ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−36


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 3/ 8)






――――魔界、ユーチャリス城別館。




「ねぇ?小竜姫。
 教えてよ。
 ルシオラってどんな奴だったの?」

「ルシオラさん……ですか。
 タマモちゃんは知らないんでしたね」

そう呟いてほろ苦い表情をする小竜姫。
ルシオラの取った行動はひどく少女漫画的で……青臭いけれど、少女なら一度は夢想するような、そんな最期。
目の前の少女はそれを聞いたらどんな風に思うのだろう。

「ほら、小竜姫もそんな顔」

「はい?」

「美神さんも、横島も、おキヌちゃんも。
 ルシオラのことを聞くとみ〜んな苦い顔するのよね」

「………長くて、辛くて、悲しい………そんな話だからですよ」

「構わないわよ。
 折角ここまで来たのにパピリオだけ連れてっちゃってさ。
 私達はここで待機。
 油揚げの一つも用意しろっての」

グチグチ続けるタマモの様子に微笑みながら思う。


――――このくらいマイペースじゃないと、気持ちが持たないかも知れない。



「それはさておき、横島さん、元気そうで良かった………」

「………そうね。
 私達が顔を見せたら吃驚してたっけ?」

「ええ、いつも通りの横島さんでしたね」

クスッ

二人同時に含み笑い。
それがおかしくて更に大笑い。

横島の性格に劇的な変化は見られなかった。
それなら希望はある。

魔界という未知の土地で、初めて緊張が解れた瞬間だった。













その城は緊張に包まれていた。
ほんの小さな音一つが、遠くまで響く。
衣擦れの音一つが、他人の注意を引く。
そんな静寂と緊張に包まれた城ユーチャリス。
その緊張感を生み出しているであろう城の主は、既に1時間近く自室に篭っている。
ワルキューレ、ジーク、ベスパ、パピリオ、メドーサといった、主だった者は全員その部屋の前で待機していた。

『………………』

一様に無言のメンバー。
と、そこにデミアンが姿を現す。

「何が始まったんだ?
 一仕事して帰って来たら、この城の異様な雰囲気。
 誰か説明してくれ」

「横島がルシオラ復活に挑戦してるのさ」

メドーサが応じた。
他の者は視線を向けようともしないし、デミアンもそれを気にした様子もない。
同じ者を主と仰ぐメンバーだが、やはり仲の良し悪しは生じる。
ワルキューレとジーク、ベスパとパピリオ、メドーサとデミアン。
そんな組み合わせで行動するのが、当たり前となっていた。

「で、お前の仕事は上手くいったのか?」

「フン、言われた仕事はこなすさ。
 他の魔神達は激怒してたぞ?
 新参者が古参の自分達をパシらせるつもりかとな」

「だが逆らえない………だろ?
 何せ、あの方達のお墨付きだからねぇ」

ニヤリとするメドーサとデミアン。
元々、現体制に不満があってアシュタロス派に属していた二人だ。
新参者(ここが重要)の横島の名の元、堂々と虚仮にしてやれるのは気分の良いものだ。

「で、ルシオラ復活は上手く行きそうなのか?」

そこで初めてワルキューレが口を挟む。

「すでに1時間近く経過している。
 だが一向に終る気配はない。
 ある程度力の持った眷属を作るのにかかる時間は、精々10分程度。
 それを考えれば絶望的だな」


ギリッ

ベスパが歯を食いしばる。
何度も胸の内をよぎった不安。
それを他人に指摘されれば、さらに増すものだ。

「ベスパちゃん…………」

そっとベスパの手を握るパピリオ。

「………そうだな。
 例え絶望的でも、横島はまだ諦めていない。
 信じよう………。
 信じて待とう。例え何時間でも………」





そんな二人の様子を内心せせら笑いながら、デミアンはリリスとの会話を思い出していた………。










「では、横島の目的は人界侵攻ではないと言うの?」

リリスの居城スカーレットを訪れたデミアンは、公務を兼ねることで、堂々とリリスに会っていた。
むろん、横島の情報をリリスに伝えるためである。

「はい。俺やメドーサに隠していることが確実にあります。
 ユーチャリスの最深部で何かの準備をしているようです。
 ドグラ・マグラがその準備を担当しているようで。
 最初の顔合わせ以来、そこに篭りっきりの様子です。
 ワルキューレやジークは何か知っているようなんですが………」

「横島の人界侵攻を『あの方達』は承認している。
 いえ、承認どころか援助している。
 恐らくはそこに理由があるのでしょうね………」

「俺もそう思いますがね。
 そこに入れるのは、横島本人とドグラ・マグラ、それにジークとワルキューレだけのようです。
 一度忍び込もうとしたら、危うく亜空間に飛ばされて戻れなくなるところでした」

