

横島と同じくらいの身長であるリリスは、同じ高さの目線で横島の顔を覗き込む。

「さあな?今は知らなくて良いさ」

「ユーチャリスの地下で何かやってると聞いてるけど?」

「そういえばデミアンが探ってたな。
 亜空間迷宮で迷ってたから助けてやったんだが……。
 俺と同等の魔力の持ち主じゃなきゃ、自力脱出は不可能だよ」

「話を逸らさないでくれる?」

横島の顔に手を添えて、自分の方を向かせる。
ほんの10センチほども顔を動かせば、キスしてしまいそうな距離。
だがそこにあるのはロマンティックな空気ではなく、策謀渦巻く危険な空気。
自分の性格上、そういう空気が嫌いではないリリスはそれを楽しんでいる。
知的なやりとりは頭を活性化させてくれる。
これはゲームなのだ。
最高指導者達が黙認する、横島主導のゲーム。
自分はヒロインにキャスティングされてはいないらしい。
ならば精々、厭らしい脇役に徹しようか。
脇役がヒロインを喰う話など、よくあることだ。

「逸らしちゃいないさ。
 俺の計画が発動するまで、何をやっても無駄ってことさ。
 知りたければ、直接ユーチャリスに忍び込んで来るんだな?」

嘲るわけでもない。少しおどけた口調で茶化す。

「ユーチャリスの中で貴方が分からないことなど無いでしょうに。
 貴方とデミアンくらいの力の差が無いと、貴方の目を誤魔化すなんて不可能よ。
 何せ、私のスカーレットと同様に、ユーチャリスは主と一心同体なのだから」

「だったらやっぱり諦めな。
 お前に有害な計画じゃない。有益でもないけどな」

フッ
軽く笑って彼女は頭を振った。

「今は諦めておきましょう。
 でも、海千山千の魔神を侮らないことね」

「分かってるさ。分かってるからこそ、こうして魔神を全て人界に集めた。
 今ごろユーチャリスでは、ある実験が行われている。
 完全に隠蔽したつもりだが、魔神級になれば気付くかも知れないからな。
 だから魔界から連れ出したのさ。一石二鳥だろ?」

「…………………………」

さすがに二の句がすぐには出ない。

――――完全に嵌められた!?

そう思った瞬間、彼女は爆笑する。
可笑しくて可笑しくて涙まで出そうになる。

「?」

そんな彼女を怪訝そうに見つめる横島。
そして唐突に彼女は――――――――キスをした。

「貴方最高よ?
 ここまで見事に出し抜かれたのは久しぶりだわ?」

言ってもう一度キス――――しようとして逃げられた。
口を拭う横島。

「傷付くわねぇ?
 自分で言うのも何だけど、美女のくちづけから逃げるなんて無粋よ?
 あ、それともこっちの方が良かったかしら?」

言ってすぐに顔が変形を始める。
無論、それは横島の視点であり、幻である。実際は何も変わってはいない。
その顔は次第にルシオラの形を取り始める。

「これならどう?ヨ・コ・シ・マ?」

クスクスクスクスッ

かつてのルシオラのように、鈴の音が鳴るような声で笑うリリス。
だが横島の表情は変わらない。

「アイツはもう死んだ。この世のどこに居やしない。
 リグレットのことは知ってるだろ?
 あの顔を毎日見てれば慣れるってもんさ。
 紛い物に心を動かされることなんてもう無い。
 揺さぶりなら他の手段を使うんだな?」

「じゃあ美神令子?氷室キヌ?シロ?タマモ?それとも超大穴の美神美智恵?」

言っている間もどんどん顔が変化していくリリス。

「その変化する過程が気持ち悪いから止めてくれ」

それは残念。そう言いながらリリスは最初の自分の顔に戻る。

「まぁ、良いわ。そろそろ最後の仕上げに入りましょ?
 他の魔神からも連絡が来てるわよ?
 大分お冠の様子だけど」

それまでの雰囲気を一変させて、鋭い目つきになるリリス。
それでも応じる横島のお茶らけムードは変わらない。

「そうだな。じゃあ、打ち合わせ通りのポイントに動いてくれ」

それを聞いて「じゃあね?」と姿を消す。
内心、自分の揺さぶりに全く動じなかった横島に感心しながら。









「ったく。俺って魔族としかキスしたことないんだよなぁ。
 美神さんのほっぺにチューとか、シロの舐め回しはノーカウント………だよな?」








見送った横島はぼやいた。

そして霊脈の流れが集う地球の点穴へ向かい、そこを押さえる。
各地の点穴に陣取る魔神達へ念話で合図を送る。
横島の合図を皮切りに、一斉に力の流れを制御して地球全体に六芒星を描き始める。
人界に最上級神族が降臨するのを防ぐために必要な措置。
“最上級&上級神族向けだけ”に、侵攻を防ぐための結界を人界に貼り付ける。
対象を限定してしまうことで、中級・下級の神族は素通りだが、神界に今回の戦術を真似されては堪らない。
最上級神族ならば、力尽くで破ることも可能だろう。しかし、それはすぐさま自分の知るところとなる。
呼び鈴としてはそれで上出来だ。

――――突破に多少時間がかかるように念入りに。結界が破られることを前提にしていることを悟らせないために。




こうして人界侵攻は秒読み段階へ入る。




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