ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌの昔話(2)


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(03/ 3/ 9)



これはおキヌが語る、雪乃丞の前世のお話である。



「私…神様になり立てだった頃は、誰にも姿を見せられず、声も聞かせられなかったんです」

「まぁそうでしょうね。神様になったって言っても、エネルギーの源になるはずの地脈は死津喪比売の封印とかおキヌちゃんの体の維持とかに使われちゃってて、自由に出来なかったみたいだから…タダの幽霊みたいなものだもの。仕方ないわ」

美神が解説する。

オキヌの場合、地脈を扱う決定権が封印しているシステムの方が上だったので、イレギュラーで神様になったワンダーホーゲルと違って力を身に付けられなかったのだ。そしてタダの幽霊の場合、ジェームズ伝次郎のように特訓をしなければ普通の人に声も聞かせられない。そして伝次郎も声を聞かせる事は出来ても、姿を見せる事は出来なかった。

「そしてそのうち、知ってる人達…女華姫様とかも亡くなってしまって、色んな記憶も段々と曖昧になって…神様をやめちゃおうかなって考えてたんですよ」

「おキヌちゃん…」

悲しげに話すおキヌに心を痛める横島。口に出しては何も言わないが、その場にいる全員が同じ気持ちだった。

しかし、そこからコロッと調子を変えて話を進めるおキヌ。

「で、そんな時にですね。山の麓の村で袋叩きに合っている人がいたんです」

「え?…ひょっとしてソイツって…」

「まさか…」

ピンと来たシロタマが雪乃丞の方を見る。

「ええ、雪乃丞さんソックリの人でした♪名前も雪正(ゆきまさ)さんって言うんですよ」

あんまりと言えばあんまりな登場の仕方に、額に手を当ててうつむく雪乃丞。

「お前、前世でも碌な事してねーなー…」

自分の前世では手当たり次第に女性に夜這いを仕掛け、最後には魔族にも口説いた横島が自分の事を棚に上げて言った。

アンタもでしょ、とツッコミたいが、それで自分の前世が魔族だと口外されるとヤバいので、ガマンする美神。

「まだそうだと決まったわけじゃねぇだろ…何でソイツは砂にされてたんだ?」

とある方面の専門用語を使っておキヌに話を振る雪乃丞。ちなみに≪砂にする=袋叩きにする≫である。

そして、何故か専門用語を理解して話を続けるおキヌ。

「村の人達が殴りながら言ってたんですけど…食べ物を盗んだらしいです…」

…今と変わらないじゃん…

一同の思いが一つになって、白い目となり雪乃丞を打つ。

「ぐ…で、でも今と時代が違うだろ?多分飢え死にしそうで仕方がなくとかだよな?」

白い目から逃れようと言い訳を探す雪乃丞。

しかし、それの望みはあっさり断たれる。

「いえ…これは後から聞いたんですけど…旅に出るのにお金が無いから、盗んで調達しようとしたらしいです…」

再び、一同の思いが(以下略)。

「う……っだー!俺を見るな!それは俺じゃねぇ!百歩譲っても前世の事だろ!知らねぇよンな事ぁ!!」

見事な逆ギレをかます雪乃丞。

「あはは…それでですね、雪正さんって氷室神社の人間で、私ちょっとだけ知ってた人だったんですよ」

愛想笑いでそれをかわして、話を進めるおキヌ。

「ああ…よく考えたらあそこに奉ってある神様っておキヌちゃんだもんね…」

氷室とは、冬に作った氷を夏まで貯めておく為の部屋や穴の事。そして氷室神社の地下にあった洞窟の奥、呪術で作られた氷の中にあったのは…おキヌの体だった。文字通り御神体と言えよう。

「ええ。その頃はちょくちょく様子を見に行ってたんですよ。まだ誰にも気付いてもらえませんでしたけどね」

そして逆に姿が見えるようになった時、何もご利益を授けられない為、逆に神社に顔を出せなくなったのはおキヌだけの秘密である。姿が見えなくて、何もしてくれない神でも信仰の対象にはなるが、姿が見えて何も出来ない神は流石に信仰の対象にはなりにくいだろう…



「で、食べ物を盗んだからとはいえ袋叩きにされてるのが知っている人だったんで、助けようと思ったんです」

ここで雪乃丞が口を挟んだ。

「どうやってだよ?その時アンタは何も出来なかったんじゃねぇのかよ?」

どうやら、自分の前世(らしき)人物が散々に言われているのが気に入らないらしく、不機嫌なようだ。

「ええ。でも放って置けなかったから…だから、必死で声をかけたんです。やめて下さーい!って。そうしたら、村の人達にもちゃんと声が届いたんです!」

「必死の思いが奇跡を起こす…いい話でござるな」

「違うわよ、シロ。ただ単にそういう念のこもった声は幽霊の声でも普通の人に聞こえるってだけよ」

素直に感動するシロと、そういう話が嫌いなので、きっちり解説する美神。

そして話を再開するおキヌ。

「それで、一応その場は収まったんですけど…誰の声だって事になって、でも私の声だから、誰だか見つからないじゃないですか」

「そりゃそうだわな」

合いの手を入れる横島。

「それで誰が言い出したのか、幽霊の仕業って事になって…」

「一応、当たってはいるわね」

とタマモ。

「で、何故か…雪正さんが神社の息子って事で…何かしたなこの野郎って結論が出て…袋叩きが再開しちゃったんですよね♪テヘッ♪」

「…ダメだろ、それじゃあ…」

なげやりにツッコむ雪乃丞。

「でも、そのお陰で雪正さんは霊能力に目覚めたんですよ?」

「へ?どうしてでござるか?」

すっかり話に引き込まれているシロが聞く。

「一人の男の人が天秤棒を持ち出してきて、雪正さんを思いっきり殴ったんですよ。それが後頭部にくりーんひっとして…」

「ま、まさかそれで?」

呆れたように美神が言った。

「ええ。その一撃で雪正さんが倒れてピクピク痙攣するのを見て、村の人達が「お前…それはやりすぎじゃあ…」とか「大丈夫だろう…多分」とか言った後「この位で勘弁してやろう」って言って誰もいなくなったんですけど、その後しばらくしてから起き上がった雪正さんは、私が見えたんですよ!」

「そ、そう…」

ツッコミを入れようかどうしようかで悩みつつ、頷く美神。

「それで声も聞こえたんで、私、死んでから初めてまともに会話できたんです!凄く嬉しかったんですよ!」

「そう…良かったわね…」

どこぞのアニメのセリフのような事を言うしかないタマモ。

嬉しかったんだろうが…良かったのか?ソレ…

そこにいるおキヌ以外の全員はそう思った。

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