ザ・グレート・展開予測ショー

さらば 愛しのおキヌちゃん


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 3/ 5)

 「しかし、弓の髪って、本当にキレイだよなぁ」
 「やだわ、それほどのものじゃありませんわよ」
 かおりの自慢の一つが、この長く美しい髪だった。手入れが大変だったが、この髪にふれるたび、自分の中から喜びが沸いてくる。
 (お母様の髪も綺麗だし・・・お母様に似た髪で良かった)
 おキヌは、かおりの髪を、丁寧にブラッシングしている。
 「こんなに綺麗な髪だと、こうしてブラッシングしている私までうれしくなりますね」
 おキヌは、いったん言葉を切った。
 「まるで、呪われた細菌に感染して立ち腐れた死津喪姫の髪のようだわ」
 「えっ?」
 「へっ?」
 かおりと魔理は、自分の耳を疑った。おキヌは、穏やかな表情でブラッシングを続けている。
 気のせいか。そうだ、おキヌちゃんがそんなことを言うはずがない。・・・・・・
 外は、雨が降っている。
 (雨の午後はヤバいわね・・・)


 先月、ある作戦が終了し、某製鉄会社の社長・幹部数人が逮捕された。
 彼らは、表向きは製鉄業を運営していたが、裏では暴力団をはじめとしたさまざまな組織に、ある武器を製造・横流しを行っていた。銃や砲弾の弾頭に凝縮した低級霊を詰め込んだ、ダーティー・ボムである。
 さまざまな方法をとった末、ようやく逮捕できたのだが、その際使用された政府の多額の兵器買い上げ金(偽の作戦による)の行方は、いまだにわかっていない。


 「おキヌちゃん・・・君だけだ。この僕のささくれだった気持ちをわかってくれる女性は・・・」
 「西条さんは、なにをするにもカッコつけすぎるんです。・・・でも、私の前では、そんな西条さんは見せて欲しくない・・・」
 高級ホテルの一室。そこにいるのは、おキヌと西条だけである。ばあやはいない。第三者に見聞きされては困るのだ。
 「僕は真剣だ。君のためなら、なんだってできる。あの金のことだって・・・」
 「西条さん、その話はダメ。誰に聞かれるかわからないわ」
 「心配ない。この部屋はクリーニング済みだ」

 
 西条は、美神にフラれた。はっきり本人の口から聞いたわけではないが、
 (なぜだ。なぜ令子ちゃんは、あんなアホに肩入れするんだ!?)
 もはや、状況は、誰にでもわかるようになっていた。あの二人の間に流れる雰囲気は・・・
 (ちきしょう!ちきしょう!ちきしょう!!)
 おキヌもまた、西条と同じだった。そんな二人がひかれあう、などという三文芝居は読者の気に入らないだろうか。

 
 安心していただきたい。


 「私は、私が許せない・・・西条さんに、あんな・・・」
 「何も言わなくていい。君には関係のないこと・・・そうさ、関係ないことなんだ」
 二人は、はげしく抱き合った。
 「おキヌちゃん」
 「待って」
 おキヌの唇を奪おうとした西条を、彼女は制した。
 「結婚するまで、待って」
 「まさか、きみは、まだ・・・」
 「違うんです。式を挙げるまでは・・・ごめんなさい。私、ワガママですよね・・・」
 「・・・いや、信じるよ。今きみを信じないと、僕は本当にダメな人間になる気がする」

 バカなひと。
 今の西条には、おキヌの表情は見えない。彼女の顔には、自らの計画が順調に進んでいることへの愉悦と、この後の西条の運命を予測した残忍さが浮かんでいる。


 その数日後。
 オカルトGメンの事務所の前は、警察関係者とマスコミ、ヤジ馬たちでごった返していた。
 西条が逮捕されたのである。
 誰からのタレコミなのかはわからない。
 手錠をかけられ、頭にコートをかぶせられて連行される西条を見るおキヌの目には、冷たく、皮肉な色があった。
 彼は今、何を考えているだろうか。自分のキャリア?それとも私のこと?
 
 残念だけどね。私は中古品の、しかも壊れたオモチャには用はないのよ。
 
 スイスの某銀行の隠し口座に、今回ネコババした五十億ドルが振り込まれている。口座番号と暗証番号を変えておかなくちゃいけないわね。公園の端っこで寝ている人にやってもらおう。そのあと、横島さんからへそくっておいた文珠で、その人の記憶を消しておかなくちゃ。


 美神の事務所は、机や本棚がめちゃくちゃにかきまわされ、あらゆるものが床に散らかされていた。査察がはいったのである。
 いつものことといえばいえるが、今回ばかりは長引きそうである。連れて行かれる際、美神のわめきちらし、暴れまくる様子を、憔悴しきった美智恵が教えてくれた。
 これも、誰のタレコミなのかはわからない。


 美神の財産がどの程度没収されるかは不明だが、馬鹿げた公共事業に回されるくらいなら、もっといい方法がある、とおキヌは思った。
 財産をすべてお金に換えて、ヘリコプターで上空からバラまくのだ。目の色を変えてお札を拾う人々を見下ろし、私は叫ぶ。

 ごらんなさい!ひとがゴミのようだわ!!

 
 みんなバラバラになる。シロは人狼の里に帰るという。タマモは、とりあえず旅に出るという。そして気に入った山があれば、そこに住み着くかも・・・と彼女は言った。


 「横島クン。おわびといってはなんだけど、これを渡しておくわ」
 美智恵は、横島に二通の封筒を渡した。
 「独立証明書と私の紹介状よ。独立してもいいし、よその事務所に移ってもいい。オカルトGメンにきてくれるなら大歓迎するわ。納得するまで考えて、決まったら教えてちょうだいね」
 「・・・どうも、ありがとうございます」
 「おキヌちゃん、あなたはどうするの?」
 「あの、後でご相談したいことがあるのですが・・・」
 「いいわよ。私はGメンの事務所にいるから。・・・ああひのめ、泣かないで、いいコだから」


 「横島さん。これからどうするんです?」
 「とりあえず、一ヶ月ぐらい遊んで、それから考えようかな・・・。おキヌちゃんこそ、どうする。学校のこともあるし・・・」
 「それを、美智恵さんに相談したいと思います。六道女学院にも寮があるし、・・・高校はこっちで卒業したいんです」
 「そうか・・・そうだよな」

 失くしたものは大きいか?私は何も失くしていない。この人がそばにいてくれれば、他にはなにもいらない。

 それに、私には五十億ドルという金がある。いや、五十億ドルしかない。まだ足りない、足りないわ!!


 ゾクゾクするものが、おキヌの身のうちからこみ上げてきた。
 「横島さん・・・!!」
 おキヌは、横島の胸にすがりついた。涙があふれて止まらない。失くしかけたものをようやく取り返した、喜びの涙だった。
 「おキヌちゃん・・・!!」
 横島は、おキヌを強く抱き返した。

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