ザ・グレート・展開予測ショー

季節はずれの雪がもたらしたもの


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 4)


 季節はずれの雪が僕らにもたらしたのは、スコップを持ち上げて、バケツに詰め込み、空き地に運んで放る、小学生らしからぬ重労働だった。まぁ、それも七時過ぎれば終わる。夏休みのラジオ体操のようなものだったが。

 降りも降ったり一週間。ろくに電車も走れなかったと言うのだから風情とか言ってられない話だということがわかる。日本の経済の中心は東京だと言われているが、やはり、大阪だって捨てたもんじゃない。というよりも、首都大阪陥落、という騒ぎだった。
 どういう騒ぎか分からない?まぁ、別に今回の話と特別関わりがあるわけじゃないから、分かる必要は無い。忘れてくれても構わない。

 まぁ、大人は大騒ぎしていたみたいだけど、俺たちにとってしてみればそれは喜ばしいことではあった。降りつづけた雪は、学級閉鎖を呼び起こすこととなり、多くの生徒がその報に喜び勇み、空から舞い散る雪よ、何時までも降れと祈った。
 結局、それから五日間降りつづけた。初めの二日間は何してでも来いと言う、半分脅迫のような話ではあったが、先生方の車での通行も苦しいこととなった三日目に、ようやくに早朝電話が鳴った。

 それは遠足のようだった。休みの日でもないのに家に入れる、この何とも新鮮な感覚がたまらなかった。
 本当なら学校に行く時間なんだからな、と、親は口やかましく言っていたが、銀ちゃんや夏子が来ることまで止めはしなかった。
 その代わりに、皆で二時間ほど勉強会のようなものをさせられたけれど。


 国語なんてもんは、漢字のドリル以外は勉強の仕様も無い。わざわざテキストを買ってまでやるもんでもないと思う。
だから、俺たちは次のテストの範囲内にある漢字をひたすら書いて、国語は止めた。それでも、二十分くらいはかかったかもしれない。
社会、理科、算数・・・その流れで勉強していく。俺たちの先生は、成績優秀者、夏子だった。


 「ああ、分からんわ・・・夏子、これどうするん?」

 「・・・ああ、これね、3を入れて」

 「3を?・・・ああ、こうすれば出るんやな」

 「・・・横っち・・・何しとるん?」

 「寝てる・・・」

 「駄目でしょ?真面目にやらないと・・・お母さんが怒るよ?」

 「・・・そうだな」

 とは言っても、分からないものは分からない。やるフリだけをする。鉛筆を持って、ノートに描かれるのは好きなアニメのキャラクターだった。まぁ、数式とそれほど変わるものではない。多分な。

 「・・・はぁ・・・分からんわ。なぁ、あと何分?」

 銀ちゃんがうめくように言う。気持ちは分かる。だけど、俺は銀ちゃんほど真面目にやってない、から、やっぱ分からない。

 時計はゆっくりと、本当にゆっくりと時を刻む。残酷なほどに、それは僕らの神経をすり減らす。―――分かるだろうか?時間をただ待つだけなのに、苦痛なのだ。
 それは言うならば―――四限の、昼休みを待つ気持ちに似てる。

 「・・・あと・・・五十分・・・」

 ぐた〜と、三人ともが机代わりのテーブルに突っ伏した。

 「・・・あと・・・五十分あったら・・・何が出来るかな?」

 「・・・カップ麺、十・・・」

 逡巡。

 「十六個や。・・・あまり二分」

 「・・・お湯沸かすの考えたらもっとかかるんちゃうん?」

 「・・・せやな。って、どうでもいいわ、そんなこと」

 「・・・なぁ・・・俺ら、何時始めたんだっけ?勉強・・・」

 「・・・九時・・・五十四分・・・そう、おばちゃん、そう言ってたよ」

 「夏子・・・流石に記憶力だけは良いな・・・」

 「どういう意味よ?」

 「そのままの意味じゃ」

 「・・・」

 「痛い痛い痛いって!!耳引っ張んなよっ・・・」

「・・・なぁ・・・で、今は?」

 真正面に置かれた、小さな目覚し時計。丁度、十一時五十四分にセットしてある。

「見れば分かるだろ?十一時十分だよ」

 呆れたように言う俺。夏子も似たような感じだった。今更何を、と。

「・・・なぁ・・・俺の腕時計・・・もう、十二時すぎとるんやけど・・・」

 そう、銀ちゃんは腕時計を持っている。親父から貰った、たか〜い時計だそうだ。こんなもん子供に持たせる親の気がしれんが。


 その時は―――そのご自慢の時計に救われた。

 俺はすくりと立ち上がり、ゆっくりと、リビングを抜け、台所に向かう。
 目指すは―――この家のドンの元だ。

 そして、あっさりとたどり着く。
 料理を作っている。今日は一人分じゃないから大変だとか何とか言っていた。
 せわしなく―――動いている。どうやら、俺に気付いていない。

 空気を吸った。肺にいっぱい・・・。
 そして・・・吐き出す。



























「ばばあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 叫び―――禁句を。

 ばきぃっ・・・



 「おや、夏子ちゃんに銀ちゃん、勉強終わったの?偉いねえ・・・御飯うちで食べてき」

 「あ、頂きます」

 「・・・おばちゃん、横っちは?」

 「夏子ちゃん・・・聞かない方がいいことも・・・あるのよ?」

 「はぁ・・・」



















 美味しい美味しいと舌鼓を打つクラスメイト。
 あえて言おう、クラスメイトと。
 こいつらはもう、友達ではない。
 幼馴染でもない。
 クラスメイトだ、ただの。












 激痛に、揺らぐ視界。
 涙に、滲む光景。
 薄闇の中に、一筋の光。
 物置の奥、別名『反省部屋』。


 会話を楽しむ人非人。
 心中で毒づきつつも。
 何気に、この部屋の効力は凄いらしい。
 半強制的な反省と言うものが果たして効果があるかどうかはともかくとしても。
 根性だけは―――つくらしい。






 ・・・頼みますから、出してください、お母様。

 泣いて許しを請うと、母上殿は笑顔で冷めた飯を持ってきた。


 せめて温めて来いやくそばばあ。


 どうやら、声に出していたらしく。


 銀ちゃんは空を。


 夏子は俺を。


 見つめ―――溜め息をついた。





























































 「・・・実の息子を・・・フライパンで・・・幼児虐待と違うか・・・?これ・・・」


 まぁ、こんな日もあったということ。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa