ザ・グレート・展開予測ショー

卒業(2)


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 3/11)

インターミッション
「あんだけ尽くしてやったのにな…」
 アパートの窓から、夕日の差し込む薄暗い部屋の中。
 呆けた顔で呟いた。
 悲しいが不思議と涙は出なかった。
 美神さんのくれた書類は、目の前に放り出したまま。
 いっそ捨ててしまおうかとも思ったが、どうしても、それだけはできなかった。

3.
「どうして横島さん、辞めさせちゃったんですか!?」
 おキヌが叫んだ。
「納得行く説明して欲しいでござる!!」
 シロは既に半分喧嘩腰だ。
「………………………………」
 何も云わないタマモの目が光る。
「もお! バイトが一人辞めたからって、どうしてここまで責められなきゃなんないのよ!!」
 美神は不機嫌だった。
 予想はしていたとは言え、三人が三人とも非難するとは思わなかった。

「横島クンはGSの研修期間を終えて、独り立ちすることになった。
 つまりね。これ以上ここにいても、あいつのためにならないって、ことなのよ」
「GSになったら正式に雇ってやるって、前から話してたじゃないですか!?」
 付き合いの長いおキヌは、その辺りの事情を目の当たりにしてきている。
 必死の形相のおキヌに、美神は何故だか嬉しくなる。
「確かに、そう言ったこともあったわね。
 でも、事情が変わってきちゃったのよ」
 美神が恥ずかしげに笑みを浮かべた。
 美神がもらした笑みに、おキヌは焦りを覚えた。
 ここでうなずくと、横島の退職を認めた恰好になってしまう。

「横島クンはあたしの思惑を超えて、かなりの能力を持つにいたったわ。
 当初は助手として使えるレベルに、なってくれればって思ってたけど、今はもうそんなレベルじゃない」
 いったん言葉を切って、三人を見回す。
 とまどったような笑みを浮かべるおキヌと、シロ。
 タマモは他の二人の様子を横目に、冷たい表情を崩していない。
「となると、あいつがどこまで伸びるか、見たくなるわけよ。師匠としてはね」
 美神がデスクに片肘を付いて三人を見上げた。
「あんた達はどう?」

「で、思い出して欲しいのが、××でやった除霊の時のことよ」
 肯定も否定もできない三人に、美神が切り出した。
「あん時のあいつ、どうだった?」
「どうって……」
 不審そうな顔をしながらも、おキヌ達は以前の仕事の時の、経過を思い出そうとする。
 あれは確か、美神、横島、おキヌとシロとタマモの三組で、妖獣を取り囲んで倒したんだった。

「シロが肩を切られたでしょ?
 そしたらあいつ、持ち場を離れてシロをかばったわね。
 お陰で、逃げられそうになって、余計に時間をとられちゃったわ」
「それは先生が拙者を心配してくれたからで、先生の責任では……」
 シロが肩に手をやった。完治しかけた肩の傷は、微かにピンク色の跡を残していた。
 それもいずれ消えてしまうだろう。

「あんたがあれくらいの傷で、あれに後れを取ったかしら?」
「……いや、大丈夫でござった。
 タマモがフォローしてくれてたし、おキヌ殿もいたでござるからな」
「そうね。あそこで余計なことをしたのは横島クンだわ」
「だからって、たったそれだけのことで辞めさせるなんてひどいです」
 身を乗り出すおキヌに、美神は悲しげに微笑んだ。
「それだけ? 冗談じゃないわ! GSとしての責任感無さすぎよ!
 ま、あたしがフォローするだろうってのが、頭にあるんだろうけど。
 その点を一人でじっくり考えてもらいたいのよね」

「それでヨコシマを辞めさせたって訳?
 じゃあ、なんでこんな急に辞めさせたの?」
 タマモが油断なく聞いてくる。
 途端に美神の表情が渋くなった。
「……言いたくなかったんだけど、仕方ないわね。
 あいつ、あたし達のこと、足手まといだと思ってるわよ」

「足手まといって……」
「嘘でござる!! 先生は優しいお方なのでござる!」
「……そうね。あいつは優しい。
 あいつは目の前で、誰かが傷つくのを見るのが我慢できないんだわ。
 きっと、あいつに聞いたら『ただ守りたかっただけ』そう答えるでしょうね。
 実際、頭の中ではそう思ってるでしょうし。
 でもね、どうして守りたいって言うの?
 私たちのことを自分より弱い存在として、あいつが見ていると言うことでしょう?」
「そんな……」
 三人が絶句する。

「でもさ、どうしてヨコシマに、その通り言ってやらないの?」
 だまされるものか。タマモの目がそう言っていた。
「言っても理解できないからよ」
「いくらヨコシマだって、そこまでバカじゃないでしょう?」
「どうかしら? あいつ底抜けのバカよ。
 みんなのためを思ってしたことが、どうして責められるのか理解できないんじゃないかしら」
 言いながら美神は寂しげな笑みを浮かべる。
 その様子があまりにも確信を持ってるように感じられて、タマモは内心ドキリとした。
「それにね、普通自分の内面を指摘されたら、誰でもこう言うわ。
 『お前に俺の何が分かる?』ってね。
 こういうことは、横島クンが自分で気が付かなくちゃダメなのよ」

