卒業(5)
投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 3/19)
インターミッション
おキヌちゃんはぽつりぽつりと、美神さんがおキヌちゃん達に聞かせた、俺を辞めさせた理由を話してくれた。
俺がおキヌちゃん達を見下してる?
あんまりだ。
それならあんたはどうなんだ。
低賃金でコキ使っとるあんたは?
憤る俺におキヌちゃんは、美神さんが何か思い詰めているみたいだと言った。
あれ以来、美神さんが笑顔を見せなくなったと言うのだ。
おキヌちゃんの心配は、俺よりも美神さんの方に向いているらしい。
なんだか怒る気も失せた所に電話が。
唐須神父だった。
9.
「俺が教会を手伝うンスか!?」
呼び出された横島が、いかにも嫌そうに声を上げた。
唐須からの電話を受けた横島は、おキヌを帰して教会にやって来ていた。
欠けた湯飲みに、薄い色のお茶らしきものがはいって、前に置かれている。
同じように欠けた湯のみを前に、唐須は苦笑いして言った。
「信者でも無い君に、教会の仕事を手伝ってくれなんて言わないよ。
教会にきた除霊の依頼を、君に代行してやってもらいたいんだ。
もちろん、信者になりたいというなら、話は別だがね」
横島は苦笑いして首を横に振った。
「いや、その話はいいッス。神様にお願いすることは特にないッスから」
困ったような顔で、唐須は横島の顔を見つめていた。
つまりは、御利益の期待できない神様は要らないということだな。
本来ならじっくり説教したい所だが、今日横島を呼び出したのは、入信を勧めるためではない。
唐須は話を元に戻すことにした。
「ピート君がオカルトGメンに入れなかったと言うのは、横島君も聞いているね?
実はそのことで、西条君に私の怠慢を指摘されてしまってね。
GS協会の仕事を、優先しなければならなくなったんだ」
「ピートはどうしたンスか?」
横島は不思議そうに聞いた。
たとえ唐須が除霊の仕事に手が回らなくても、ピートがいれば充分なはずだ。
「ピート君は一度実家に帰ってもらったよ。
国籍を取得するともなれば、家族と相談した上で、結論を出してもらいたいからね」
「あのボケ親父、話し通じるンスかね?」
「通じるか、通じないかは問題じゃないさ。
誠意を持って、話し合うことが大切なんだ。
そう言うわけで、ピート君はしばらく帰ってこれない。
ピート君が帰ってくるまでの間になってしまうんだが、どうだろう?」
「神父、給料払えるンスか?」
横島の疑問はもっともだ。
「協会から給料が出ることになったから大丈夫だよ」
だったら、最初から協会の仕事を優先すればいいのに。
横島はそう思ったが、それができないのが唐須なのだろう。
「聞いてると、仕事をするのは俺一人みたいなんすけど」
「その通り。基本的に君一人でやってもらう。
アドバイスくらいなら、してあげられると思うんだけどね」
「やってもいいッスけど、一つだけ条件があるッス」
唐須は内心胸を撫で下ろす思いだった。
低賃金でやってくれそうな知り合いは、あまり多くない。
唐須が消去法で選んだ最後の一人、それが横島だった。
「なんだい条件って?」
「千円!」
「え?」
「時給、千円。これだけは譲れないッス!」
歩合で要求されると思っていた。
横島の真剣な表情から察するに、本気のようだ。
当人としては、かなり強気に出たつもりなのだろうが、まだまだ弱気と言っていいくらいだ。
令子君、虐待しすぎだよ。
うちとしては助かるけどね。
唐須は表情には出さずに溜め息をついた。
「わかった。時給千円だね」
唐須は商談成立とばかりに、横島の肩を叩いた。
「ところで、横島君。
GS免許、どうして取りに行かないんだい?」
「……! 神父、なぜそれを?」
「協会が君の免許を用意して待っているのに、いつまでたっても来ないって言うからね。
君にも色々考えがあるとは思うが、彼らにも仕事と言うものがある。
なるべく早く行ってあげてくれないか」
「はあ……」
「どうしたんだ。GS免許、欲しくないのかい?」
横島の気の無い返事に、唐須の表情が険しくなった。
「いや、欲しいッス。あんだけ苦労したンスから。
欲しいッスけど……」
「何を怖がってるんだい?
