ザ・グレート・展開予測ショー

KINKIステーション悪霊事件 ―2―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 3/ 7)

「よーしオーケー!」
「はい、オーケーで〜す!」
「それじゃあ、ここで15分の休憩に入ります。」

KINKIステーションはリハーサルを終え、公開録画が行われている最中である。
今は最初のトークコーナーが終了して、最初の休憩の時間だ。

「ほー・・・やっぱり凄いもんだなぁ・・・」

まだ出番の来ない横島は、セットの裏側で待機しつつ収録の様子を眺めている。

「皆さんの出番はこの休憩の後になります。こちらで指示したら順番に出て行ってください。」

そのスペースには、芸能人達のそれぞれの幼馴染が揃っていた。
上は40歳ちょっとくらいのおじさんから、下は制服姿の女子高生まで合計7人が今まで一緒に出番を待っている。

「すいませ〜ん♪」
「はい?」

と、女子高生の3人組が横島に声をかけて来た。

「近畿君の幼馴染なんですよね?」
「近畿君って普段はどんな事してるんですか?」

この3人組は、シャインの幼馴染達である。全員同じ制服を着た高校生だった。

「銀・・・近畿君の普段って言ってもな・・・・・・俺らって頻繁に会ってる訳でもないんだよね。君たちは普段から良く会ってるの?」

答えることに困った横島が逆に聞く。

「そうですね〜♪」
「私たちって〜・・・それぞれは小学生の時からの幼馴染なんですけど、高校に入ってから知り合ったんですよ〜♪」
「それ以来すっかり仲良くなっちゃって・・・」
「ね〜♪」

女の子たちのマシンガントークが始まる。

「あ、そう言えば自己紹介してなかったですよね?私は朝井ミユ(あさい みゆ)の幼馴染で斎藤えり子(さいとう えりこ)って言います。」
「私は井上椿(いのうえ つばき)の幼馴染で中村由紀(なかむら ゆき)で〜す♪」
「上田翔子(うえだ しょうこ)の幼馴染、金子弘子(かねこ ひろこ)!宜しく♪」

一方的に話しまくって・・・

―― なんだかな〜 ――

横島はなんだか、自分が歳を取った気分を味わっていた。
自分が高校生だったのはまだ1年前の話だというのに、目の前の3人からは若さを感じるということはいささか複雑な思いである。

「それでそれで!近畿君ってやっぱり普段から格好良いですか?」
「家では自炊してるんですよね?」
「そういえばこの間・・・」

以後、横島が全然知らない銀一の私生活が語られていった。
それを聞くたびに、やっぱり銀一がスターだということを思い知らされる。

「やあ、君は学生かい?」

そこに、もう2人が会話に入ってきた。横島以外の2人の男性陣。

「俺は階戸啓二(しなと けいじ)、秋田亮(あきた りょう)の幼馴染だ。」
「私は馬場篤(ばば あつし)と言います。原寛一(はら かんいち)の幼馴染です。宜しく。」

馬場と名乗る45歳くらいの男性が差し出した右手につられて、横島も右手を出して挨拶を返す。

「あ、どうもご丁寧に。俺は横島忠夫って言います。近畿剛一の幼馴染ってことで来てます。こちらこそ宜しく。」

秋田亮は24歳のロックミュージシャンで、女性は勿論、男性にも人気が高い。尚、この間出した新曲は現在3週連続売上ランキング3位以内にある。
一方、原寛一は46歳のベテラン俳優。時代劇から現代モノまで幅広く活躍している人気俳優だ。密かに横島もファンである。

「あ、ねえ!君もこっちに来なよ!」
「え?ああ、はい。」

一人だけ輪から外れた形になった女性に、階戸が声をかける。こちらは3人組とは違う制服の女子高生だった。

「自己紹介してるんだ。君は・・・ええと、残ってるのはリオちゃんだよね?リオちゃんの幼馴染でいいのかな?」
「はい。葛井リオの幼馴染で、下条かりん(しもじょう かりん)って言います。リオはもう辞めちゃったんですけど、同じ高校でした。」

先ほど横島が少しだけ話をした葛井リオは、偶然にもKINKIステーションのゲストだったのである。リハで顔を併せて、お互いに驚いていた。

「リオちゃんも可愛いよね。俺、結構ファンなのよ。」
「そう言えば近畿君は原寛一の演技を・・・」
「シャインの新曲って意外に・・・」

合計7人の芸能人を幼馴染にもつ者達は、どの芸能人がどうだとか言う話題でしばし盛り上がる。実はリハから参加していたのは特別に呼ばれた横島だけで、他のメンバーはこの公開録画からの顔合わせだった。

『はい、5分前で〜す!』

と、ADの声が届く。どうやらボチボチ撮影が再開されるらしい。

「いよいよ俺らの出番ですね。そう言えば、今日のゲームって何やるか聞いてますか?」
「いや、何も。この番組って本当にぶっつけ本番だったんだね。」
「今日は特番用だから、やっぱりいつもと違うんでしょうか?」

一応口止めされているので、横島は何をするのか知りつつもそ知らぬフリで会話に参加していたのだった。
そして・・・

『はい、1分前!』

いよいよ撮影は再開される。

・・・・・・・・・・・・





『それでは今日も、ゲストの皆さんの幼馴染たちに登場していただきましょう。どうぞ!』
「はい、じゃあ横島さん以外の方たちはこのままオンステージに上がってください。」

