ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その7)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 3/18)










前回までのあらすじ・・・・

2015年・5月
美神ひのめは六道女学院の一年生となっていた。
しかし、その霊力は母や姉、または姪っ子、甥っ子に遠く及ばず、『GS美神』の名にコンプレックスを持つことになる。
親友・江藤幸恵に支えられ学生生活を送るものの、幸恵が目を離した隙に名家『三世院』のご令嬢・京華に
霊能格闘授業とかこつけてボコボコにされるひのめだった・・・・・・・・。





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「いたた・・・・」

「ひーちゃん、大丈夫?」

夕暮れの路地に二人の影が長く伸びた。
幸恵はひのめに肩をかしながら歩いているのでその陰が一つとなり伸びている。

「もう!あの取り巻きの子達ひどいよ!顔の傷だけ治して目立たないとこはわざと治さないなんて!!」

ひのめが受けたであろういじめを思い出しグヌヌと拳を握る幸恵。
そんな幸恵を見て当のひのめは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「もう笑ってる場合じゃないよ!ひーちゃん!!」
「分かってるってば・・・・・ほら、もう着いたからいいよ」

ひのめにつられて幸恵が視線を動かした。二人がいる場所、そこはひのめの自宅マンション入り口。
ひのめは苦痛に少しだけ顔を歪めながら、幸恵の肩にかけていた左腕をはずした。

「んじゃ、見送りご苦労♪また明日ね」

明るい笑顔で軽く敬礼をするとひのめは幸恵に背を向けマンションの階段を登ろうとする・・・が。

「ひーちゃん」

「ん?」

その足は親友の呼び声で止まる。
何だろうと振り返るひのめ、そこにはどこか悲しい顔で微笑む幸恵がいた。

「どうかした?」

「う・・・うん」

幸恵は少しだけ何を言おうか困ったような顔をするが、
やがて意を決したような顔でツカツカとひのめに駆け寄った。

「ひーちゃん・・守るから。ひーちゃんのことは私が守ってあげるからね」
「え?」

親友に手を取られ、少しだけ目をパチクリさせるひのめ。
だが、やがて幸恵を言ったことが理解できると笑顔で

「うん、ありがと・・・・」

と応えた。
幸恵もその笑顔に安心したのかニコっと笑顔を浮かべその場を去った。
幸恵の後姿に手を振るひのめ・・・・やがてその姿が見えなくなると再び振り返り階段を登り始める。

(守る・・・・・か)

ひのめ先程の親友の言葉を思い出しフっと笑みを浮かべる。
しかし、やがてその笑みが消え階段を登る足が止まった。

(でもね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・守られてばかり・・・・・っていうのも結構キツいんだよ・・・・・)

それはひのめの本心なのだろうか・・・・
心の呟きに誰も応えるものはいなかった。






















「ふんふ〜ん♪」

ひのめの鼻歌がシャワーの音共に風呂場へ流れた。

幸恵と別れた後、帰宅の言葉を述べドアを開いたひのめに応えるものは誰もいなかった。
それは珍しいことではない、母と二人暮し(父・公彦は相変わらず南米在中)なので
当然仕事で美智恵は家をあけていることが多い。定時で終わっても帰宅は大抵7時くらいになってしまう。
そういうわけでいつも一番風呂はひのめということが多かった。

「ふぅ〜、さっぱりした」


キュっとシャワーの栓を止め風呂場からあがり、余分な脂肪のない肢体を滴る水分をバスタオルで拭った。
そして、衣服を纏っていく・・・しかしブラジャーをつけるときにその手が止まる。

「いつからあるんだろう・・・・この傷」

ひのめが呟いたとおり、鏡に映るその背中には1cmほどのひっかき傷が3本、それに覆い被さるように火傷があった。
別に今気付いたわけじゃない、物心ついた頃には既にあった傷だし、今まで何度も見てきたものだった。
しかし・・・・・・・・今日だけは・・・ひのめはなぜかその傷が気になって仕方なかった。

「帰ってきたらママに聞いてみようかな?」

一応の結論をだし、ひのめは更衣室をあとにした。



















PM 6:12
ところ変わって、横島邸



「ぶは〜、疲れたぁ・・・・」

その一言共に玄関に倒れこむ横島。
それに気付いたのだろう、奥からトタトタと愛妻の令子が玄関まで向かえに来た。

「おかえり、今日は早かったわねぇ」

「早朝から除霊で午後はオカルトGメン東京支部に呼び出しだぞ?せめて早めに帰宅せなやってられんわー」

今日一日あったことを文句をたれながら報告する横島。
こうやって今日の出来事を話すのが日課となっており、もはや無意識のうちに話してしまう横島だった。
令子はそんな旦那にクスっと柔らかい笑みを漏らす。

