ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−38a


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 3/20)




その日。

妙神山には斉天大聖が不在だった。
人界に駐留する神の中でもっとも神格が高く、最も高い戦闘力を持ち、最も古き神の一人である彼は、来るべき魔界の侵攻に向けて、丁度神界の上層部との打ち合わせの最中だった。それ故、彼は横島や雪乃丞が修業した仮想空間に篭っており、表側とでも称しようか。通常空間には上級神族の一人をリーダーに、中級・下級の神族達がひしめき合っていた。
皆、魔界の侵攻を最初に受け止めるべく派遣された神軍の猛者達であり、生半可な上級魔族では太刀打ち出来ないほどの軍勢となっていた。また、それは妙神山に限った話ではなく、世界各地の大規模な神族の拠点――全5箇所――の全てが似たような状況であり、常に臨戦態勢を整えていた。
その監視の目は魔人横島が誕生した地に向けられ、その地に存在する魔界のゲートの変化を数分ごとに観測していたのである。

先日、ヒャクメと美智恵は1つの予測を立てた。

『魔界の侵攻軍はゲートを通る』

通常、神族も魔族も人界に降臨するには多大な労力を要する。
それは魔方陣を利用してであったり、空間の歪を利用してであったり、人界側から何らかの召喚魔法が使われたりしたりする。
つまり神族・魔族が人界に降り立つには、それなりの制約が課されているものなのである。
しかし、人界に駐留所を持つ神族は制約が緩やかになっており、人界降臨は比較的に容易であった。
仮に単体で人界へ降り立っても、先に神界から降り立って力を回復させた神族が待ち構えていれば、即時殲滅の憂き目に遭いかねない。
それこそが有史以来、神族が魔族の大規模な人界侵攻を防いで来れた最大の要因であった。
だからこそ、魔界の侵攻軍は大量の人員で一気にゲートから現れる。
それがヒャクメと美智恵の………神界の予測であった。

誰が予測しようか?
単体で降臨しようとも、例え中級神族が軍勢で待ち構えていようとも、そんなことを問題としないほどの最上級魔族――――魔神達がいきなり降臨しようとは、誰が予測出来ようか?

その日。

6体の魔神達が人界に一斉に降り立った。
あらゆる制約を力で捻じ曲げ、その声は嵐を呼び、大地を踏みしめる脚は大地震を引き起こす。
それぞれの拠点に魔神達が突如現れ、力を振るった。
その力は魔界侵攻のために集められた神族達を、草木を刈るように無造作になぎ倒していく。
狼狽の後、組織的な抵抗を始めるそれぞれの拠点の神族達。
だが魔神の称号を冠する悪夢達は一顧だにせず、その抵抗する力を奪っていく。気力を奪っていく。
それこそ、この一戦が済めば用は無い、魔界に帰る。
そう言わんばかりに全力で力を振るっている。

最初に陥落したのは妙神山であった。
そして一番の激戦区もまた妙神山であり、一番の絶望を齎されたのも妙神山であった。
他の拠点に対して魔神は一人であったのだが、妙神山だけは二人降臨していた。
その魔神達はまず二手に分かれて行動した。
一人は駐留する神族達を片付け始め、一人は仮想空間にいる斉天大聖を、そのまま仮想空間に閉じ込めてしまったのである。
そして斉天大聖の動きを封じた魔神――――横島もまた、すぐさま神族達を刈り始める。
斉天大聖が封じられた後の妙神山はあっけないほどに抵抗が弱まった。
『勇将の下に弱兵無し』
ならば勇将を失った兵達は弱兵と化す。古来より将軍の首級が手柄とされる由縁である。
一軍の将とは、その軍の象徴であり、心の拠り所である。
妙神山に詰めていた神族はいきなり心を折られた。結果、抵抗も惨憺たるものとなる。
妙神山の抵抗を排した魔神の一人、夜魔の女王リリスはその圧倒的な魔力で妙神山と神界を繋ぐゲートを塞いでいく。
そしてそれが済んだことを宣言するように、妙神山から魔力の号砲が放たれる。

――――難攻不落を誇った妙神山が再び落ちた?!

