ザ・グレート・展開予測ショー

黒シロ ー偶発ー


投稿者名:AS
投稿日時:(03/ 3/ 8)

美神は不機嫌だった。

(全くもう…もうすぐママと待ち合わせの時間なのにっ…!)

ブツブツ…そう不機嫌さを心中で吐き捨てるかのように、しかしそれをおくびにも出さずに、美神令子は街を歩いていた。
時々すれ違う者は皆、彼女のボディコン姿にはっと目を惹かれはするものの……同時に、まさに『美神』の如き微笑みの表情から、微かに漏れ出す圧倒的な不機嫌さに気が付いて、一様にさっと目線をそらす。
そんな周囲の戸惑いと、奇異を見るかのような眼差しに、彼女も当然気が付いてはいるものの…表面上においてはやはり笑顔のポーカーフェイスを続けていた。 以前と違って、周囲にまで歪んだ面を見せないのは、彼女なりの成長と言えるのかもしれない。
(確かに様子はおかしかったけど。 別に私が何かしたわけでもないでしょ〜に…)

事務所からシロが姿を消して、すぐのこと。
最初にリアクションを起こしたのは、もっとも真っ当にシロを気遣っていた黒髪の少女…氷室キヌであった。
『た、大変!』
普段の彼女らしからぬ、切羽詰まった声に、皆が驚く間も与えずにおキヌはまくしたてる。
『さ、探しにいきましょう! 思い悩むシロちゃんが、その時だけスーツ姿のヤクザさんとかに連れてかれたりしたら…な、なんだかのお薬で眠らされて…それで…服を…』
珍しくもあるハイテンションな故か…やはり彼女らしからぬ穏やかならぬ発現に、美神がそれをあわてて制する。
『ストップ、スト〜ップ! いい子だからあんまり妙な知識には染まらないで、ね…!』
美神の剣幕に、自分が何を言いかけたのかを自覚したおキヌが、頬を朱に染める。
しばし居心地の悪い沈黙。 それを破ったのは、シロと同じ犬科としてコンビを組む、タマモという少女であった。
『とりあえず、やっぱ探しには行ったほうがいいんじゃないの?』
そこでようやく、普通な応対案が出たところで…。
『わ、私は行かないわよ! ま、まだ寒いし、それに…!』
手元の携帯に目を落とし、そしてそれを握りしめたまま、渋る美神の説得にさらに時間が費やされたのは…言うまでもなかった。

勿論。
彼女とてまがりなりにも、かろうじて人の子だ。 たとえ前世が魔族であろうと、絶対の危地においても執念のみで『生』を繋いだりしてしぶとく生き残っていようと…それでも彼女がごく『正常な人間』であることだけは間違いない! …筈なのだ。
そして、そうである以上…自身もよく知っている、平時は快活である筈の少女の様子がおかしいとなれば、彼女とて気にせざるを得ない。案じずにいられるわけがない。
それでも彼女には、こうしてシロを探しに出た今でも、後ろ髪を引かれる思いは消せないままであった。
「何もこんな…今日でなくたって…」
それも仕方ない。 彼女、美神令子がこの世で唯一と言っていいほど、素直に自分を出せる存在…母親…美神美智恵とのめったに取れない息抜きの時間は、何事にも代え難い大切な時間なのだ。
その時間を割くことになるのは、彼女としてはかなりの痛恨である。 もし事務所のメンバーがそのことを知っていれば、美神がシロ探しに出かけるのは引き留めたであろうが、美神の性格からして『ママとお買い物にいきたいの!』などと言えようはずもなかった。
美神が内面に抱える不機嫌さは、やがて憂鬱な心地へと変化して行き…そっと溜息として零れる。
そこで…美神の耳に、携帯の着信メロディが届いた。

シロが嗅ぎ取った匂いは、人のゴミゴミした大通りよりも先…買い物を終えて帰路につく、黒猫を肩に乗せた女性の抱える袋からのものだった。
「あ…」
ぼうっ…とした声が、シロの唇から知らず知らず零れる。
それに気がついたのか…買い物袋を抱えた女性も、黒猫も振り返ると、やがて同じように「あら…?」と、呟いた。
「あなた…シロちゃん?」
目の前の女性が、自分の名前を口に出すが、シロも驚きはしない。
知っている女性だ。 その名前を出すと自分の努める事務所の所長…美神令子が不機嫌になる名をもつ女性の一人。
確か…魔鈴めぐみ。
「今日はどうしたの? シロちゃん一人でお散歩?」
知っているというだけではない、親しい口調で魔鈴がシロに声をかける。
常日頃から…シロが横島と連れ添って行く『散歩』の途中…横島がどうしてもこちらから行こうと、散歩のコース変更を強固に提示してきた頃があった。
その提示したいくつかの散歩のコースにはどれにも…ちょうど魔鈴がかまえるレストランが中間地点に在った。
かくして…シロにとっては、レストランからのいい匂いが鼻腔をくすぐり尻尾を引き留めて。 横島にとっても、魔鈴と談笑できる機会となって、魔鈴の手料理をふるまわれるシロ共々、しばらくは固定の散歩コースとなったのだ。
魔鈴もシロをとても可愛がり…(この間使い魔の黒猫は終始不機嫌ではあったものの)それ以外は皆にとって楽しい時期であった。
その楽しい散歩も、非番の時にちょうど店を訪れたGメン捜査官、西条輝彦の美神へのチクリによって終焉を余儀なくされたのだが、シロだけは時折、魔鈴のお店に通ったりもしていた。
「……」
「? シロちゃん、何かあったの?」
いつもの…魔鈴の知るシロと明らかに様子の違うことに気がつくと、魔鈴は少しの間思案する素振りを見せた。
やがて、シロの手をとり、ぐいぐい引っ張って歩き出す。
「ま、魔鈴殿…?」
いきなり強引に引っ張っていかれてるというのに、シロの反応はやはり芳しくなかった。 魔鈴もいよいよ顔をしかめる。
やがて人気のない路地裏にシロを連れ込むと…魔鈴は何らかの魔法円を両の掌で描いた。
「何があったか知らないけれど…」
そこで言葉を中断して、魔鈴がポン! と箒を出現させる。
「少し気晴らしに一緒にお買い物行きましょか。 ついでに何か、シロちゃんが気にいったもの選んでもいいし」
「そ、そんな…どこに行くんでござるか?」
シロがそう行った時には、魔鈴は箒にまたがって宙に浮かんでいた。 再びシロの手をとり、グイと引き寄せる。

「厄珍さんのお店です」

魔鈴がそう言って、シロを箒の後ろに乗せて空高く舞い上がったーーその少し前。


「お? …来たアルね!」
いかにも怪しい中国語混じりの日本語で、厄珍堂の店主、厄珍は店の外からの大型バイクの排気音に、目を輝かせた。
程なくして…。
「厄珍さん、いらっしゃるかしら?」
オカルト用品売りの大御所である、厄珍にとっても大物…日本のゴーストスイーパー業界トップの実力を誇る娘を持ち、自らも日本Gメン支部の重鎮である女性。 美神美智恵の来訪に、厄珍は高揚感を覚えていた。
「いくらむしりとれるアルかな〜♪」
これから嫌というほど値切られて、泣きを見るとは露ほども知らずに…厄珍は小躍りして『強敵すぎる』客を出迎えた……。

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