「亜空間迷宮で完全な防御か………メドーサと組んで、何としてでもそれを探りなさい」

そこで表情を曇らせるデミアン。

「何か問題でも?」

「………メドーサの様子がおかしいんですよ」

「どういうこと?」

「俺にも分かりません。
 ですが、かなり横島に協力的なんです」

「仮にも部下なのだから当然でしょう?
 深い情報を手に入れるためにも、信用を得ようとしているのではなくて?」

「違和感があるんですよ。
 アイツは横島を小馬鹿にしていた。
 でも最近はそれを感じられないんです。
 それにアイツも何か隠しているような気がする………」




少し考え込んだ後、リリスはメドーサの監視もデミアンに命じることとなる。








――――オカルトGメン内美智恵専用執務室


膨大な量のレポートを読破しつつ、疑問点をピックアップ。
更なる情報収集を命じる傍ら、西条や令子と今後についてディスカッション。
いい加減、嫌になってきた所へ珍しい客が訪れた。


「お久しぶり……というのには、少し早いわね。
 何かあったのかしら?」

対面する神族の女性――ヒャクメ――に何か新しい情報でもあるのかと期待を寄せる美智恵。

「美智恵さんにはお世話になったのねー。
 だからお別れする前に情報提供しておくのねー」

「お別れ?」

「私、神界に戻ることになったのねー。
 人間に対して感情を持ちすぎると、公正な情報分析が不可能になるってのが理由なのねー」

「そう………」

「人間全部が悪いとは言わないのねー。
 でも、人間の悪いところばかり見すぎたのねー」

「気持ちは分かるわ。
 同じ人間であることが恥ずかしくなること………あるもの………」

ヒャクメは比較的、人間に好意的な神族に分類されていた。
性格も温厚であり、トラブルメーカーなところはあるが、愛すべき神族であった。
そんな彼女に見放される時が来ようとは……。
内心に暗鬱たる気分を抱えながらも、聞きだせることは聞き出す。
そう決めて、美智恵は提供してくれるという情報を尋ねた。

「まず第一に、小竜姫とタマモちゃんは横島君のところに行ったのねー」

「あの二人が?」

「そうなのねー。
 パピリオが横島君に呼ばれてて、それに付いて行ったのねー」

「そう………令子にも連絡入れないとね」

「第二に、横島君の人界侵攻は魔界の最高指導者達の承認の元で行われるのねー」

「な?!デタントの崩壊に繋がる行為よ?!
 どうしてそんなことに………?」

「一切の説明は無いのねー。
 神界の最高指導者達は黙認の方向なのねー」

――――嗚呼………人は本格的に神に見捨てられたのか。

絶望的な気分に陥る美智恵だが、続くヒャクメの一言で気を取り直す。

「でも神界上層部はそれを黙認するつもりはないのねー。
 とりあえずは、人界への駐留所にかなりの神族を派遣したのねー。
 神界の最高指導者達は、邪魔しちゃ駄目なんて言ってないのねー」

「それは朗報だわ」

「そしてこれが最後ねー。
 あの研究所を飲み込んだ黒い球体。
 調べたら魔界と神界へ繋がっているのねー。
 でも、既に神界への道は塞がれてたのねー」

「………つまり、魔界の侵攻軍はそこから来ると?」

「責任は取れないのねー」

「大規模な人員を派遣するには、あのくらいの大きさのルートが必要か………」

「それと一つ疑問があるのねー」

「何かしら?」

「あの黒い球形………私達は『ゲート』と呼んでるそれが発生した時、大きさは半径10kmくらいだったのねー。
 でも今は半径5kmくらいになってるのねー」

言いながら掌の上で立体映像を作り出すヒャクメ。
最初は大きめの黒い球体が表示され、直後に半分のサイズの球体へ変わる。
これ便利ね。内心でそう呟きつつ、美智恵は自分の見解を示す。

「それは私達も観測しています。
 時空間を歪める穴が、不安定状態から安定状態になった。
 その最も適したサイズに落ち着いた。
 それだけでは?」

「多分、報告書に穴があるのねー。
 私達の観測では、半径10kmの状態でも安定してたのねー。
 でもある日突然に5kmに縮んだのねー」

「さっきも言いましたけど、時空間を歪める穴だから何があってもおかしくないと思うのだけれど?」

「それもそうだけど、私達は魔界の干渉があったと予想してるのねー」

「理由は?」

「神界への通り道が塞がれると同時に縮んだことなのねー」

「偶然………と呼ぶのは難しいか………」

沈黙が二人の間に漂う。
これも魔界の、横島忠夫の仕掛けなのか?
全くもって、異世界の存在となった彼の思考を読むのは難しい。

「それじゃ………もう行くのねー。
 元気でねー」

「ええ、貴重な情報をありがとう。
 助かったわ。
 そしてさようなら、良き友人よ。
 いつでも会いに来てね?」

言われたヒャクメは、ちょっとだけ照れたようにはにかんで姿を消した。



残された美智恵はいよいよ決戦の空気を感じて身震いする。
齎される情報は不利なものばかりだ。

何より敵はあの横島忠夫なのだ。
本気で彼と戦える者がどれだけいるのか…………。







「情報不足に準備不足。
 その上、人材不足の戦力不足か。
 このままでは………負けるわね」




彼女は呟いた。






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