さあ、どっち?(合流・1)
投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/ 7)
かいがいしく朝食を作るおキヌの後姿を、横島はやりきれない気持ちで眺めていた。
ふと、窓の外を見る。あの角の曲がり角に、
(・・・いるなぁ)
シロとタマモが、こっちを監視していた。
「さあ横島さん、朝ごはんにしましょう」
部屋は手早く片付けられ、ちゃぶ台の上には炊き立てのご飯、味噌汁、ベーコンエッグが湯気と美味そうなにおいを立てていた。
おキヌは、すでに制服に着替えている。横島はパジャマのままである。
彼女には悪いが、味のわからない朝食だった。不味い、というのではない。
「なあ、おキヌちゃん・・・」
「はい?」
「まさか、このまま同棲する気じゃないだろうな」
「・・・・・・・・・」
「マズイだろ。おキヌちゃんは、まだ学生なんだぜ。もっと、こう・・・」
「なんか、意外なセリフですね」
「意外なもんか。心配してるんじゃないか」
クスクス笑うおキヌを見て、横島は苦々しい気持ちになった。
(しっかり者で、頭のいいコだと思っていたんだが)
案外、走り出すと止まらないタイプなのかもしれない、と横島は思った。
(しかし、これはフェアじゃない)
横島には疑問があった。あの錠剤は、十六歳以下にしか効かない、と角野は言っていた。どうして高校三年生のおキヌが、こんなことになっているのか。
(素人が作った薬だからか。しかし、それにしては、効き目がシャレになってない)
雪之丞のことも気になる。自殺なんかされては、夢見がわるい。
(一度、会ってみるか)
後片付けを済ませ、最後の身じたくをするおキヌに、横島は言った。
「二、三日ぐらい出かける。だから、おキヌちゃんは事務所に帰ってくれ」
「出かけるって、どこへです?」
「・・・いいだろ、どこだって」
「いけませんよ、横島さん」
おキヌは、困ったような笑顔を浮かべた。
「最近よく事務所を休みますよね。何をしてるんです?」
横島は答えに詰まった。
「まあ、・・・いろいろさ」
「・・・最近、週に一度は、魔鈴さんのお店でお食事してますよね?」
「・・・・・・・・・」
横島は、何かいいたかった。しかし、言葉は出なかった。
「月に一度は、用もないのに妙神山に行って、小竜姫さまやパピリオちゃんと、お茶してるそうですね?」
「・・・・・・・・・」
「あの二人も事件がなくてヒマだし、まんざらでもないそうですね」
「いや、ちょっと聞いてくれ・・・」
「わかります、横島さんの言いたいことは。・・・俺が何しようと、俺の勝手だろ。いちいち世話女房気取りで詮索するな」
「違う!違うよ!違うんだ!」
横島は必死になった。
「俺は、ただ・・・」
とたんに、おキヌは血相を変えて、近くにあった横島のヘアスプレーをつかみ、横島に向かって投げつけた。
「少しは、私の気持ちも考えてよ!!」
おキヌは自分の通学カバンをつかむと、乱暴な音を立ててドアを開け、出て行ってしまった。
(こうなったら、全部、事務所のみんなに話すしかない)
横島は決意を固めた。しかしそれは、今回のケリをつけてから、だ。
彼は事務所に電話をかけた。美神は出社しているだろうか。
はたして、電話はつながった。
「もしもし。あ、美神さん、おはようございます。さっそくすみませんが、二、三日休ませてもらいます。・・・え?ふざけんな?俺は真剣ですよ。・・・彼女は学校に行きましたよ。・・・いや、彼女っておキヌちゃんのことです。・・・いや、俺は何もしてませんって。・・・今すぐ行くって、俺の家にですか?・・・ブッ殺すって、美神さん落ち着いてくださいよ。・・・問答無用?・・・とにかく、後で事情は説明しますから。それじゃ、失礼します」
横島は電話を切ると、すばやく身じたくを済ませ、文珠を二つ出現させて、それぞれ文字を込めた。玄関を飛び出し、駅に向かって走る。
「いまだ!!」
タマモは角から走り出た人間に投網を投げた。
「かかった!!」
上空から飛び降りたシロが、すばやく獲物を確保する。
「いやーっ!なんなの、いったい!?」
「あれ、このひとは・・・?」
なぜか、罠にかかったのは小鳩である。
「もう!あなたたち、どういうつもりなの!?」
「いや、すまんでござる。てっきり横島先生かと・・・」
「横島さん?・・・どうして横島さんをつかまえようとするの!?」
「いや、その・・・とにかく面目ない」
「ごめんなさい」
シロとタマモは釈然としないまま、小鳩に頭を下げた。
「・・・あ、やだ!遅刻しちゃう!!」
小鳩は二人を置き去りにして走り出した。しばらく走り、二人が視界から消えたのを確認した後、ニヤリと笑った。
(霊能とは関係ないけど、やっぱり役にたつぜ)
元の姿に戻った横島の手の中の文珠には、それぞれ『変』『身』の文字が込められている。
横島が駅に向かってスタスタ歩き出したとたん、背後からすさまじい爆発音が鳴り響き、おもわず横島は振り返った。
アパートがあったところから、黒々とした煙が立ち昇っている。
「出て来い、横島ァ!!この(自主規制)が!!今日がアンタの命日よ!!アンタを今まで生かしておいたことが、私の一生の不覚だったわ!!」
美神のカン高い声に続いて、マシンガンを打ち鳴らす音が聞こえた。
「最近あやしいと思ってたけど、とうとうやってくれたじゃないの!!私はおキヌちゃんの親御さんに、なんておわびすればいいの!?アンタの首なんぞ、何千万個あっても、とても足りゃしないわよ!!」
(こりゃいかん!!)
