ザ・グレート・展開予測ショー

ずっといるから−中編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 4)


「・・・あんまりじゃねーか・・・幾ら何でもさ」

 愚痴愚痴言っても仕方ない、目の前に彼女がいないのでは無意味だろう。それでも、言葉は止まらなかった。
 独り言を呟く彼の事をすれ違う人は訝しげな目で見ていたが、少年の呟きなどに興味などあろう筈もない。すぐにその目を前に向ける。
 泣き言でしかないと、その顔を見れば一目瞭然であったせいもある。



 部屋の中に入り―――横になる。
 散らかり放題の部屋。あの薄給で、よくもここまで物が溢れるものだ。
 飽和社会・・・日本って、本当にゴミが多い国なんだな、と、そんなことを考えもする。
 どうでも良いことではある、環境を意識しない人にとっては。

 ―――そう、だな。
 何時からだろう?この生活になじみ始めたのは―――。
 皆がいて、俺がいる。
 あの場所が俺の居場所で。
 正直、給料の安さにはいつも辟易とするけど。
 割と悪くない生活かもしれない。
 食に困ることも確かにある。
 けれど、事務所に行けばそれなりに食わせてもらえるし。
 おキヌちゃんや子鳩ちゃんも部屋に訪れて食わせてくれるし。


 ―――待てよ?
 今の俺って・・・ヒモなんじゃねーのか・・・





 「・・・あんたね?どうして・・・そんなことしたの?」

 心底呆れた、と言う顔で彼女は言う。額を中指でとんとんと軽く叩きながら、天井を見上げるように、顔を上げた。彼女の怒っているのよ、というアピール。

 「だって・・・あいつ、私達のとこから離れていこうとしたのよっ!?」

 バンッ、と机を叩いて見せるものの従来の迫力はまるでなかった。少しは悪いと感じているのだろう。しかし、目の前の母親がしでかしたことが発端なんだと自分に言い聞かせて、睨みつける。

 そんな娘の姿に、溜め息をつきつつ、見据える。

 「当たり前でしょ?私もあんたも、唐巣神父の下で教えを乞い、そして、巣立っていったのよ。あんたが引き止めてどうするのよ?」

 「・・・あいつ、まだ、甘いのよ。除霊の途中、呆けてることもあるし・・・」

 「あのねえ・・・あんた、未だに一緒に除霊作業を行なってんの?」

 「・・・当たり前じゃないっ・・・あいつの文珠が・・・」

 「そんな言い訳はいいのよ。・・・あの子がそんなに心配?」

 「だ・・・誰がっ」

 「・・・全く。もう少し、彼の事を認めてあげたっていいじゃないの・・・」

 「・・・認めてるわよ。あいつ、間違いなく、私と同レベルに、それ以上の実力があるもの」

 「じゃあ、何で」

 「危なっかしいのよ。使い慣れないはさみを振り回すような幼児みたいで・・・」

 「彼自身を傷つけそうで?」

 「・・・た・・・他人をよ」

 「ふう・・・あんまり過保護でいると、あの子はあんたなしじゃ何も出来なくなっちゃうわよ?」

 「・・・それでもいい・・・」

 「・・・何か言った?」

 「何にも言ってないわよッ」










 「・・・居心地・・・良いんだよなぁ・・・あの場所・・・」

 今更独立しろ何て言われる方が無茶だよなぁ・・・考えてみればさ。
 だって、俺なんかが独立してやっていけるわけがないし。

 「・・・みんなと離れ離れになるのも・・・なぁ・・・」

 極端に見れば、彼女らとは商売敵になるわけだ。今のように親しく接するわけにはいかなくなるだろう。

 「それに・・・美神さん・・・」

 俺の面倒―――今考えると、本当に良く見てくれてたよな・・・。暴力は並じゃなかったけど・・・。
 でも・・・。



 「・・・俺・・・そんなに頼りないかなぁ・・・?」

 天井を見つめながら―――思う。

 彼女につりあうような人間に、なりきれない自分。
 未だに、彼女に頼られることなく、自分の人生を左右されている。
 任せてしまえば楽かもしれないけれど―――不快ではないけど―――でも。

 このままじゃ、駄目な気がした。




 焦燥感って奴だろうか?―――昂ぶってる。

 「・・・ねよ」

 寝た。







 そして―――翌日。













 「・・・人任せにする気なんてなかったのよ、分かるでしょ?こっちとしても、いろいろと立場があるわけよ。―――それで、勝手に私以外の人から申請されると、私の面子が潰れるわけ。分かるでしょ?」


 「・・・だから、ここに用意していた、『私の申請書』を提出するから・・・だから、ね、昨日のことは―――水に流せとは言わないけど・・・」


 「あ、ああ、だからと言って、独立を認めるわけじゃないからねっ!あんたはこの事務所専属のGSなんだからっ!!」


 「・・・何よ、文句あるの?・・・給料?・・・仕方ないわね・・・幾ら欲しいのよっ!?」


 「せめて・・・時給700円!?・・・わ・・・分かったわよ。・・・時給700円なんて、けち臭い事は言わないわ・・・月給、月給で払ってあげる。週休二日制なんて物はつけないけれど・・・休みはあげるわ。でも、ちゃんとこの事務所で待機してんのよ?」


 「そうね・・・月給・・・ひゃ・・・ひゃ・・・あひゃはやはやはやひゃ・・・100万円で・・・どう・・・?」


 「・・・そ・・・そうよっ、100万円よっ・・・!!」


 「何よっ!?文句ある!?」


 「ないわね・・・よしっ」


 た〜くん人形(シロから徴発)を前にして、とりあえずのプランを立てる美神さん。
 100万円の部分でかなり躊躇いを見せてはいたものの、とりあえず、最低ラインの給料は払うつもりでいるらしい。
 ―――彼女の利潤を考えれば、恐ろしく少ない金額ではあるのだが、彼女にとっても、彼にとっても、一般的な観点から見ても、大金であることにかわりはない。

 これで―――断る筈がない。

 彼女はにやりと笑みを浮かべると、引出しから一通の封筒を取り出した。


 そして―――彼が訪れるのを待つ。


 「お邪魔しま〜す・・・」

 間の抜けた声とともに、階段を駆け上がる音。
 ・・・気付く。
 た〜くん人形を出しっぱなしにしていた。

 ―――急いで・・・自分の机の中に押し込んだ。

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