さあ、どっち?(その夜・1)
投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/12)
横島と雪之丞は、角野文章(かくの ふみあき)の屋敷から、自分たちに関する書類を車に載せて、現場から走り去った。
夜。二人は誰もいない山の中のキャンプ場に車を止めた。
書類に火をつけ、それを種火にしてキャンプファイヤーをはじめる。
燃えさかる火に、つぎつぎと書類を投げ込んでいった。
「どうせなら、夏に来たかったなぁ・・・」
書類をすべて始末したあと、その火で湯を沸かし、カップラーメンを作った。これが二人の晩メシである。
「うん、うまい・・・」
横島は、おもわずため息をついた。寒い日には、やっぱりこれだ、とおもった。
雪之丞は、ひとことも言わず、ラーメンをすすっている。
「弓がなぁ・・・・・・」
ラーメンを食べ終わり、燃える火を眺めていたとき、雪之丞がポツリといった。
「うん・・・どうした」
横島は雪之丞に目を向けた。そういえば、雪之丞と弓のことについては、まだ聞いていなかった。
話す気がないなら、それでいい。横島はそう考えていた。
しかし、雪之丞は、ポツリポツリと語り始めた。
あのクスリを飲んでから、目覚めたときにはホテルにいた。弓と二人きりだった。俺は弓の慣れきった態度に驚いたよ。
ホテルから出るとき、弓の父親と出くわした。さんざん殴られたあと、弓の実家で、弓に許婚者がいることを知った。
そして・・・。次の日、六道女学園の屋上で、弓と話をしたんだ。
『黙っていてごめんなさい。実は私も最近知ったのよ』
『そうか・・・・・・』
『あなたには、つらい思いをさせてしまったわ』
『・・・・・・・・・』
『なにも、言わないのね・・・』
言いようがなかった。実感がなかった。
『で、どうするんだ』
『どうする?』
あの瞬間の、弓の表情は、・・・なんだったんだろう。
一瞬変わった顔つきを元に戻して、急にあいつは横を向いて、こういった。
『・・・そうね。受けるわよ』
『え・・・・・・?』
『彼の父親と私のお父様、古い知り合いらしいのよ。この話も、前から決まっていたらしいから。会ってみないとなんともいえないけど、別に抵抗は感じないわね』
『・・・・・・・・・』
『さよなら。短いつきあいだったわね』
あいつは、振り返りもせずに、行ってしまった。・・・・・・・・・
「けっ!!」
横島は横を向いて、ツバを吐いた。
「なんだよ?」
「なんだよじゃねえよ。もちっと、マシな話かと思えば・・・」
実際バカバカしい話だ、と横島はおもった。どっかで聞いたような話だ。しかもマジだぜコイツ!!
「そんで?これから首でも吊るか?ここらには手ごろな木がたくさんあるからな。俺は止めねーぞ」
「・・・・・・・・・」
怒るかと思いきや、雪之丞はますます縮こまってしまった。
「とりあえず飲め。これをな」
横島は雪之丞に、例の黒い錠剤をつきつけた。
「俺のカタがつくまでは、つきあってもらうぜ」
「・・・もう起きたことは、取り返しがつかないんだろ。飲んでもしょうがねえんじゃねえか?」
「お前のことより、俺のことだ。これ以上ガタガタ言うな」
横島は火を消すと、ムリヤリ雪之丞に錠剤を握らせた。
「おい、雪之丞」
「なんだ」
「何にも起きねえな」
二人は、車の中でクスリを飲んだ。
前回は飲むなり気を失ったが、今回は何の変化も起きない。
「あの野郎・・・ウソついたのかな・・・?」
「文珠は反応しなかった。俺らは騙されちゃいない」
横島は起き上がった。しばらく考えていたが、やがてニヤニヤと笑いはじめた。
「これを忘れてたな」
横島は車の電灯をつけ、後部座席を探ると、角野から巻き上げた水晶玉を取り出した。
「さあ、たのむぞぉ・・・」
横島は水晶玉を手で包むようにしながら、脳裏に令子の顔を思い浮かべて、念を込めはじめた。
すると、水晶玉は光を放ちはじめた。ほの明るい光が、横島と雪之丞の顔を照らしだす。
「おおっ・・・映った・・・!」
「やったぜ、事務所だ・・・」
水晶玉には、事務所のソファーに座り、苦い顔をした令子の姿が映っている。
「・・・ですから横島さんは、何にも悪くないんです。私がいけなかったんです!」
おキヌは、必死で横島の弁護をしていた。
「あんたねえ・・・いい年した男女が同じ部屋で一晩すごしていたのよ。何もないじゃ済まされないのよ。わかるでしょ?」
「ですから、横島さんは何もしなかったんです。本当です、信じてください!」
しばらく経ってから冷静になってみると、顔が青くなる思いだった。
横島とおキヌは、恋人でもなんでもないのである。今まで、きちんとお互いの気持ちを確かめあったことなど、一度もない。
なにかの拍子に、おキヌが横島に『好きだ』と言ったことはある。しかし、それに対する返事はかえってきていない。
私は横島さんのことが好きだ。だから、横島さんも私のことが好きだ・・・という論法は成り立たない。
それなのに、私は横島さんの恋人みたいに勝手な行動をした挙句、結果的に横島さんを追い詰めてしまった!
今朝の自分の行動をおもいだすたびに、おキヌは涙がこぼれそうになった。
(どうしよう・・・どうしたらいいの!?)
「それは置いとくとしても。アイツは何を考えたか、自分のアパートを爆破して逃亡しているのよ。今じゃ指名手配の身だからね」
「アパートを砲撃したのは美神さんでしょ?」
おキヌの言葉に、美神はビクッとした。
「な、な、なーに?なんのことだか、さっぱり・・・」
「アパートに迫撃砲をブチ込んだのは美神どのではござらんか。拙者たちは見たでござる」
「それに横島って、まだ未成年でしょ?あのニュースはでたらめじゃないの」
令子は、三人の指摘に、冷たい汗を流しはじめた。
「美神さん、今すぐ自首してください。そして、横島さんが帰ってくるまで待ちましょう。そうしてください!」
「ま、ま、待って!大丈夫!アイツはすぐ帰ってくるわよ!指名手配の件はなんとかするから、だからお願い、待って!!」
「指名手配のほうはなんとかなっても(筆者註;なりません。普通はね)、それで横島さんが帰ってくるかどうか、わからないじゃないですか!?」
「だ、大丈夫!アイツは帰ってくるわ!」
「・・・その根拠は?」
タマモの指摘に、令子は立ち上がった。三人に背を向け、何かを考えている。
やがて振り向くなり、引きつりながらも、半笑いの表情で言い放った。
「な・・・なんとなくよっ!!」
「・・・・・・・・・(泣)」
「・・・・・・・・・(臨戦態勢)」
「・・・・・・・・・(冷笑)」
今までの
コメント:
- 一話で終わりませんでした(泣)
すぐ二話目を投稿すべきでしょうが・・・まだ出来てなくて。
とにかく急げ!ってところです。 (Kita.Q)
- 何かとおキヌが関わるストーリーに賛成を入れてる私ですが…
確かに寝ちゃってましたねぇ、 一緒に。
謝る所がおキヌらしくもありますが…
何はともあれ、 おキヌちゃんの思い(謝る所)に感動したので1票入れます。
後、
『な、 なんとなくよ』
という美神の台詞でアシュタロス編の根拠の無い
『なんとなく』
と自分の中で重なってたりします。 (K.H. Fan)
- おお、男を巡っての女の戦いが始まりそうな予感です...(挨拶)。こと女性関係に関しては恐らくは横島クンに比べ、純情な部分が残ってそうな雪之丞の落胆ぶりが「らしい」と思いました。そんな雪之丞に余計な励ましを与えずにとりあえずは放って置くことにした横島クンの優しさも「らしい」気がします;或いは赤の他人の男のことはどーでもいいのかもしれませんが(笑)。互いに反対の錠剤を呑んだことで、とりあえず横島クンのほうは早速効果が出てきたみたいですね。非常に説得力に欠ける理論を必死に打ち立てる令子ですが、果たして他の女性陣はそれで納得するのでしょうか? そしてゆっきーと弓の関係は? 次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 意外に甲斐性無しの雪乃丞がイイカンジです(笑)
薬の効力は解けたのか、それともヘンな副作用があるのか…あるといいなぁ(おい)
続きを楽しみにさせていただきます。 (MAGIふぁ)
- K.H.Fanさん、kitchensinkさん、MAGIふぁさん、コメントありがとうございます。
>K.H.Fanさん
どうも、はじめまして。
狙いどころをストレートに褒めてもらえて、うれしいです。
今後もお互いがんばっていきましょう!
>kitchensinkさん
雪之丞と弓さんの関係というのが、今回の最重要テーマなんですけどね。
むずかしいです。力も入るし。
>MAGIふぁさん
副作用というのは、まったく考えてなかったです。書きたくなっちゃいますね。
とはいっても、これ以上話を広げるとパンクしそうだし。むう。 (Kita.Q)
- むう・・・美神が嫌な女に・・・w
まぁそれだけに次話での横島の反撃が際立つのでしょう。
そんな彼に期待しつつ一票。
でも横島だもんな・・・(遠い目) (NAVA)
- NAVAさん、コメントありがとうございます。
横島の反撃はいつになるだろう・・・。なかなか進まなくて。
それに、横島ですもんね・・・(僕も遠い目) (Kita.Q)
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