「だからって辞めさせるのは酷いでござる」
 シロはしばらく考えた後でそう言った。
「横島クンを辞めさせないで彼の自覚を待つ、と言う選択肢は確かにあるわ。
 でも、その代わりに彼の好意を、拒絶しなきゃならなくなるわよ。
 それこそケンカしてでもね。
 彼にとって好意の行動が、私たちにとって迷惑だって、分かってもらえるまで。
 かなり辛いことになるけど、あんた達にその覚悟はある?」

「辞めさせたら、横島さんは分かってくれるんですか」
 長い沈黙の後で、おキヌは暗い気持ちで聞いた。
「いいえ、それだけじゃ無理ね」
「え?」
「頑張って、あいつがいなくても、やって行けるってトコを見せないと」
「???」
「これからコキ使うからね!
 しっかりしないと置いてくから、必死について来なさい!」

 ションボリと三人が部屋を出ていく。
「ちょっと刺激が強すぎたかしらね」
 美神が一人ごちた。

インターミッション
 ふと気になって、俺は報告書を読んでみた。
 美神さんが、俺のことをどう書いたのか、知りたかった。
 と言うよりも、何かしていないと不安だったからだ。
 表紙には『GS見習い横島忠夫の業務内容について』と書かれていた。
 いろんなことがあったよな。
 そんなことを思いながら、いつしか、オレは夢中になってそれを呼んでいた。
 だが見つけてしまった。
 『アシュタロス事件』
 そこから先はどうしても読めなかった。

4.
「思うに、美神さんの所が特別なんですわ」
 弓かおりは静かに言った。
「霊能者はみんなプライドが高い人達ですもの。
 ほとんどの人が個人事務所を構えて、一人で行動してますわね。
 大きな事務所に大勢GSを抱えてる人も、中にはいますわ。
 でも、結局は個人個人が別々に行動してますのよ。
 能力の劣る人達が、徒党を組むこともあります。
 だけど、チームで活動している所は、ほとんどありませんわ」
「だけど美神さんは……」
「そうね、だから特別」
 かおりは言いかけたおキヌを遮っていった。
「今までは奇跡的なバランスの上になり立っていたのね」

 飲みかけの紅茶はすっかり冷めてしまった。
 お気に入りの銘柄が台無しだ。
 すっかり気落ちしてしまったおキヌを前に、かおりはどこか醒めていた。
 おキヌの気持ちは家族を心配する、母親のそれに似ている。
 かおりは家から出たいと前から思っていた。
 家族の反対はあるだろうが、卒業後はそうするつもりだ。
 そのつもりが無ければ、GSになろうなどと最初から考えたりしない。
 かおりにとってGSになることは、自由を勝ち取るための手段だ。
 おキヌにとってGSになることは、美神の下で働くことだったのだろうか。
 日頃おキヌのノンビリした考え方を、うらやましく思っていたが、今日ばかりは気の毒に感じた。

「大丈夫だって、もう二度と会えないってワケじゃないんだろ?」
 魔理がおキヌの肩に手を回した。
「それはそうですけど……」
「元々他人同士のあんた達が、家族みたいに暮らしてるって方が不自然なんだよ」
 おキヌが蒼ざめる。
「不自然!? どうしてそんな酷いこと言うんですか!?」
 魔理の笑顔が凍りついた。
 助けを求めるおキヌの視線を、かおりは静かに受け止めた。
「……弓さんも、そう思ってるんですね?」
 魔理の手を振り払って、おキヌは立ち上がると、振り返らずに出ていってしまった。

「バカね。あんなこと言ったら怒るに決まってるでしょ」
 かおりはおキヌの姿を目で追いながら言った。
「氷室さんがどれだけ、事務所の人達を大切にしてるか。
 これだけ付き合ってて、分からなかったんですの?」
「アッチャ〜、まずったか」
 魔理が振り払われた手で頭を掻いた。
「氷室さんがどんな思いで、私たちに相談したか、察してご覧なさいな。
 決してあんなことは言えないはずですわ」

「だけどさ、大恋愛で結婚しておいて、成田空港で離婚する時代だぜ?
 家族の絆とか言うけど、なんか嘘っぽい気がスんだよな」
 魔理がうつむいたまま言った。
 かなり応えたのだろう。
 それでも、かおりはこのうかつな友人を、慰める気にはならなかった。
「それはあなたの家庭の事情でしょう?」
「なんだよ、あたしの家のことなんて、どうだっていいだろ!?」
 きっと顔を上げ、魔理がさけんだ。

「そのどうだっていいことを、あなたは美神令子除霊事務所に当てはめたんですわ。
 氷室さんにとって、あそこが家。一番大切にしている所ですのよ」
 かおりは静かに魔理を見やった。
 魔理の顔が曇っていく。
「そっか、バカだなあたし……」

「明日にでも、きちんと謝ってあげなさいな。きっと許してくれますわ。
 それじゃ私、用事があるのでこれで」
 立ち上がったかおりの手を、魔理が素早くつかんだ。
「3人分あたしに払えってか?」
「氷室さんを怒らせたペナルティーですわ」
 かおりはつかまれた手を引き離すと、魔理を置き去りに出ていってしまった。

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