「あれ?子供達は?」

横島はいつもは出迎えてくれる愛する子供達はどこかと首を動かした。

「蛍と忠志は部活の合宿、令花は今日から学校行事のお泊り会でしょ」

「ああ、そっか」

「何よ〜、出迎えが私だけじゃ不満なの?」

そう言ってジト目になる令子。横島はその視線に「ウっ」と一瞬詰まるがやがて苦笑いを浮かべ・・・

「そんなわけないだろ・・・」

と、軽く令子の唇に自分の唇を重ねた。
いきなりキスされカーっと赤くなる令子。

「も、もう!すぐそうやってごまかすんだから!」

そうやって怒ってみせるが照れているのはモロバレ、
そんな愛妻だからこそ結婚13年目でも倦怠期が来ないのだろう・・・
ニカっと笑みを浮かべながら心でそう呟く横島だった。














「なぁ、令子」

「ん?何?」

風呂上りの晩酌、令子に注いでもらったビールを飲み干してから横島は話を切り出した。

「今度・・・・・12年前のことをひのめちゃんに話すって言ったよな」

「え?うん」

横島の表情があまりにも真面目なので、少し戸惑う令子。
横島は少しだけ間を開けて声のトーンを落として言った。

「2週間後・・・・ちょっとだけやっかいな仕事が入った」

「・・・・・・・」

横島の一言で令子の表情が険しくなった。
その表情は今までの『妻』、『母』ではなく『GS美神』のものになる。
その仕事が『ちょっと』ではなく『かなり』やばい仕事なのが横島の瞳から分かるからだ。

「いけそうか?」

「あんたに仕事と酒の呑み方を教えたのは誰だと思ってんの?
どんな仕事よ・・・・言ってみなさい」

ヤバイ仕事と知りつつなぜか口が緩む令子。家事、子育てで横島ほど一線でGSの仕事をしていないせいか、
血が騒ぐのだろう・・・事実、令子の心音は仕事からくる緊張よりも期待から早くなっていた。


「長野県、N山・・・・・・」

「!!!?」

令子の表情が驚愕のものへと変わった。

「まさか・・・・今回のターゲットって・・・・」

「まだ、非公式だし確証は得てないけどな・・・・多分」

今度は自分でビールを注ぎ飲み干す横島。

コト・・・

ジョッキをテーブルに置く音だけが台所に響いた。
沈黙・・・・・二人の間に会話はなくなっていた・・・・

「・・・・・・・ひのめには話すの?」

沈黙を破るように令子が横島に尋ねてみた、その表情はどこか暗い。

「・・・・・・・・・・・・・・・・まだ分からん・・・・・でも・・・・」

本日三杯目のビールを口に含む・・・

「覚悟はしといたほうがいいかもな・・・・」

それ以上横島の口が動くことはなかった・・・・























PM10:14
美神邸・ひのめの間



「ふあ〜・・・・さ、タイマーセットしてと・・・・」

ひのめはあくびをかきながら愛用の目覚まし時計を枕元に置いて布団にもぐった。
そして今日一日を思い出す・・・・それがひのめの習慣だった。
まず浮かんだのは一番新しい記憶。

(・・・・・・・・・・今度の日曜日・・・・どんな話だろう・・・・)


帰ってきた美智恵に背中の傷を尋ねると・・・



『今度・・・・日曜日に話してあげる・・・・』



その一言しか返ってこなかった。
そのときはたいして気にならなかったが、今にしてみればなぜ母が少し暗い表情をしていたのが気になった。


次に浮かぶのは・・・



『ひーちゃん・・守るから。ひーちゃんのことは私が守ってあげるからね』



親友の優しい言葉と笑顔。
それを思い出し布団の中でひのめの頬が緩んだ。
中学時代とは全く逆の行動だということも笑いの一要因だろうか・・・

「守られてばかり・・・・ってのもね」

思い出し笑いが苦笑いになったところでその記憶は脳の奥隅に消えた。
そして最後に浮かんだのは・・・・



『私から今回『も』逃げなかったことは褒めてあげますわ』



三世院京華の余裕の笑み。
その表情が今まで思い出した記憶の中でも一番鮮明に浮かんできた。
次に試合内容を思い出す・・・・。

決して悪くなかった・・・・体調も技のキレも・・・・ただ足りなかったのは・・・

「霊力・・・」

京華と戦うことに絶対的に足りなかったものを呟くひのめ・・・それと同時に悔しさが身体全体を覆いつくした。
自分は努力してる、基礎鍛錬はもちろん霊力向上訓練だって毎日欠かしたことが無い。
誰よりも努力してる・・・・・それだけは誰に言わずとも自負していた。
しかし・・・・・・・その努力の答えは・・・・・・・・・『惨敗』の二文字。

その結果に怒りと歯がゆさでひのめの身体が震えた・・・
掛布団を頭まですっぽり被り、ギュっと枕を抱きしめ体を丸め・・・・

・・・・誰にも聞こえない声で呟いた・・・・。

「何で・・・・何で霊力が上がらない・・・の・・・・・くそ・・・・・くそぉ・・・・・・うぐ・・・・え゛・・・う・・・・ぐず・・・」




・・・・・・・・・・・・・布団の中で丸めたひのめの体が・・・・・怒りで・・・・・・・悔しさで・・・・悲しみで・・・・・・小さく震えた・・・・・・・・・・・






                                        その8に続く




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