戸惑い。前編
投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 3/ 6)
とりかえしのつかない、失敗をしてしまった。
相手は、特に強敵と言うわけでもなかった。
廃屋にある別にごく普通(といっては語弊があるかもしれないが)の哀れな地縛霊である。
特に、強い能力があるわけでもなく、特異能力があるわけでもない。
ただ、縛られているために、此処にこめられた執念はひどく強いというだけで。
こんな相手おきぬ一人で事足りる。
そんな美神の判断に、間違いはない。
もちろん、純粋にその死霊使いとしての能力から言うとこんなのが、十匹きてもおきぬならば大丈夫である。
ただ、横島と、美神がついてきたのは、ココが少しばかり遠いから向かうのに大変だろうという気遣いと、ただ、おきぬの除霊を見物しようと思うそれだけで。
なのに、おきぬはそこで取り返しのつかない、失敗をした。
同調してしまったのだ。
その哀れな、霊に。
元々おきぬは、霊能力が強いというわけではない。
自身が元々幽霊と言う事もあって、霊のこころが誰よりもよくわかるだけである。
それは稀有な能力であるのだし、死霊使いにとってそれこそ何よりも大切な資質なのであるが。
だが、プロとしてそれでいいわけがない。
もちろん同調したのは、時間にしてほんの一瞬。
が、その一瞬、トドメを差すのをためらってしまったのだ。
紡いでいた音が、ほんの一瞬途切れる。
ふるふると震える唇。
そして、それを逃すものなどいるわけがない。
「「おきぬちゃんっ」」
その途切れた瞬間、霊がおきぬへと襲いかかる。
再び音を紡ごうとするが、間に合わない。
「きゃああああっ」
瞬間、美神の神通棍がしなり、横島の霊破刀がぐんっと伸びる。
同時にそれを受けたものは溜まったものではない。
ぎゃあああああああああああっ
ひどく耳障りな音を響かせ、その霊はこの世から消滅した。
「どしたんっおきぬちゃんっあんなんいつもならどおってことないはずなのにー」
ぱたぱたと近づいてゆき、心配そうに横島。
どうやら、体調でも悪いのかと心配していらしい。
「いえそんなことは…有難うございました。」
そんな横島の様子に、すこしばかり苦笑しながら頭を下げるおきぬ。
その表情はどことなく憂いが見える。
カツカツとハイヒールを響かせ美神も近づき。
「わかってる?」
と聞いた。
その声音は滅多な事では、聞けないほど真剣だ。
「…はい」
こくんと頷くおきぬ。
横島は、きょとんと首を傾げる。
「私たちは、プロなの」
そしてどこか悲しげですらある。
「…はい」
「一瞬の油断が命取りのとこで働いてるのよ?」
さんざん自分もしていたくせに、と言う突っ込みを心のなかで入れながら横島は神妙な表情で聞く。
「だから、そんなんじゃ駄目なの」
「…はい」
「もっと、強くならないと」
美神はそれだけ言うと手のひらでくしゃりと、自分の髪をかき回し、おきぬに一人で帰るようにと伝えた。
「すこし、頭を冷やしなさい、いちおうココも東京だから夜までには帰れるでしょ」
「はい、有難うございました」
どこか、無理のある笑顔を浮かべおきぬはゆっくりと、その場から去る。
おきぬが去ったのを見届けると、あんまりな美神の言いぐさに抗議しよーとした横島に振り向きざま
がんっ
ものすっごくいたそーな、顔面パンチ(ぐーである)を食らわせた。
どがらががががっしゃん!!
ついぞ聞いた事のないような、面白い音をたてて横島は倒れこむ。
「ななななななっ」
顔面を抑え横島。
そりゃそうだろう。
つーかいきなり顔面パンチを食らって、驚かない人間がいたらお目にかかってみたい。
が、そんな横島を尻目に美神は拳をぐーに握り締め、
「ああああっなんでおきぬちゃんに私が説教せないかないのっ!」
と、のたまわった。
この上もなく理不尽そーである。
と、いうかなんというか…ここまでしといて更に自分が被害者かのよーな表情ができるこの女性に乾杯である。
「…俺をぶちのめすのも辞めて欲しいのですけど」
顔を抑えながら、ぶつぶつと横島。
直ぐに起き上がれるこの男もおかしい。
「なんで?」
「…なんでって………俺が可哀相じゃないですかっ」
「どおして?」
きょとっと目を見張り美神。
「………」
美神は、胡乱げに見つめる横島を無視し。
「…でも越えないといけないとこだもんね」
誰に言うでもない呟くような言葉に、横島はぴくりと聞き耳をたてる。
「おきぬちゃんの事ですか?」
「んーあの子は優しいからね」
ぽりぽりと頬を掻きながら美神。
無表情だが頬がすこしばからり赤いところから照れている事が分かる。
「確かに、死霊使いには優しさは必要なものだけど、それだけじゃプロではなれないもんねー…冷酷なとこも必要だし…おきぬちゃんなら矛盾しているけどどちらももてると思うんだけど…」
そんな美神の言葉に横島はうんうんと頷き
「美神さんのよーに冷酷で非道だけだったらいいんですけどねーっ」
言った。
口は災いの元。
その一言が命取り。
三十分後、車のなかで横島はぼろぞ−きんのようになりながら、その諺をしみじみと、かみ締めた。
つづく
今までの
コメント:
- 黒もいいけど白もね!(笑)←おせちもいいけどカレーもねのノリで(駄目)
…すいません何故終わらないのでしょう……つーか三十分いいのかこれ誰か読むのかこれっ!!(読みません!!)…嗚呼嗚呼スイマセンスイマセン許してください (hazuki)
- 大おやびんさまとお呼びしてよろしいでしょうか?(謎笑) ネクロマンサーの能力を最大限に発揮するには霊の悲しみを理解せねばならないのですが、おキヌちゃんのその慈悲心が今回は反って災いしてしまいましたね。自然と霊の心を汲み取ってしまうおキヌちゃんはこの大きな壁を乗り越えることが出来るでしょうか? 令子が嫌々ながらも叱るべきところでは叱る点がプロ「らしい」と思いました。特に理由も無く殴られる横島クンも哀れながら「らしい」気が致します(笑)。次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 久々のまともなおキヌちゃんだ。
皆これ読んで目さませ。 (あき)
- ああ、すっごく美神さんと横島だ!?
