ザ・グレート・展開予測ショー

ずっといるから−前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 3/ 4)


 ここの家の美神さんは少し、ほんの少しだけ甘えん坊(?)かもしれません。


 時計の針が時を示す。もう、この部屋に入ってから十分が過ぎる。
 会話はない。気まずい雰囲気は、まるで何時間も立っているように感じさせる。
 彼女の機嫌に影響する雰囲気は―――最悪だった。
 書類を苦い顔で見つめる彼女。その美貌は崩れることはないのだけれど。
 けれど、やっぱり、心のどこかに染み込んだ丁稚根性が俺に危険だと呼びかける。

 この場を去れ。

 そう呼びかける声。

 彼女が自分から視線を逸らしているうちに、踵を返して、ドアを開き、今日のところはあの散らかった俺の部屋の中で眠っていろ。

 きっと、次の日に又訪れれば、少なくとも、今日よりも機嫌が悪くなっていることはないだろう?

 殴られても、蹴られても、なじられても―――少なくとも、この状況よりはマシだ。

 洒落にならない。今すぐに殺されると言われても納得してしまいそうな空気である。

 ああ、そう言うことなのか。

 今、文明からかけ離れた地にいる、恐らくは育ての親であろう両親様よ(失礼な)。私、忠夫は、今日を持って、この命を神という名のエゴイストに受け渡したいとか考えていますがどうでしょう?
 ―――お前のような息子を持った覚えはない―――そうですが。父よ、母よ。あなた方が地獄に落ちるのを、天国で嘲笑っていたいとか思っていますよ、ふふふ。
 特に、父。



 ・・・はっ。
 飛んでたぞ、さっき・・・意識が。
 えっと・・・まだ、二十分?
 話は・・・始まってないよな?

 って、美神さん、話ってなんなんですか・・・?
 それともやっぱり、殺す気なんですか・・・?



 「横島クン?」

 「は・・・はいっ!!」

 「・・・何怯えた声だしてんのよ?」

 あんたのせいだ、と言えればどれほど気持ち良いだろうか、とか思ったりする。

 「あ、すんませんっ!!」

 「別に謝らなくて良いわよ・・・。今日、書類が届いたんだけどね?」

 「はい・・・」

 「GS協会から。あんたの独立を認めなさいってさ」

 「・・・へ?」

 「一GSとして、もう立派に一人前の評価が下ったってことよ。分かるでしょ?」

 「いや、全然・・・」

 「誰かが、請求したらしいのよ。本来なら私の役目なんだけどね、これって」

 「はぁ・・・」

 「・・・要領を得ないって顔をしてるわね・・・」

 「はい・・・」

 「つまりね・・・私が言いたいのはぁ・・・」

 嫌な予感が―――いや、嫌な悪寒がした。

 「・・・あんたが誰に頼んでこんなもんを請求したのかってことなのよぉ!!!」

 「だぁぁぁ!!知らないです、そんなもん、申請なんて知らないですっ!!!」

 「そう」

 あれ、あっさりと引き下がった?

 「じゃあ・・・」

 何ですか?そのライターは・・・。

 「これ、要らないわよね」

 火・・・火を・・・点けおったぁぁぁ!!この女ぁぁぁぁ!!!

 端から火をつけられて燃えていく封筒、そして、その中に入れてある俺の独立申請書。

 「な・・・何するんすかぁ!!!」

 「何って?」

 「いや、・・・何で、燃やすんすかっ!!」

 「要らないんでしょ?これ。それとも・・・本当はあんた、申請しようとしたの?」

 「・・・知りませんよ。でも・・・こんなことすることないじゃないっすか・・・」

 「・・・独立するつもりなら・・・諦めなさいってことよ」

 「・・・!?」

 「一生、あんたは私のところにいるのっ!!」

 「・・・」

 「何よ・・・」

 「・・・何でもないっす。今日は・・・帰らせてもらうんで・・・」

 「ちょ・・・ちょっと待ちなさいよ・・・横島クン?」



 引出しから、取り出す封筒、さっきと全く同じ大きさと形。
 そして、取り出す。

 独立申請書―――担当者:美神令子
 志願者:横島忠夫


 「私が・・・先に申請しようと思ってたのに・・・勝手なことするからじゃない・・・」



 申請する事無く、見習いと言う立場に居る場合には、例え免許を持っていたとしても、その給金はわずかなものであるが、申請し、一人前のGSと言う資格を得た場合、二流と呼ばれる事務所でも、その給金は最低でも、月、100万円程度のものとなる。
 独立申請書はつまりは、見習の終了を意味する。その名前から勘違いされることも多いが、つまりはそういうことである。
勿論、その名前通りの意味でもある。
 独立するともなれば、多くのリスクを伴うとはいえ、実力さえあれば成り上がれる世界、その益は上限がない。―――そう、自分がその例にあるように。
 
 「驚かせようとしただけなのに・・・あんなに悲しい顔しなくても良いじゃない・・・」

 どうせ、いつかはこうなることくらいは分かっていた。
 きっと、これを申請しようとしたのは彼ではないだろう。
 ママか―――神父か―――ひょっとすれば西条さんかもしれない。

 でも・・・裏切られた気持ちになったのは事実だ。
 凄く身勝手。まるで子供のようだと言うことはわかってるんだけれど。


 「どうしよう・・・」

 嫌われてしまっただろうか?



 自分が―――酷く弱くなってしまったのを感じた。

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