君がきちんとスタートを切らないと、美神君はいつまでも安心できないよ」
「……神父。美神さんに何かあったって、知ってるンスね?」
しまったと言わんばかりに唐須がのけ反る。
彼は嘘の付けない男だ。
インターミッション
神父に聞いた話は、今はまだ秘密にしておこう。
美神さんが自分から話してくれるまで、胸にしまっておくことにするつもりだ。
おキヌちゃんに話すかどうか迷ったが、おキヌちゃんの態度でばれてしまいそうなので、もう少し時間を置こうと思う。
美神さんに、挨拶に行くといって出掛けたおふくろは、暗くなってから戻ってきた。
なんでも、美神さんに会った後で、美智恵さんにも会って来たんだそうだ。
「これ以上、事務所に居ることは、あんたのためにならないんだとさ」
おふくろは意外とすっきりしてた。
「で、どうすんのこれから」
「どうなるかは分からんが、一人でやってみるよ」
俺は答えた。
今までの
コメント:
- なんだかこれくらいの長さのほうが読みやすいかも。
マリクラさんの傑作の後がこんなで申し訳ないです。
それでは前回のコメント返しです。 (居辺)
- kitchensinkさん。
現実では首だなんて言いません。辞めると言わなきゃならないように追い込まれるんです。
それでも、まだその方が優しかったりするのですが。
愛子の進路は、誰か似たような話を書いてる気がします。
ハッピーエンドな愛子ですが、受験やら通学やらを、机を背負ってやらなければなりません。
今のところ、机をどうにかしてやろう、なんてまったく考えてません。
だってその方が面白いですから。
NAVAさん。
読解力不足だなんて。私が下手だっただけです。
ですので気になさらずにお願いします。
愛子のことは不幸にするシナリオと、幸せにするシナリオを合体させたらあんな感じに。
リアリティは怪我の功名でした。 (居辺)
- 怪我の功名って、アンタ・・・。今度は唐巣の件でリアリティが・・・(笑)
時給1000円。確かに私的には良い時給の部類に入るんですが(田舎だから^^;)、GSとしての仕事と言っても過言ではないわけで。唐巣神父だって、協会の金なんだから、その辺りを教えてやれよ(笑)
横島君の強気が悲しいNAVAでしたw (NAVA)
- 違う意味で感覚が庶民の味方っぽい横島クンが逆に好ましく思えました(笑)。横島クンを気遣うために訪れたのに、そこで感極まって泣いてしまうおキヌちゃん、そして相変わらず「母」として落ち着いた対応を取る百合子が共に「らしい」と思いました。反対に令子はカナリ思いつめているのか、普段の覇気が感じられないですね;横島クンが完全に一人立ちする前に参ってしまうのではと心配になるほどです(爆)。主に一人で除霊をすることになった横島クンと、世間と感覚がズレまくっている父親と対面することになったピートそれぞれの今後が気になります。次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- >令子君、虐待しすぎだよ。
今回、このセリフが一番のお気に入りだったりします(笑)
哀れに思う神父・・・だったら・・
「もう少し高くてもいいんだよ?」
くらい言ってやれよ!神父ーーー!!(笑)
ピートの説得はあの親父に通じるのか、っていうかオヤジって生きてるの!!?
アシュタロス事件のときに死人達と一緒に出てきたような・・・(笑) (ユタ)
- いや、唐巣神父も財政が苦しい人だし…(笑)それに、今回ピートの帰郷費用とか…
でも時給千円て…横島君、それってパチンコ屋さんの店員の給料並みか、それより低いぞ(マジ) (MAGIふぁ)
- 自給千円・・・
本当に他のバイトやったほうが良いと思う。
せめてその100倍くらい言っとけよ、横島・・・
自給千円じゃあ24時間で2万4千円ですよ?!
命がけの仕事の報酬じゃねぇ・・・
さてさて、ようやく話が噛み合ってきた横島は、今後はどう出るのか?
まさか信者にはならないだろうけど(w) (KAZ23)
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