横島はあわてて現場から逃げ出した。その背後から、二度目の爆発音が起こった。
「・・・いいコだから出てらっしゃい!!今なら細切れにして、ブタのエサにするだけで勘弁してあげるわよ!!古代中国風に、車裂きで公開処刑されるよりマシでしょ!?全世界を敵に回したって、私はやるといったらやってみせるわ!!これ以上、私を怒らせるんじゃないわよ!!」
「あーあ。えらいことになったわねぇ」
「美神どの、本気でござるな・・・」
シロとタマモは離れた場所から、美神の暴れる様子を見守っていた。
「こりゃ、ほとぼりが冷めるまで潜伏した方がよさそうね」
「おい、そりゃ無責任じゃござらんか?」
「そりゃそうだけどさ。実際、今の美神さんとは話をするどころじゃないでしょう?」
「うーん・・・しかし、拙者も武士として・・・」
「退くも勇気よ。不謹慎だけど、今の美神さんなら戦争も辞さないと思うわよ」
「というか、もう戦争状態でござる・・・」
横島は息が切れるまで走り続け、ようやく駅前広場にたどりついた。電話ボックスを見つけ出し、雪之丞の携帯電話の番号をダイヤルする。
「雪之丞か?俺だ、横島だよ。いま駅前にいる。迎えに来てくれ、追われてるんだ。・・・なに、もうどうでもいい?とにかく話したいこともあるし、頼む、お願いだから来てくれ、後生だから!」
今までの
コメント:
- すこし、設定の補足なんぞを。
・横島は十九歳。高校を卒業し、事務所でバイト、相変わらず薄給です。
・おキヌちゃんは高校三年生。「黒く」はないです。ええ。
・美神さんは・・・どうでもいいや。(これこれ)
これを読んで、激怒するか、鼻で笑うか、手をたたいて喜ぶか、僕は皆さんの反応が怖いです。まあ、黙殺という手もありますがね(遠い目)。 (Kita.Q)
- 雪之丞と横島クンが再び合流できる前に、両方とも殺されてそうな雰囲気なのが心配ですね(笑)。ただ、横島クンの飲んだ例の錠剤がどうやら16歳以下の女性以外にも効力を発揮してるみたいである点が気にかかります。おキヌちゃんの話からするといろ〜んな女性と仲良くしてるみたいですし。横島クンに関しては何の躊躇もなく本当に殺しかねない令子の様子が「らしい」と思いました。次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 親愛なるKita_Q様へ。
誰しもが一度は通る道だと、veldお兄さん、思います。というよりも、お兄さん、一回最悪な道を通ったことありますから。ええ、黒よりもある意味最悪です。最低です。私の通った道は。
おキヌちゃんとの同棲ですか・・・。いいなぁ。(違)
何か、おキヌちゃんが少し跳んでるような・・・。
「世話女房」「少しは私の気持ちも考えてよ」
・・・酔ってますな・・・。横島さんの奥さん・・・って感じで。
きっと、彼女の頭の中では、好意を持っている浮気癖のある友達以上恋人未満やや恋人寄りの幼馴染の彼―――横島クンとのシチュエーションは出来上がっているのでしょうね・・・。昼メロみたいです。いや、見たことないんですけどね。昼メロ。
戦争・・・反対。 (veld)
- おお・・・令子が凄いw
色んな意味で凄いw
妬いてるのかなぁと邪推するのを通り過ぎて凄いw
おキヌより令子が気になったNAVAでした。
P.S.あの・・・541番のコメント欄の件ですけど、誤解があると困るので私のコメント読んでくれると助かるんですが^^; (NAVA)
- kitchensinkさん、veldさん、NAVAさん、コメントありがとうございます。
>kitchensinkさん
なんというか、試行錯誤が多いというか。
いちど、マジ切れした美神さんを書きたかったんです。
>veldさん
登場人物たちには、考える時間をあげたいですね。
・・・僕も昼ドラは見たことないです。真○夫人、見たかったなぁ・・・。 (Kita.Q)
- >NAVAさん
ええ、コメント見ましたよ。かえってお手数かけちゃいましたね(ペコリ)。
正直この美神さん、書いてて楽しかったです(笑)
でも、まだやれる。やれますよ。ビッシビシ行くぞ!なんて思いますです。 (Kita.Q)
- 嗚呼!女の嫉妬ここに極まれり。
女のヒスは古今東西、世の東西問わずじゃよ。
(なんとなくカオス風) (トンプソン)
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