ザ・グレート・展開予測ショー

めぐりあえたら


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/18)




 何かを見つけた。その何かが何なのかはわからないけれど、とても温かいものだった気がする。それが、今はないことは確かで。

 おぼろげな記憶の中に浮かぶのは、美しい月。華やかな街。そして、空虚な日々。

 眼に映るもの全てが空虚で、何も感じない、そんな日々。日々という時間の観念さえも失って―――それでも、私は生きていた。

 朝が過ぎ、昼が流れ、夜が訪れる。月夜。私はずっと月を見ていた。
 時々、隣を見、思う。
 そう、ここに誰かがいるべきなのだ。
 そう思うと、とても堪らない気持ちになる。
 泣きはしないが、泣けないことが悲しい。
 泣けないわけではないのだ。泣かないわけでもない。
 時々―――衝動が私を狂わせる。
 思わず、顔を両手で覆う。
 隙間から漏れる嗚咽、でも、泣いていない。
 泣いていない―――何故だろう?
 こんな時でさえ、嬉しくなる。
 彼の事を考えている自分が嬉しい。
 精神的に幼かった自分が抱いた恋心、消えることなく、あり続けるそれが、嬉しくて。
 悲しい。
 嗚咽はやがて、笑い声に変わる。
 きっと、見ている人にとっては不気味な光景だろうけれど。
 私は笑う。
 嬉しくて、悲しくて―――。
 笑う。

 喉を焼く冷たい酒が、心を優しく振るわせる。
 ああ、あなたは今何処に?
 そんなことを歌って、溜息をつく。
 会えない。
 でも、会えるのだ。
 不思議な話―――。
 きっと、私以外の女なら、信じない。

 月は曇りもなく、鮮やかに映る。
 闇夜に映える月、煌々と輝き、まるで吸い込まれるかのようだ。
 歌の心などまるで持たない私だけど、この月だけは分かる気がする。
 うわべだけのものではなく―――そう、そのものなのだ。
 私は月―――照らし合わせてみる。
 儚いでしょ?
 切ないでしょ?
 美しいでしょ?
 それに―――闇の中で映える。
 夜に煌々と輝く女なのよ。
 まぁ、見渡す限り、私に敵うような女はいないわね。
 とてもじゃないけど―――釣りあう様な男はいない。
 そう思うでしょ?―――高島殿。





 ―――ああ、そうだな。


 私の隣から聞こえるはずのない返事。

 「ふふん。でも―――独りだけ知ってる」


 ―――誰だよ?それ・・・


 そう、幻聴に過ぎない事は分かっている。

 「さぁ・・・誰かなぁ・・・」


 ―――教えろよ、メフィスト・・・


 どうして、そんな笑顔を浮かべるの?
 私はこんなにも悲しい顔をしているのに―――
 幻だとしても―――お願い、そんな顔しないで。

 「知ってるくせに」

 そうよ、知ってるはずじゃない―――惚れろって言ったくせにさ・・・。

 困った顔をしてる。
 心当たりがあったのかしら・・・


 ―――西郷か?


 そんなわけないでしょうが―――

 私が好きなのは―――
 愛してるのは―――






 「愛した事も愛された事もないって言ってたよね?」

・ ・・ああ。

 「私の事・・・愛してくれた?」

 ?

 「不安なんだ、今でも」

 ・・・

 「愛してもいない女の為に―――死んじゃったの?」

 ・・・

 「答えて」

 幻―――それでも良い、答えが欲しいの。
 貴方を待ってた。それは身勝手な私の自己満足。
 身勝手な私の我が侭―――それでも、貴方を待っていたかった。
 それが、私の幸せで―――。
 報いる何かが欲しい訳じゃない。
 ただ―――聞きたい。
 貴方の口から。










 「誰かの妻として添い遂げる気はないのですか?」

 「私は・・・」

 「・・・求婚の話も多い・・・出来る事ならば―――」

 「すいません・・・西郷さん・・・」

 「貴方は私の妹です・・・謝る事はない・・・しかし、この都にいれば―――またいずれは噂となって面倒な事になるでしょう・・・ここを離れ、出来るなら片田舎で暮らすのが宜しいのではないかと・・・」

 「はい・・・」



 貴方を思う。今でも。
 ・・・忘れる事など出来るはずもない。
 貴方を心に宿したままで―――誰かのものになるなんて出来ない。
 それに―――私には約束がある。
 今思えば、何て不確かで悲しいほど実現する事が困難な約束―――
 私は人になってしまった。
 だから、貴方を見つける術もない。
 巡り会いを信じろと貴方は言うの?

 「答えてよ・・・高島殿・・・」



 眠れる夜―――最期の日。
 喉に染みる酒が逆流し―――床を濡らす。
 杯が軽い音をたてて転がる。

 「答えは―――ないの?」

 声ははっきりとしていた。いやそれさえも幻聴だったのだろうか?





 また―――会おうな。







 うん・・・また、会おうね―――










 「ど・・・どしたんスか!?どしたんスかっ!?」

 「・・・?あれ・・・どうしたんだろ。でも・・・」






 「何か・・・悪い気分じゃないのよね。」





































 暗澹たる意識の中で見えた―――明確な彼の姿。
 彼を失ってから流せなかった涙が流れた。
 

 きっと、それは―――嬉し涙。

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