この八つ当たり加減がたまりません。
ごめんなさい。おキヌちゃんの悩みとか美神さんの心使いとか、完全に吹っ飛んでしまいました。
相変わらず一言多い横島がイカス!(合掌) (KAZ23)
- 相手と同調しなきゃいけない、でも同調し過ぎちゃいけない。
ジレンマを感じますね。
やはりおキヌには進化してもらって、相手に同調するのではなく、相手を包み込むくらいじゃないと駄目なのかも知れませんね。
ちょっと誰かさんに苦言を。
投稿者の間には、不快に思ってる人の方が多いですよ。まともじゃないおキヌを書いてるとか関係なくね。意図は分かりますけど、言葉って難しいですね。 (NAVA)
- 誤解が生じないように、ちょっと補足を。
『誰かさん』というのは、特定の誰かではなく、不特定多数の方々です。 (NAVA)
- は!どうもすみませんです!
・・・どうも、Kita.Qと申します。
「一度だけだし、書いてみたい!」というのもありましたが、やっぱりいいことではないですね。猛反省しとります。
あ、hazukiさん、こんにちは。
ええ、やはり正統派おキヌちゃんは、こうですよね。まあ、彼女なら、こういう試練もきっと乗り越えられると思います。
つらい説教とともに八つ当たりする美神さん、犠牲になる横島、すべてが「らしい」です。
投稿お疲れ様でした。 (Kita.Q)
- あ、いえ、黒絹ネタそのものではなく、その書き方のことです。
ネタによっては、書き方が汚くなることもありますから。 (Kita.Q)
- やっぱり言葉って難しい^^;
私達の立場はKita.Qさん側でして。Kita.Qさんに向けた言葉では無いのですよ。 (NAVA)
- やっぱhazukiっつぁんはすごいですな。これですよこれ。極楽ワールドをそのまま文字で表現できてる感じ。
いやー、いいもんみしてもらいました。 (来栖川のえるぅ)
- ホントに王道な美神と横島ですね。これは賛成にきまってますよ、ここに来る人は〜。
だって原作嫌いならこないし。巧いなあ、ホント巧いなあこの文章。
そして、一方のおキヌちゃんは…?次の話も読んできます♪ (ダテ・ザ・キラー)
- お久しぶりでございます(笑)。
感想は皆様と同じく大賛成でございます。
ただ描写としては少し提案がありまして、冒頭のおきぬちゃんの仕事っぷりがやや淡白で、
「とりかえしのつかない〜」からと「その途切れた瞬間〜」からが読んでて光景がリプレイされているみたいに思えます。
それと細かい処ですが、最初の「とりかえしのつかない、失敗をしてしまった」は句点の使い方が違う気がします。
なにか愚痴を並べてしまいましたが、今回微〜妙にhazukiさんらしさが薄い気がして(描き急ぎました?)ちと気になりました。でもベテランだからいいよね(←余計な一言)。
でも期待してますよ、ええモチロン!
あきさん<
言葉は選ばないと自分が一番不幸になりますよ? (みみかき)
- 白い・・・白いっ!!流石、犬御所様ですっ!!・・・け・・・敬称ですよっ。
優しさ故のジレンマ。GSって、結構罪な商売なのかもしれません。あまり、除霊の除って、排除の除ですしね・・・。あんまり良いイメージがない・・・。おキヌちゃんのイメージって浄化だから・・・何を言いたいんだろうか、俺は・・・。
一瞬の油断が死を招いてしまう。そんな世界だからこそ厳しく言わなければならない。美神さんの優しさなんでしょうね。むかついたから横島クンを殴りつける、ここらへんが美神さんの美神さんたる由縁なんでしょうね。(謎)
美神さんの言う冷酷さって、割り切り方ってことでしょうか・・・(汗) (veld)
- 哀れな霊に同調してしまいトドメをさすのにためらってしまったおキヌちゃん優しさが伝わってきました。
しかし、説教した後に横島君に八つ当たりする美神さんが実に美神さんらしいですね
一言多い横島君もまた然り。
今後の展開が楽しみです。 (影者)
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