妙神山は斉天大聖が守護する聖なる山(小竜姫が魔界へ向かったために、管理人を代行中)であり、人界に駐留する神族達の最終拠点であった。
にも関わらず、一番最初に落ちたのである。それを知った神族達の絶望は如何ばかりか。

妙神山陥落の号砲を皮切りに、次々と陥落する各地の拠点。
次々と陥落の号砲が全世界に響き渡る。

わずか1時間。

わずか1時間のうちに、神界の迎撃軍は全滅の憂き目に遭った。

人界はたった一時間の攻防で、再び神界とのチャンネルを塞がれたのであった。









「チャンネルを維持する五大拠点が全て落ちた………」

オカルトGメン内の中央司令室。
情報収集をしていた情報仕官が沈痛な声色で、誰にとも無く呟いた。

神族の駐留所に精鋭が集められていたことは既に周知の事実。大規模な魔力と神通力の乱れが観測され、緊張が走ったのは一時間前。
魔界軍侵攻に備えて集められていた彼らだったが、あまりの事態の推移の早さに置いてけぼりを食ってしまった。
日本支部に一番近い妙神山なら飛行機で30分あれば良い。
だがその飛行機の用意に1時間以上かかるとなれば、それも徒労に終る。今現在も、飛行機の手配が進んでいる最中だ。
トータルで1時間半。情報によれば、最大戦力の集う地である妙神山ならそれくらい持ちこたえるだろう。
いや、自分たちの援軍など不要かも知れない。そんな楽観的な予想を遥かに越えた事態。
オカルトGメン内に。いや、現状を知る者全てに悲痛な予感が走る。

「アシュタロス戦役の再来か…………」

やはり誰かが呟いた。
一同の脳裏に浮かんだのは、かつての英雄であり、少し前までテロリスト扱いされたGS達の面々。

プシューッ

自動ドアが開く。颯爽と現れる女傑。彼らが想像した英雄の顔。

「状況の報告!」

彼女、美神美智恵の本気モードに身が引き締まる一同。
自分に希望が無いなら、頼れる上司の指示に従えば良い。
彼女には実績がある!実力がある!
藁にも縋る。そんな気持ちで一斉に仕事に励みだす。

「妙神山、喜望峰、ギアナ高原、インカ、バミューダトライアングルの順に、五箇所の神界拠点が3分前、午前4時47分に陥落しました。
 援軍として用意した隊員達は、そのまま逃げ延びた神族達の収容に向かうとのこと。
 確認出来た魔族は6名です。全て………全てが魔神と推定されます!」

「やはり魔神か………対魔族用に招集された部隊を壊滅させるほどの力を持つとなれば当然ね。
 ドイツやイスラエルの電撃作戦?
 完全に読み違えたわね…………」

呟きながら、彼女は自分に寄せられる期待の眼差しに気付く。

『貴女なら何か策があるのだろう?自分たちはどうすれば良い?』

そんな目だ。
完全に他人任せにしようとしないところは評価出来るが、思考を停止してしまっているその姿勢に苛立つ。
少しだけ深呼吸してから彼女は矢継ぎ早に指示を下す。

「まずは国連に非常事態宣言発令を要請!
 同時にGS協会へ世界中のGSを動員するように要請して!
 衛星を使って五箇所の拠点の様子も逐一データにして提出!
 秘密研究所跡のゲートの観測データを秒単位に切り替えて!
 それから生き延びた神族の収容も急がせて!
 遠からず………来るわ!!」

言われて動き出す部下達。
一体、いつになったら引退出来るのやら。
そう考えて彼女は苦笑する。

――――引退する前に死にそうなのにね。

だとしても、ただでは死なない。
それが美神の人間としての矜持だった。





(38bに続く)

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