ザ・グレート・展開予測ショー

修行の日々〜6〜


投稿者名:初心者1069
投稿日時:(03/ 3/ 6)

「やっと着いたな。ちゃんと『あの日』に着いたはずだけどな。」

幸い時間移動してきたところは誰にも見られなかったようだ。
辺りに誰もいないのを確かめて文珠<透><明>で姿を隠す。
準備を終えると場所を確認する。

「ここは‥‥。」

たどり着いたのは東京タワーだった。

そこは一緒に夕日を眺め、口付けを交わした場所。
彼女を救い、彼女に救われた場所‥‥最後に姿を見た場所。

不安が頭をよぎる。

(俺は苦しんでいるアイツの姿を見て何もしないでいられるのか?)

手に入れた答えを実行するためには彼の知っている過去を繰り返さなければならない。
答えを実行するタイミングをつかむためにも最後の瞬間には立ち会っていないといけない。
つまり苦しんでいるルシオラに何もしてはいけないということ。

『理解』はできている。

答えに気づいた瞬間に分かったこと。
その時は助けるためなら何だってできると思っていた。
が、過去に戻ってきて実行しなければならない今。

『納得』することができない。

苦い思い出が頭をよぎる。
(俺はまたアイツを見捨てるのか?
 結晶を壊したあの時のように‥‥。)

「見捨てる」という言葉が浮かんできたのに驚いた。
とっくに乗り越えたはずのことだった。
時折疑問に思うことはあっても。

彼女の犠牲の上に成り立っている世界。
「こんな物のために俺はアイツを犠牲にしたのか?」
そう考えたことが無い訳ではなかった。

人間として選択を間違えたとは思っていない。自分のしたことは正しかったのだろう。
だが、横島忠夫という一人の男として考えると‥。

(‥‥乗り越えよう。
 もう一度目を逸らさずに過去を見ることで。
 それだけの強さを手に入れよう。復活するアイツのために。
 俺はアイツ救うことができる答えをもっているのだから。)




文珠に<翔>の文字を浮かべ発動させる。
一般入場なんてとてもできそうにないその場所に気配を消して降り立つ。

様子を伺うと、時間的にはルシオラが横島を助けるために霊基を渡した後らしい。
過去の横島の方は気を失っている。

「ルシオラ‥‥。」

夢ではなく、現実で見るその姿に思わずその名を呼んでしまう。
慌てて口をふさぐが、どうやら聞こえなかったようだ。
というより聞くことができないのだろう。
横島に霊基を渡してしまったからだろうか、霊体が極めて不安定なものとなっていた。

(おまえはあんなに苦しかったのか‥。
 それなのに無理してあんなこと言ったのか?
 俺はそんなことにも気づけずに行っちまったのか‥。)

自分は見ていなかった苦しんでいる彼女の姿を見てしまった。
断ち切ったはずの迷いが頭をよぎる。「苦しんでいるアイツを助けたい」

(落ち着け‥ここで今アイツを助けても意味が無いんだ。
 俺のしっている過去を繰り返させないといけないんだ。
 でも、アイツのあんな姿を見るのは‥‥。)
 
『理解』はできていた。『納得』もしたはずだった。だが、目の前の光景を見ると‥‥。
どんな理由であれ、目の前で愛する人が苦しんでいるのを黙ってみていられるほどまだ大人ではなかった。
手には無意識のうちに文珠が握られていた。










(‥‥ごめん、ルシオラ。)

横島は気づかれないようにルシオラの後ろに移動し、握った文珠を発動させた。
不安定だった彼女の霊体が安定していくのがわかる。
すぐに動くのは無理だろうが、死ぬことは無いだろう。

(助言をもらったルシファー達には悪いが、これで良いんだ‥。
 例え過去でもアイツにこれ以上苦しい思いはさせたくない。
 おまえは助けられないかもしてないけど、あいつらが幸せになるなら許してくれるよな?
 ルシオラ‥。)

後悔はしていなかった。
だが、時間の復元力のことを考えると自分のした行動の無意味さが良く分かる。
パラレルワールドができる可能性さえわずかだった。

(神魔の追っ手が来るまであいつらを見守っておくか。どうせ帰っても捕まるだけだし。
 時間の復元力が作用しそうになってもしばらくなら俺の力でどうにかできるだろ‥。)

そう考えている間に、過去の横島は全てを終わらせるために行ってしまった。

(安心して奴を倒せ。
 お前が来るまでルシオラは俺が守っていてやるよ。)


が‥‥
過去の横島が見えなくなると彼女の霊体が不安定になり始める。

「さすがに限界ね。ウソついたこと‥あんまり怒らないでね‥」

急いで再び文珠<回><復>を発動させる。しかし霊体の崩壊は止まらない。
<蘇><生>  <霊><基><補><充> <完><全><回><復>
文字を次々と変えて発動させる。使いすぎると戻れなくなるのも忘れていた。
ルシオラの体に変化は起きない。彼の霊力で扱える文珠の性能の限界を超えてしまっている。

(どうしてだ!俺はアイツを助けられないのか?一体何のために修行してきたんだ!)

「ルシオラ!」

思わず名前を叫んでしまう。しかし彼女の耳には届かない。

「一緒にここで夕陽を見たね、ヨコシマ‥昼と夜の一瞬の隙間短い間しかみれないから‥きれい‥」

その言葉を最後に彼女の体は光に包まれ、残っているのは霊破片のみとなった。

涙が頬を伝っていた。
自分の力の無さを恨んだ。

(‥‥そうか。これも時間の復元力の作用か。
 俺の力程度では歴史を変えることなんかできねえってことか。)

昂ぶる感情とは別にどこかで予想していたこの出来事を客観的に考える自分がいる。
修行の成果だろうか

(何が文珠使いだ‥何が世界を救った英雄だ‥
 俺はまたアイツを救えなかった‥)

(いつまでも悲しんでる訳にはいかない。悲しんでいても何も変わらない。
 もうすぐベスパの眷属が来てしまう。その前に行動しないとここに来た意味が無い。)

冷静に考えている自分がいる。確かにそれが正しい。
しかし、こんな状況で次の行動を考えている自分が嫌だった。
「ここじっとしてても何も変わらないじゃない。」
聞き覚えのある声が聞こえた気がした。

(そうだな。悲しむのは全部終わらしてからにしよう。
 ここであきらめる訳にはいかない。)

彼に残された方法はルシファー達のヒントから得た「答え」を実行することだった。
散らばったルシオラの霊破片を集め始める。
それが何を意味しているのか承知の上での行動だった。

(今ここにある霊破片の量なら、アイツは復活できるだろう。
 だが、それじゃさっきと一緒で時間の復元力が作用してアイツが助かることは無い。
 俺がアイツを助けるためにできるのはこの世界の俺が未来で同じ行動をとると信じて、霊破片を持ち帰ることか。
 ‥‥皮肉だな。今この世界でアイツが助からないようにすることで俺の世界では助かるんだから。)

自分の世界でルシオラが復活できそうな量を集めると自分の世界に戻った。

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