ザ・グレート・展開予測ショー

さあ、どっち?(合流・2)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/10)

 横島と雪之丞の乗った車は東京を脱出し、北西方面に向けて走っている。
 
 『・・・無人のアパートを爆破した容疑で、警視庁は現在、横島忠夫容疑者(20)の行方を追っています。・・・繰り返してお伝えします・・・』

 カーラジオから聞こえてきたニュースを聞き、横島は苦笑を浮かべた。
 「おい横島よお、こりゃどういうこった」
 「美神さんだよ、アパートを無茶苦茶にしたのは。それを俺がやったことにして警察に通報して俺の行方を捜す、と。あの人もマジだな」
 「・・・お前、二十歳だったっけ?」
 「いや、まだだよ。このニュースは全部でたらめだ。人権侵害もいいトコだぞ。ふざけたマネしやがって・・・・・・」
 しかし、横島の表情は意外に穏やかだった。アパートが無人だったことに安心していたのである。
 (しかし、住んでいる人たちにとってはシャレにならないだろうな)
 
 ま、美神さんが後始末するだろう。今のあの人にとっての気がかりは、俺の行方だけだ。だから俺の今後の人生もお構いなしに、指名手配という手段に出た。・・・・・・・・・

 横島の救いは、もう一つあった。指名手配が横島ひとりである、ということである。
 つまり、自分が雪之丞と組んでいることを、まだ美神は知らない。
 
 美神さんもおかしなひとだ、と横島は思った。こんなことをすると、自分の事務所の評判も落ちるのだということがわからないのだろうか。すべての真実が明らかになったあとは、どう責任を取るつもりなんだろうか?

 いつものように、大金をバラまいて買収する?俺もか?
 他人はともかく、俺のココロは金じゃ買えないぜ。いや、マジで。

 それとも、これまたいつものように、怒鳴り倒せば済むと思っているのだろうか。
 今回ばかりは、そうはいかない。俺だって言いたいことはある。
 たとえ、問答無用でクビになるとしても、だ。
 
 『全世界を敵にまわしても・・・・・・!!』
 ああ、いってたっけなぁ、そんなこと。
 
 「なあ、雪之丞」
 「なんだよ」
 「最近の俺さ、こんなバカなことする美神さんがカワイイって思うようになったんだけど、やっぱりヘンかな?」
 「・・・そういうの、なんていうか、知ってるか?」
 「なんていうんだ?」
 「ヘンタイっていうんだよ」
 雪之丞は、笑って言った。ちょっとずつ元気が出てきたようだ。

 
 横島は雪之丞に、薬を飲んだあとのことについて手短に報告した。そして、いま自分が疑問に思っていることも話した。
 「俺が飲んだクスリはさ、十六歳以下にしか効かないって、あの変態ヤローは言ってただろ。それなのに、おキヌちゃんまでおかしなことになってる」
 「ああ・・・。俺も、おかしいなと思うことがある。ただ飲んだだけで、事実がまるで変わってしまっている。普通ありえないだろ?」
 「まずは、そこだな。ま、これから確かめればいいんだけどよ」


 二人のこの行動は、角野文章(かくの ふみあき)が持っている水晶玉に逐一映し出されている。
 角野はボディーガードのリーダーを呼び出した。
 「これから、あの二人組がここにくる。中には入れさせるな」
 「わかりました。しかし、我々だけで大丈夫でしょうか?あの二人は強いですよ」
 「この間は大丈夫だっただろ。あんな連中、きみたちの敵ではない」
 「あのときの二人は、オカマに気をとられていたから、我々でも押さえ込めたのです。今度はそうはいきませんよ」
 「ずいぶん弱気じゃないか」
 「というか、むしろ手遅れなんですよ・・・」
 ボディーガードは、ニヤリと笑った。
 「なんだ。なにがおかしい」
 「まだわかんねーのか?手遅れなんだよ」
 かすかなノイズ音とともに、ボディガードは横島に変化した。
 「お、お前は!?」
 「お久しぶり、大先生。お元気?」
 同時にドアが開き、雪之丞がのっそりと現れた。

 「ば、バカな・・・」
 水晶玉は、依然として車を走らせる横島と雪之丞を映し出している。
 横島は、指をパチンと鳴らした。すると、水晶玉の映像は消えてしまった。
 「こんなこともあろうかと、手を打っておいたのさ。これでな」
 角野は、横島の手の中の文珠を見て、苦い顔をした。
 「あのとき部屋から出る前に、文珠に『操』という字を込めて、あんたの机の裏に貼り付けておいたんだ。雪之丞と合流したとき、ようやく発動させたんだよ。ここに着いたのは五分前。“手強い”ボディーガードだったぜ」
 横島と雪之丞は、角野の向かいの椅子に腰を下ろした。

 「そうか。それで、私に何の用だ」
 横島は、手の中の文珠に『証』という文字を込め、テーブルの上に置いた。
 「これから、あんたにいろいろ質問する。ウソをつくと、この文珠が真っ赤に光る。沈黙もウソとみなす。正直に、誠実に答えてもらう」
 角野は、嘲りの表情を浮かべた。
 「私が、きみらに真実を言わなければならない義務があるのか?」
 「・・・あんた一ヶ月前、女子中学生をこの屋敷に連れ込んで、“いろんな”ことをしたそうだな」
 「・・・・・・・・・」
 黙りこんだ角野に、横島は目の前の文珠を指し示した。
 「三年ほど前から、コ○インをやってるそうだな・・・?」
 「・・・知っているのか」
 「だいたい、あのデビュー作自体、知り合いの作品パクったものだろ。まあ、そんなのに賞を与えるほうも与えるほうだけどな」
 「クソッ・・・・・・」
 「作家生命どころか、人生を終わらせてやってもいいんだぜ」

 横島は薄笑いを消し、角野をにらみつけた。
 「まずは、あのクスリについてだ。どういうふうに作られたものか、そこから説明してもらおうか」
 
 
 角野は語り始めた。
 白の錠剤の原料は、食虫植物ヒトサソイ。黒の錠剤の原料は、アディスの球根。どちらも、今は絶滅したはずの植物である。
 ヒトサソイは強烈な記憶操作作用を持つ。アディスの球根は思春期の女性に対する媚薬の原料として、中世ヨーロッパまで使われてきたものである。

 「白の錠剤は、飲んだ人間と、さらに飲んだ人間にもっとも深く関わりのある、家族を除いた同年代の異性の記憶・行動に影響を及ぼす。黒の錠剤は、ようするにロリコンの“ホレられ”薬だ」
 「じゃあ、なぜ十八歳のおキヌちゃんまで・・・」
 「彼女は、きみのことが好きなんだろ?そういう彼女が、モテるきみの様子を見て、どういう行動に出るかまでは、私も想像できない。それに、変わったのは彼女だけか?」
 机の上の文珠は、何の反応も見せない。どうやらウソではないらしい。

 「で、解毒剤かなにか、ないのか?」
 「白を飲んだ人間は黒を、黒を飲んだ人間は白を飲めばいい。ただし、すでに起こったことを、元に戻すことはできない。・・・横島君が指名手配されていることとかね」
 「・・・あー、そーですかい」
 文珠の様子が変わらないことを確かめた。大丈夫、本当のようだ。
 「じゃあ、その錠剤を出してもらおうか」
 角野は、机の引き出しから錠剤を出し、二人の前においた。
 そのとたん、机の上の文珠が激しく光りだした。
 「・・・なあセンセー、真面目にやろうぜ。真面目によ!」


 ようやく本物の錠剤を手に入れ、横島は立ち上がった。
 「それじゃあ、今までのお礼をさせてもらおうか!」
 横島は新しい文珠に『眠』の字を込め、角野に叩きつけた。完全に眠ったことを確かめ、
 「雪之丞、ガサ入れだ。俺とお前と、あと美神さんの事務所のことについて書かれた書類を捜せ!」
 「よっしゃ、わかった!」
 「あと、こいつの記憶を消さなきゃな。それと・・・」
 例の水晶玉を手に取り、横島はニヤリと笑った。
 「これも、慰謝料がわりにもらっとくか」
 

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