撮影が始まり少しして、銀一の進行により幼馴染たちが呼ばれる。ADの指示のもと、6人が並んでセットのゲートをくぐって表に向かった。

「ふう。」
「横島さんはもう少し待っていてください。リハの通り、お願いします。」
「はい。OKっす。」

もうちょっと余裕がある横島は、またバックステージから収録の様子を眺め始める。

『リオちゃんと下条さんは、中学の文化祭でデュエットした事があるとか・・・』
『うわ!この写真って・・・』
『可愛いですね〜♪』

一々大げさに反応が入るが、実はリハーサル通りに進行は進む。

『おっと、準備の方出来たようですね。ではシャインの皆さんに歌っていただきましょう。曲は・・・』

―― ♪ ――

歌のコーナーに入った。
シャインの3人は別セットに移って踊りだす。

「あ〜・・・ガムのCMの歌だ。」

横島にとって聞き覚えの無かったアイドルユニットだったが、曲がかかった段階でようやく歌の方に聞き覚えがあることに気がついた。
リハでは歌は飛ばしていたから、気がつかなかったのだが・・・

―― 〜♪ ――

ポップな前奏が終わり、ライトのスポット具合が変化、メインボーカルのミユが歌いだす・・・

「?!!」

と、その瞬間!横島の体に悪寒が走る。

「これって!?」

―― グワン! ――

その悪寒の正体を探る間もなく、シャインの真上にぶら下がっていたライトが、支えていたロープを失い、金属がぶつかる音を立てて落下をはじめるのだった。

「嘘っ!?ちっ!!」

それに一番最初に気がついたのが横島である。
本当に何の前触れも無く落下をはじめるライト。このままではシャインに向かって落ちるのは必至である。勿論誰もが動けない。
というか、今起きている事を正確に把握出来るのは、ライトが落下してからだろう。それが普通の人間の反応だ。
霊感が働き、落下する前に意識が向いていた横島だけが、それに対応する事が出来る。

『壁』

横島は急いで文殊を作り出し、『壁』という一文字を込めてステージに向かって投げつけた。

―― ガンッ! ――

一直線に落下してきたライトは、『壁』の文殊に阻まれ、一旦重力を無視して数センチほど上に跳ね、そして横にそれて今度こそ地面に落下する。

―― ゴガンッ! ――

ステージの床が割れ、大きな音が鳴り・・・

「きゃあああああああああっ!!!」

ようやくそこで、客や出演者にも何が起こったのか理解できた。
一斉に悲鳴が上がる。

「オイッ!大丈夫かっ!」
「きゃー!!」
「オイ?!どうなってるんだ!!」
「皆さん落ち着いてください!パニックにならないで!」

一気に騒然とするスタジオの中、起こったのはありえない事故。いや、あってはいけない事故だった。

「どうなってるんだ?!このライトはしっかり固定したはず・・・」
「大丈夫です!幸い、シャインの皆さんには怪我は無いようです!」
「とにかく一旦中止!これじゃあ今日の撮影は・・・」

そんな怒号の中で、横島だけが別のことを考える。

―― なんだ? ――

先ほど感じたのは霊気。しかも、今も感じている。

―― 何かいる? ――

横島は確信していた。いまこの場所に、人為らざる何かがいると言う事を。
直ぐに集中して探る。強いということは無い。感じる霊気もプレッシャーも、雑魚霊に毛が生えた程度の物だ。

「いた!」

そして横島は、天上のセットの影にいるソレを見つけた。

「悪霊か?」

パッと見て、それはかつては女性だったであろうと見える。だが、今は間違いなく悪霊だ。

『死ね死ね死ね死ね・・・』
「う!」

悪霊が動く。狙いは・・・

「危ない!葛井さん!」
「えっ?」

今度は、リオを狙って突っ込んできた。

「ちっ!オラッ!」
「きゃっ?!」

駆け出していた横島が、間一髪でリオを抱きそのままの勢いで飛ぶ。
悪霊の爪は、床に大きな穴を開けた。
同時に、その存在にスタジオ中が気付く。

「うわああああっ!!?」
「化け物だあああっ!!」
「助けてーーーっ!!」

さらにパニックに陥る一般客。だが、今度は他のスタッフたちも慌てていた。

「横っち!こいつ?!」
「銀ちゃん、下がってろ!」

真剣な表情で声をかけて来る銀一に、横島は怒鳴り返した。それは、今までの横島には無かった貫禄のような物を兼ね備えている指示である。銀一はそれで、言われたとおりに下がった。

「みんな、下がって!大丈夫!横っちに任せとけば平気だから!」
「近畿君!大丈夫なの!?」
「はやく、はやく逃げないと!!」

―― 良し、大丈夫! ――

少し観察して、横島は目の前の霊がそれほどでない事を改めて確認する。

「なんでこんな事したのかは知らんけど・・・」

霊気を込め、右手に剣を作り出すと、自分に向かってきた悪霊めがけて一閃した。

『うぎゃあああああああああああああっっ!!!』

真横に薙いだ霊剣の軌跡に包まれ、悪霊は断末魔の声を上げる。
その声が止んだ頃、完全に霧散して消滅した。

・・・・・・・・・・・・





一見、これで事件は解決したかに見えるのだが・・・
これはまだ今回の事件の始まりに過ぎない。


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